60 / 91
2章
2−31
しおりを挟む
午後からマリウス神父の指導のもと魔法の訓練が始まる。マリウス神父は昼食後には帰ってきたようで訓練の時間にはいつものように司祭服に着替えていた。
「では、本日も魔力の訓練からやっていきましょう」
言われた通りお腹のおへそのあたりに魔力を集中させていく。魔力を集めていくイメージでゆっくりと自分の中で丸く形を作っていく。丸く形をイメージしていくのはマリウス神父に教わった。呼吸に合わせて魔力の枝をゆっくり身体中に伸ばしていく。だんだん指先が暖かくなっていく。足先までぽかぽかとしてきたときだった。頭のてっぺんから足の指先までまるでじんわりと温かいお湯に包まれた気がした。
「できた……?」
ゆっくりと目を開けると目の前にマリウス神父が驚いた表情で私を見ていた。恐る恐る自分の手を見ると心なしか光の膜のようなものが覆っている。
「成功ですね! アリアさん! そのまま維持していきましょう」
マリウス神父が声をかけた。嬉しさが込み上げてくるもそれを押しとどめて魔力を維持することを意識していく。
すると覆っていた膜のような魔力が風船が萎んでいくように小さくなって霧散してしまった。
「ああっ!」
思わず声を上げるとその様子を見ていたマリウス神父が苦笑した。
「集中が切れてしまいましたね」
「やっぱり難しいですね。でもコツは掴めたような気がします」
初めてできたのが嬉しくて笑顔でマリウス神父を見上げる。──マリウス神父の表情に一瞬違和感を覚えた。
マリウス神父は微笑んだ表情を崩してはいないものの、その笑みになぜか少し背筋に寒気を感じた。
「すごーい! やっぱりアリアちゃんはすごいねえ!」
横からイアンに声をかけられてハッとする。マリウス神父はいつもの朗らかな雰囲気に戻っていた。「イアンも見習って頑張りなさいね」とイアンに声をかけた。
私の気のせいかな……?
その日は少し心にしこりを残して魔力の訓練を終えたのだった。
魔力の訓練を終えた後にフローラとお菓子を作った後、食堂にいつまで経ってもイアンが来ないので心配したフローラと手分けして探すことになった。
イアンはフローラの二つ下の弟で私と同い年だ。最初年下と思っていたので同い年と知ってお互い驚いたものだ。
イアンは私より背も小さく、喋り方も少し幼く感じるものの同年代の男の子たちといつも一緒に活発に遊びまわっている。
同い年の子ってみんなこんな感じなのだろうか……。だとしたら私って少しずつ変わっているかも?と思うも、女の子は精神的成長が早いって前世で言ってたし!とあまりそれ以上は考えないようにした。
注意深く探していると中庭の隅っこの花壇の影にイアンとリクが並んで座っているのを発見した。二人で何やら話をしているようだった。不思議に思ってゆっくり近づくと、リクは私に気付いたようで目線をこちらに向けた。それを見たイアンも私に気づく。
「あ! アリアちゃんだ! どうしたの?」
「フローラとお菓子をまた作ったの。イアンが来ないから探しにきたのよ」
「そうなんだ! ありがとう。じゃあ、急がなきゃ僕の分がなくなっちゃう」
そう言って慌てて立ち上がって駆け出す。思い出したようにくるりと振り返ってリクに向かって「また話そうね!」と笑顔で手を振った。リクはコクリと頷くとイアンは満足そうにしてまた背を向けて走り去っていった。
その背中をぼんやりと眺め、見送ってからリクに近づく。
「めずらしいわね。てっきり子供達を避けているかと思っていたわ」
そう言うと少しリクはばつが悪そうな様子で髭をしょんぼりとさせた。
「たまたま、見つかってしまって声をかけられたのです」
「なんの話をしていたの?」
「精霊について興味があるようで質問攻めにあっていました」
げんなりした様子で答えるリクに少し笑いそうになる。リクは「それと」と真剣な声音で続けた。
「カイとヨシュアに連れられて森へ行っていたときのことを聞いていたのです」
「それで……?」
カイとヨシュアに連れられて森へ行った際に子供達は何をしていたかというと森で食べられる木の実や、薬草について二人から教わっていたそうだ。ただ、子供達から目を離すことはなく勝手な行動をした子供がいたら注意してしっかりと引率していたらしい。時々カイとヨシュアが交代でいなくなることがあったそうで、イアンが不思議に思ってカイにたずねると「みんなには内緒だよ」とこっそり教えてくれたそうだ。
「それが……『友達に会いに行っているんだ』と──」
「それって……もしかして精霊のこと?」
「可能性は高いと思われます。あと、気になることをカイがイアンに言っていたようで」
そこまで言うとリクは少し言い淀んだ。不思議に思って首を傾げるとリクは口を開いた。
「イアンは魔力量が高いことをカイは心配していたようでして」
「心配? どうして?」
「それがわからないのですが、『ここを出ることになったら信用できる外の人に連れてってもらって』と……」
外の人……。
「このこと、マリウス神父は?」
「知らないようです。イアンも私に『絶対に誰にも言わないでほしい』と」
先程のマリウス神父の顔がよぎった。
「この話はとりあえずここだけの話にしておきましょう」
ざわざわと嫌な胸騒ぎを覚えた。気のせいだと頭を振り払って今は考えないようにし、リクを黙って抱き抱えた。
リクは怪訝そうに「お嬢様?」とたずねるも私は「なんでもないけどしばらくこうさせて」と言うしかなかった。
「では、本日も魔力の訓練からやっていきましょう」
言われた通りお腹のおへそのあたりに魔力を集中させていく。魔力を集めていくイメージでゆっくりと自分の中で丸く形を作っていく。丸く形をイメージしていくのはマリウス神父に教わった。呼吸に合わせて魔力の枝をゆっくり身体中に伸ばしていく。だんだん指先が暖かくなっていく。足先までぽかぽかとしてきたときだった。頭のてっぺんから足の指先までまるでじんわりと温かいお湯に包まれた気がした。
「できた……?」
ゆっくりと目を開けると目の前にマリウス神父が驚いた表情で私を見ていた。恐る恐る自分の手を見ると心なしか光の膜のようなものが覆っている。
「成功ですね! アリアさん! そのまま維持していきましょう」
マリウス神父が声をかけた。嬉しさが込み上げてくるもそれを押しとどめて魔力を維持することを意識していく。
すると覆っていた膜のような魔力が風船が萎んでいくように小さくなって霧散してしまった。
「ああっ!」
思わず声を上げるとその様子を見ていたマリウス神父が苦笑した。
「集中が切れてしまいましたね」
「やっぱり難しいですね。でもコツは掴めたような気がします」
初めてできたのが嬉しくて笑顔でマリウス神父を見上げる。──マリウス神父の表情に一瞬違和感を覚えた。
マリウス神父は微笑んだ表情を崩してはいないものの、その笑みになぜか少し背筋に寒気を感じた。
「すごーい! やっぱりアリアちゃんはすごいねえ!」
横からイアンに声をかけられてハッとする。マリウス神父はいつもの朗らかな雰囲気に戻っていた。「イアンも見習って頑張りなさいね」とイアンに声をかけた。
私の気のせいかな……?
その日は少し心にしこりを残して魔力の訓練を終えたのだった。
魔力の訓練を終えた後にフローラとお菓子を作った後、食堂にいつまで経ってもイアンが来ないので心配したフローラと手分けして探すことになった。
イアンはフローラの二つ下の弟で私と同い年だ。最初年下と思っていたので同い年と知ってお互い驚いたものだ。
イアンは私より背も小さく、喋り方も少し幼く感じるものの同年代の男の子たちといつも一緒に活発に遊びまわっている。
同い年の子ってみんなこんな感じなのだろうか……。だとしたら私って少しずつ変わっているかも?と思うも、女の子は精神的成長が早いって前世で言ってたし!とあまりそれ以上は考えないようにした。
注意深く探していると中庭の隅っこの花壇の影にイアンとリクが並んで座っているのを発見した。二人で何やら話をしているようだった。不思議に思ってゆっくり近づくと、リクは私に気付いたようで目線をこちらに向けた。それを見たイアンも私に気づく。
「あ! アリアちゃんだ! どうしたの?」
「フローラとお菓子をまた作ったの。イアンが来ないから探しにきたのよ」
「そうなんだ! ありがとう。じゃあ、急がなきゃ僕の分がなくなっちゃう」
そう言って慌てて立ち上がって駆け出す。思い出したようにくるりと振り返ってリクに向かって「また話そうね!」と笑顔で手を振った。リクはコクリと頷くとイアンは満足そうにしてまた背を向けて走り去っていった。
その背中をぼんやりと眺め、見送ってからリクに近づく。
「めずらしいわね。てっきり子供達を避けているかと思っていたわ」
そう言うと少しリクはばつが悪そうな様子で髭をしょんぼりとさせた。
「たまたま、見つかってしまって声をかけられたのです」
「なんの話をしていたの?」
「精霊について興味があるようで質問攻めにあっていました」
げんなりした様子で答えるリクに少し笑いそうになる。リクは「それと」と真剣な声音で続けた。
「カイとヨシュアに連れられて森へ行っていたときのことを聞いていたのです」
「それで……?」
カイとヨシュアに連れられて森へ行った際に子供達は何をしていたかというと森で食べられる木の実や、薬草について二人から教わっていたそうだ。ただ、子供達から目を離すことはなく勝手な行動をした子供がいたら注意してしっかりと引率していたらしい。時々カイとヨシュアが交代でいなくなることがあったそうで、イアンが不思議に思ってカイにたずねると「みんなには内緒だよ」とこっそり教えてくれたそうだ。
「それが……『友達に会いに行っているんだ』と──」
「それって……もしかして精霊のこと?」
「可能性は高いと思われます。あと、気になることをカイがイアンに言っていたようで」
そこまで言うとリクは少し言い淀んだ。不思議に思って首を傾げるとリクは口を開いた。
「イアンは魔力量が高いことをカイは心配していたようでして」
「心配? どうして?」
「それがわからないのですが、『ここを出ることになったら信用できる外の人に連れてってもらって』と……」
外の人……。
「このこと、マリウス神父は?」
「知らないようです。イアンも私に『絶対に誰にも言わないでほしい』と」
先程のマリウス神父の顔がよぎった。
「この話はとりあえずここだけの話にしておきましょう」
ざわざわと嫌な胸騒ぎを覚えた。気のせいだと頭を振り払って今は考えないようにし、リクを黙って抱き抱えた。
リクは怪訝そうに「お嬢様?」とたずねるも私は「なんでもないけどしばらくこうさせて」と言うしかなかった。
10
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる