精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
43 / 91
2章

2−14

しおりを挟む
 次の日、昨日と同じようにレイ様は森へ出かけていった。腹持ちのいいお菓子が食べたいとのことだったのでパウンドケーキを1本渡すと、レイ様は嬉しそうに受け取ってくれた。最初切り分けようとしたがレイ様がそのままかじり付くから問題ないと言っていそいそと収納と思しきバッグに詰めていた。

 割ってしまった卵を渡すためハンナ、リクの三人で教会へ向かう。途中で卵を多めに購入して向かっていると途中で遠くに仰々しく歩いている一行を見かける。
 最初に目に入ったのは鎧を身につけた兵だ。道の真ん中を歩いており、よく見ると兵の間に小柄な男性が手を後ろに組んで退屈そうな表情で歩いている。遠くからでもわかるくらい整髪料をベッタリとつけすぎて頭がテカテカと黒光りしている。フリルをゴテゴテとあしらった襟のついたシャツはお世辞にも趣味が良いとはいえない。その一行達を遠巻きにこそこそと町の住民たちが何やら囁き合っている。
 
 「めずらしいわね」
 「なかなか町に降りてこないのにね」

 近くのご婦人方が眉を顰めている。思わず「あの」と声をかける。ご婦人方は私を見て「あら、可愛らしいわね」と表情を変えて笑顔を見せた。

 話を聞くと先程の小柄の男性はこのキヨラの町長だという。町の丘の上に屋敷を構えており、子爵の出で元貴族らしく領主の遠縁の親戚らしい。
 町長の仕事を任されているらしいがまったくと言っていいほど滅多に町に降りてこないという。たまに町へ来てはぶらついてレストランで食事をしたあとすぐ屋敷に帰って行くらしい。
 仕事をしている様子はなく、秘書の方がもっぱら町と町長の屋敷を行き来して仕事をしているのは町民なら誰でも知っている話だと教えてくれた。

 「もしかして子供が行方不明になっているからかしら?」
 「まさか! 自警団を一応動かしてはいるけど、団長さんに任せっきりでしょう」

 そう言ってご婦人方がまた井戸端会議を再開し始めたのを見てそっとその場を離れた。小さくなった町長へ視線を移し、その姿をぼーっと眺める。

 「あれはカツラね」

 そう口にするとハンナが吹き出した。

 「お嬢様、なぜわかるのですか」
 「だって、よく見ると頭頂部とサイドの地毛と色が微妙にあってないし……多分整髪料をあんなにつけているのも飛んでいかないように重さをつけているのね」
 「真剣な顔で考察しないでいただけますか」

 ハンナに顔を顰められて、リクは呆れた表情で私を見ている。解せぬ。



 教会孤児院に着くと外では昨日と同じように子供達が数人遊んでいた。こちらに気づくとすぐさま「あー!」と大きな声を出しながら駆け寄ってくる。

 「昨日の子だ! どうしたの?」
 「マリウス神父とフローラに会いにきたの」

 そういうと二人ほど神父とフローラを呼びに走って行った。待っているあいだにも子供達はリクを見て興味津々で質問を投げかけてくる。
 リクは子供達の視線にどこか居心地悪そうにしている。

 「ねえねえ、その子は魔物なの? それともねずみ? 猫?」
 「魔物でもねずみでも猫でもないわ。なんだと思う?」
 「うーん……なんだろ」
 「僕わかるよ! 精霊でしょ!」

 リクを精霊と言い当てたのは私より少し背が小さい男の子だった。少し癖っ毛のある赤毛が可愛らしい男の子だった。

 「すごい! なんでわかったの?」
 「えっとね、僕も精霊を見たことがあるんだよ」
 「そうなの?」
 「えっとね、ときどきお花を摘みに森へ行くときにみかけるんだよ」
 
 そう言ったところで「ばか!」と横の男の子に肘で突かれる。

 「森へ子供だけで行っているのですか?」

 ハンナが少し驚いた表情でたずねると赤毛の男の子がまずいと思ったのか慌てて首を横に振る。

 「カイお兄ちゃんとヨシュアお兄ちゃんがいるときにしか行ったことないよ」

 カイとは昨日マリウス神父から聞いた行方不明の男の子だろう、ヨシュアという名前をどこかで最近聞いた気がする。ハンナを見ると耳元で「ダンテの息子の名前がヨシュアです」と言われた。脳裏に憔悴したダンテの顔が思い出される。同じ名前の子かもしれないと思いながらもたずねてみる。

 「ヨシュアって……ここの子?」
 「違うよー、御者のとこの子だよ」

 リクとハンナの顔を見渡す。二人とも私の顔を見てコクリとうなずいた。どうやら行方不明の子供二人は友達だったようだ。
 二人は森へ子供達を引率するほど足を運んでいたのか。突然黙ってしまった私に不安げな顔をして先程赤毛の子を肘で突いた男の子が顔を覗き込んだ。

 「あのさ、今は行ってないから子供だけで森へ行ったこと内緒にしてくれないか」
 
 それを聞いたハンナが眉を顰めた。

 「森は危険なのですよ? 魔物も出るんです。ゴブリンやオークに遭遇したらあなた達はすぐに食べられてしまいます」

 少し低い声で脅かすようにハンナがいうと男の子達は何人かサッと顔を青くした。

 「でも俺たちもう何回も行ってるし、魔物なんか見たことないし」

 一人のやんちゃそうな男の子が口にすると「そうだ」「見たことないな」と顔を青くした子達が口々に言い出す。

 「わかってないですね……見たことがあったらあなた達はまずこうやって帰ってこられないでしょう? 遭遇してしまったらゴブリンやオーク達は襲いかかってきて無事には帰ってこれません」

 ハンナが淡々と話し始める。この流れはもしや……お説教が始まるな。リクも同時に思ったのか魔物の恐ろしさを話し始めたハンナと聞き入っている子供達の輪から二人でこっそりと離れた。少し離れたところでその様子を見守りながらリクに小声で話しかけた。

 「リク、さっきのどう思う?」
 「カイとヨシュアいう少年のことですか」
 「ええ、行方不明の二人が友達同士って何かあるのかもって考えすぎかしら」
 「森に通っていたのも気になりますね」

 そう話していると建物からマリウス神父がやってきた。
 ハンナからのお説教で全員顔を青くさせている子供達に戸惑っている。

 その後ハンナから森へ子供達だけで行っていたと聞いた神父は「後でお前達にはお話があります」と爽やかな笑顔で告げると子供達の顔はもっと青くなっていた。
 マリウス神父の表情はエヴァンお兄様がシリルがやらかしたときに向ける笑顔に似ていた……。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...