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2章
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しおりを挟む「今日もありがとうねえ! 助かるよ!」
威勢のいい声に笑顔で返事をしながらジャガイモの皮むきをする。ここ教会孤児院に通うようになってから私は厨房のお手伝いをしている。
最初魔法の訓練(私の場合、初歩の魔力訓練)でお世話になる際、マリウス神父からはフローラとお菓子作りをすることが条件になっていたものの、フローラは昼食前になると調理員さんと昼食と夕食の手伝いをしていることから私も一緒になってお手伝いをしている。
当初、私が手伝うことにフローラも調理員のサーニャさんも心配をしていたが、私が包丁でジャガイモの皮むきをしてみせると即刻許しを得ることができた。ハンナももちろん一緒に手伝っている。リクは手伝うことができないため教会孤児院内を子供に見つからないように散策しているようだ。
「それにしてもアリアは不思議ねえ……というか商人の娘でも料理はするものなのね」
フローラもジャガイモの皮むきをしながら私の方を見てしみじみと言う。そういうフローラも手慣れたものでどんどんジャガイモの皮がむかれていく。
「まあね! 料理はできるに越したことはないじゃない!」
商人の娘は料理をするか疑問だが、ごまかすしかないので慌てて言うと「いや、お嬢様は例外といいますか……」とハンナがボソッとツッコミを入れる。そんなハンナを無視して話を続ける。
「それに! サーニャさんの料理は見てて勉強になるわ」
「嬉しいことを言ってくれるね! ただの家庭料理なんだけどね」
サーニャさんは通いで来ている調理員の中年の女性だ。恰幅のある威勢のいい女性でアリアにも気さくに接してくれる。フローラがサーニャさんとおしゃべりをしながら厨房の手伝いをしているのも何だか頷けるぐらい気のいい人である。
屋敷の厨房に出入りはするものの、それはお菓子作りのときだけで、さすがに食事の準備は手伝うことはできなかったので包丁で野菜の皮を剥くこと自体が新鮮だ。しかも家庭料理を作るところなんてなかなかお目にかかれないので自分にとっては楽しい時間だった。
フローラとハンナと大量にジャガイモの皮むきをしている横でサーニャさんは水に晒したジャガイモをどんどん切っていく。
今日は農家から大量にジャガイモの寄付があったそうだ。お腹も膨れるし使い勝手も良いし私もジャガイモは大好きだ。
屋敷ではよく料理長がジャガイモでガレットを作ってくれたことを思い出す。お父様はそれに大量のチーズをかけるものだからお母様に健康のために止められたっけ。
そんなことを思い出して少し胸が締め付けられる。慌ててそれを振り払うようにジャガイモの皮むきに集中する。
小さな子供じゃないんだからホームシックになるなんて……。
「ほら、味見してみな」
突然横からスッと小皿とフォークが手渡された。小皿の上には先程焼き上がったジャガイモとゆで卵などを重ねてオーブンで焼いたものだ。
受け取ってフォーク刺してふうふうと冷ましながら口に入れる。ジャガイモがホクホクで上にかかったチーズが熱くて美味しい。薄く切ったドライソーセージの塩気が噛むほど味が広がっていく。
「美味しい……」
思わずぽつりとこぼすとサーニャさんはニカッと笑った。
「味見は作り手の特権だよ。アリアちゃん」
何となくその笑顔に涙が出そうになるのをグッと堪えた。サーニャさんは私の背中をぽんぽんと叩いてまた作業に戻っていく。
その様子をみていたハンナが気遣わしげに隣にやってくる。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
ホームシックになりかけているだなんて言えないので「何でもないわ。美味しかったから屋敷でも作ってみたいなって思っただけ」と適当にごまかした。
作業に再び戻ると、厨房の入り口からマリウス神父が声をかけてきた。
「サーニャさん、すみませんが少し出掛けてきます」
マリウス神父はいつもの司祭服ではなくシャツにスラックスといったシンプルな出立ちだった。マリウス神父はこちらの方を見て「アリアさん、魔法の訓練の時間までには戻りますからね」と微笑んだ。マリウス神父を見送るとサーニャさんは先程までマリウス神父がいた入り口を見てふうとため息をついた。
「マリウス神父様も大変だねえ、あの町長に会いにいくなんて」
不思議に思っているとサーニャさんは苦笑した。サーニャさんの話によると、町長のもとへ月に何度かマリウス神父は教会孤児院への運営費や修繕費などの予算引き上げの打診に行っているそうだ。教会孤児院の運営費などは教会本部から支払われるものではなく、それぞれ教会がある町が教会の予算を出している。ここキヨラの教会孤児院は貧しくはないものの余裕があるわけでもない。マリウス神父は月に何度か町長のもとへ教会の運営の予算の引き上げの打診に行っているそうだ。
「予算を引き上げるのは難しいことですの?」
「一応は少しずつ上がってきてはいるみたいだけどねえ……まあ、あとあの町長は結構マリウス神父様のこと気に入ってるみたいだからね」
もしかしてこの町に着いた日に宿にいたのも町長と会っていたのだろうか……。そういえばあのときマリウス神父に声をかけられたんだっけ。不審者扱いして申し訳なかった。
というかあの町長に気に入られるとはさすがマリウス神父……。
反対に私は初対面でカツラを取ったところを見てしまったし、絶対目をつけられているだろうなとどこか暗い気持ちになりながらジャガイモの皮をむき続けた。
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