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2章
2−14
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次の日、昨日と同じようにレイ様は森へ出かけていった。腹持ちのいいお菓子が食べたいとのことだったのでパウンドケーキを1本渡すと、レイ様は嬉しそうに受け取ってくれた。最初切り分けようとしたがレイ様がそのままかじり付くから問題ないと言っていそいそと収納と思しきバッグに詰めていた。
割ってしまった卵を渡すためハンナ、リクの三人で教会へ向かう。途中で卵を多めに購入して向かっていると途中で遠くに仰々しく歩いている一行を見かける。
最初に目に入ったのは鎧を身につけた兵だ。道の真ん中を歩いており、よく見ると兵の間に小柄な男性が手を後ろに組んで退屈そうな表情で歩いている。遠くからでもわかるくらい整髪料をベッタリとつけすぎて頭がテカテカと黒光りしている。フリルをゴテゴテとあしらった襟のついたシャツはお世辞にも趣味が良いとはいえない。その一行達を遠巻きにこそこそと町の住民たちが何やら囁き合っている。
「めずらしいわね」
「なかなか町に降りてこないのにね」
近くのご婦人方が眉を顰めている。思わず「あの」と声をかける。ご婦人方は私を見て「あら、可愛らしいわね」と表情を変えて笑顔を見せた。
話を聞くと先程の小柄の男性はこのキヨラの町長だという。町の丘の上に屋敷を構えており、子爵の出で元貴族らしく領主の遠縁の親戚らしい。
町長の仕事を任されているらしいがまったくと言っていいほど滅多に町に降りてこないという。たまに町へ来てはぶらついてレストランで食事をしたあとすぐ屋敷に帰って行くらしい。
仕事をしている様子はなく、秘書の方がもっぱら町と町長の屋敷を行き来して仕事をしているのは町民なら誰でも知っている話だと教えてくれた。
「もしかして子供が行方不明になっているからかしら?」
「まさか! 自警団を一応動かしてはいるけど、団長さんに任せっきりでしょう」
そう言ってご婦人方がまた井戸端会議を再開し始めたのを見てそっとその場を離れた。小さくなった町長へ視線を移し、その姿をぼーっと眺める。
「あれはカツラね」
そう口にするとハンナが吹き出した。
「お嬢様、なぜわかるのですか」
「だって、よく見ると頭頂部とサイドの地毛と色が微妙にあってないし……多分整髪料をあんなにつけているのも飛んでいかないように重さをつけているのね」
「真剣な顔で考察しないでいただけますか」
ハンナに顔を顰められて、リクは呆れた表情で私を見ている。解せぬ。
教会孤児院に着くと外では昨日と同じように子供達が数人遊んでいた。こちらに気づくとすぐさま「あー!」と大きな声を出しながら駆け寄ってくる。
「昨日の子だ! どうしたの?」
「マリウス神父とフローラに会いにきたの」
そういうと二人ほど神父とフローラを呼びに走って行った。待っているあいだにも子供達はリクを見て興味津々で質問を投げかけてくる。
リクは子供達の視線にどこか居心地悪そうにしている。
「ねえねえ、その子は魔物なの? それともねずみ? 猫?」
「魔物でもねずみでも猫でもないわ。なんだと思う?」
「うーん……なんだろ」
「僕わかるよ! 精霊でしょ!」
リクを精霊と言い当てたのは私より少し背が小さい男の子だった。少し癖っ毛のある赤毛が可愛らしい男の子だった。
「すごい! なんでわかったの?」
「えっとね、僕も精霊を見たことがあるんだよ」
「そうなの?」
「えっとね、ときどきお花を摘みに森へ行くときにみかけるんだよ」
そう言ったところで「ばか!」と横の男の子に肘で突かれる。
「森へ子供だけで行っているのですか?」
ハンナが少し驚いた表情でたずねると赤毛の男の子がまずいと思ったのか慌てて首を横に振る。
「カイお兄ちゃんとヨシュアお兄ちゃんがいるときにしか行ったことないよ」
カイとは昨日マリウス神父から聞いた行方不明の男の子だろう、ヨシュアという名前をどこかで最近聞いた気がする。ハンナを見ると耳元で「ダンテの息子の名前がヨシュアです」と言われた。脳裏に憔悴したダンテの顔が思い出される。同じ名前の子かもしれないと思いながらもたずねてみる。
「ヨシュアって……ここの子?」
「違うよー、御者のとこの子だよ」
リクとハンナの顔を見渡す。二人とも私の顔を見てコクリとうなずいた。どうやら行方不明の子供二人は友達だったようだ。
二人は森へ子供達を引率するほど足を運んでいたのか。突然黙ってしまった私に不安げな顔をして先程赤毛の子を肘で突いた男の子が顔を覗き込んだ。
「あのさ、今は行ってないから子供だけで森へ行ったこと内緒にしてくれないか」
それを聞いたハンナが眉を顰めた。
「森は危険なのですよ? 魔物も出るんです。ゴブリンやオークに遭遇したらあなた達はすぐに食べられてしまいます」
少し低い声で脅かすようにハンナがいうと男の子達は何人かサッと顔を青くした。
「でも俺たちもう何回も行ってるし、魔物なんか見たことないし」
一人のやんちゃそうな男の子が口にすると「そうだ」「見たことないな」と顔を青くした子達が口々に言い出す。
「わかってないですね……見たことがあったらあなた達はまずこうやって帰ってこられないでしょう? 遭遇してしまったらゴブリンやオーク達は襲いかかってきて無事には帰ってこれません」
ハンナが淡々と話し始める。この流れはもしや……お説教が始まるな。リクも同時に思ったのか魔物の恐ろしさを話し始めたハンナと聞き入っている子供達の輪から二人でこっそりと離れた。少し離れたところでその様子を見守りながらリクに小声で話しかけた。
「リク、さっきのどう思う?」
「カイとヨシュアいう少年のことですか」
「ええ、行方不明の二人が友達同士って何かあるのかもって考えすぎかしら」
「森に通っていたのも気になりますね」
そう話していると建物からマリウス神父がやってきた。
ハンナからのお説教で全員顔を青くさせている子供達に戸惑っている。
その後ハンナから森へ子供達だけで行っていたと聞いた神父は「後でお前達にはお話があります」と爽やかな笑顔で告げると子供達の顔はもっと青くなっていた。
マリウス神父の表情はエヴァンお兄様がシリルがやらかしたときに向ける笑顔に似ていた……。
割ってしまった卵を渡すためハンナ、リクの三人で教会へ向かう。途中で卵を多めに購入して向かっていると途中で遠くに仰々しく歩いている一行を見かける。
最初に目に入ったのは鎧を身につけた兵だ。道の真ん中を歩いており、よく見ると兵の間に小柄な男性が手を後ろに組んで退屈そうな表情で歩いている。遠くからでもわかるくらい整髪料をベッタリとつけすぎて頭がテカテカと黒光りしている。フリルをゴテゴテとあしらった襟のついたシャツはお世辞にも趣味が良いとはいえない。その一行達を遠巻きにこそこそと町の住民たちが何やら囁き合っている。
「めずらしいわね」
「なかなか町に降りてこないのにね」
近くのご婦人方が眉を顰めている。思わず「あの」と声をかける。ご婦人方は私を見て「あら、可愛らしいわね」と表情を変えて笑顔を見せた。
話を聞くと先程の小柄の男性はこのキヨラの町長だという。町の丘の上に屋敷を構えており、子爵の出で元貴族らしく領主の遠縁の親戚らしい。
町長の仕事を任されているらしいがまったくと言っていいほど滅多に町に降りてこないという。たまに町へ来てはぶらついてレストランで食事をしたあとすぐ屋敷に帰って行くらしい。
仕事をしている様子はなく、秘書の方がもっぱら町と町長の屋敷を行き来して仕事をしているのは町民なら誰でも知っている話だと教えてくれた。
「もしかして子供が行方不明になっているからかしら?」
「まさか! 自警団を一応動かしてはいるけど、団長さんに任せっきりでしょう」
そう言ってご婦人方がまた井戸端会議を再開し始めたのを見てそっとその場を離れた。小さくなった町長へ視線を移し、その姿をぼーっと眺める。
「あれはカツラね」
そう口にするとハンナが吹き出した。
「お嬢様、なぜわかるのですか」
「だって、よく見ると頭頂部とサイドの地毛と色が微妙にあってないし……多分整髪料をあんなにつけているのも飛んでいかないように重さをつけているのね」
「真剣な顔で考察しないでいただけますか」
ハンナに顔を顰められて、リクは呆れた表情で私を見ている。解せぬ。
教会孤児院に着くと外では昨日と同じように子供達が数人遊んでいた。こちらに気づくとすぐさま「あー!」と大きな声を出しながら駆け寄ってくる。
「昨日の子だ! どうしたの?」
「マリウス神父とフローラに会いにきたの」
そういうと二人ほど神父とフローラを呼びに走って行った。待っているあいだにも子供達はリクを見て興味津々で質問を投げかけてくる。
リクは子供達の視線にどこか居心地悪そうにしている。
「ねえねえ、その子は魔物なの? それともねずみ? 猫?」
「魔物でもねずみでも猫でもないわ。なんだと思う?」
「うーん……なんだろ」
「僕わかるよ! 精霊でしょ!」
リクを精霊と言い当てたのは私より少し背が小さい男の子だった。少し癖っ毛のある赤毛が可愛らしい男の子だった。
「すごい! なんでわかったの?」
「えっとね、僕も精霊を見たことがあるんだよ」
「そうなの?」
「えっとね、ときどきお花を摘みに森へ行くときにみかけるんだよ」
そう言ったところで「ばか!」と横の男の子に肘で突かれる。
「森へ子供だけで行っているのですか?」
ハンナが少し驚いた表情でたずねると赤毛の男の子がまずいと思ったのか慌てて首を横に振る。
「カイお兄ちゃんとヨシュアお兄ちゃんがいるときにしか行ったことないよ」
カイとは昨日マリウス神父から聞いた行方不明の男の子だろう、ヨシュアという名前をどこかで最近聞いた気がする。ハンナを見ると耳元で「ダンテの息子の名前がヨシュアです」と言われた。脳裏に憔悴したダンテの顔が思い出される。同じ名前の子かもしれないと思いながらもたずねてみる。
「ヨシュアって……ここの子?」
「違うよー、御者のとこの子だよ」
リクとハンナの顔を見渡す。二人とも私の顔を見てコクリとうなずいた。どうやら行方不明の子供二人は友達だったようだ。
二人は森へ子供達を引率するほど足を運んでいたのか。突然黙ってしまった私に不安げな顔をして先程赤毛の子を肘で突いた男の子が顔を覗き込んだ。
「あのさ、今は行ってないから子供だけで森へ行ったこと内緒にしてくれないか」
それを聞いたハンナが眉を顰めた。
「森は危険なのですよ? 魔物も出るんです。ゴブリンやオークに遭遇したらあなた達はすぐに食べられてしまいます」
少し低い声で脅かすようにハンナがいうと男の子達は何人かサッと顔を青くした。
「でも俺たちもう何回も行ってるし、魔物なんか見たことないし」
一人のやんちゃそうな男の子が口にすると「そうだ」「見たことないな」と顔を青くした子達が口々に言い出す。
「わかってないですね……見たことがあったらあなた達はまずこうやって帰ってこられないでしょう? 遭遇してしまったらゴブリンやオーク達は襲いかかってきて無事には帰ってこれません」
ハンナが淡々と話し始める。この流れはもしや……お説教が始まるな。リクも同時に思ったのか魔物の恐ろしさを話し始めたハンナと聞き入っている子供達の輪から二人でこっそりと離れた。少し離れたところでその様子を見守りながらリクに小声で話しかけた。
「リク、さっきのどう思う?」
「カイとヨシュアいう少年のことですか」
「ええ、行方不明の二人が友達同士って何かあるのかもって考えすぎかしら」
「森に通っていたのも気になりますね」
そう話していると建物からマリウス神父がやってきた。
ハンナからのお説教で全員顔を青くさせている子供達に戸惑っている。
その後ハンナから森へ子供達だけで行っていたと聞いた神父は「後でお前達にはお話があります」と爽やかな笑顔で告げると子供達の顔はもっと青くなっていた。
マリウス神父の表情はエヴァンお兄様がシリルがやらかしたときに向ける笑顔に似ていた……。
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