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2章
2−32
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その日の夜、夢の中でまたあの場所にいた。長い石階段の麓でアズがしゃがんで鼻歌を歌っている。
三回目ともなると慣れた私は声をかけることもせず黙ってその様子を眺める。さわさわと木々が風で揺らめいている。
程なくして白銀の髪の人物が霧と共に現れた。やはり顔はなぜかもやがかかって見えない。
「来たのか」
現れるなりアズに声をかけると、アズはすぐさま立ち上がって嬉しそうに白銀の髪の人物にしがみついた。ぎゅうぎゅうと袴を握りしめて顔を埋めるアズを振り払うこともせず白銀の髪の人物は呆れたようにため息を吐いた。
「お前、何回も来てるがここには何も面白いものはないぞ」
「ふふふ。楽しいんだもーん! それに私のお名前アズだよ! 『お前』ってお名前じゃないよ!」
そう言われても白銀の髪の人物は「フン」と鼻で笑った。
「お前は『お前』でじゅうぶんだ」
そんなことを言われてもアズは気にした様子もなくゴソゴソと肩にかけている小さなカバンから何かを取り出した。取り出したのは可愛く花柄でラッピングされた何かだった。アズは包み紙を開けると「あ!」と声を上げた。よく見るとそこには花の形やハート型であったであろうクッキーが割れてところどころ欠けたり真っ二つになってしまっていた。
先程までの元気はどこへやらアズはしょんぼりと肩を落とし、項垂れた。
「せっかく頑張ってアズが作ったのに……割れちゃった……さっき来る途中転んじゃったから……」
そう小さく呟いて目に涙を浮かべている。よく見るとアズの膝小僧には転んでしまって時間が経った、血が固まった擦り傷があった。
痛々しい姿に思わず握り拳を作るも「これは夢なんだから私には何もできない」と自分に言い聞かせる。よほどショックだったのか、アズはじっと割れたクッキーを見つめている。
すると白銀の髪の人物は大きくため息を吐いてアズの目の前にしゃがんで目線を合わせた。不思議に思って見ているとその人物はアズの手のひらから割れたクッキーを手に取って口に入れた。咀嚼音が響き渡る。アズは目を真ん丸にして驚いた表情で白銀の髪の人物を見つめた。
「フン、お前が作ったにしてはまあまあだな」
白銀の髪の人物はなおもアズの手から割れたクッキーを取り口に運ぶ。
「割れちゃったんだよ……?」
恐る恐るといった様子でアズが声をかけると白銀の髪の人物はクッキーを手に取ってアズの口に放り込んだ。アズがびっくりした様子でモグモグと食べる。
「どうだ? 口に入れば形など一緒だろう」
偉そうにそう言うと白銀の髪の人物はアズの転んで血が固まった擦り傷におもむろに手をかざす。すると傷がスッと跡形もなく消えてなくなった。
アズはそれを見てさっきより目をいっぱいに見開いて驚きの表情を見せた。
「すっ、ごおおおい!!」
アズは感激したようで足をバタバタとさせた。
「フン! こんなもの俺にかかれば朝飯前だ!」
白銀の髪の人物は立ち上がって胸を張った。アズはきょとんとさせて「朝ごはん食べてないの?」とたずねると白銀の髪の人物はガクッと肩を落とすとすぐさま「そういう意味ではない」とため息をつく。私はというと先程の出来事に驚きを隠せないでいた。傷を癒すなんて見たことがなかったからだ。
すごい……治癒魔法? 一体何者なんだろう?
私がぐるぐると考えているのをよそに目の前の二人は階段の麓に並んで腰掛けてのんびりと割れたクッキーをつまみはじめた。アズは嬉しそうにクッキーを作ったときのことを白銀の髪の人物に話している。白銀の髪の人物はというと相槌も打たず木々を眺めながら無言でクッキーを口に運んでいた。
「また〇〇に作ってくるね!」
笑顔でアズが言うと白銀の髪の人物は「フン」とそっぽを向いた。
その途端意識が遠のいていく。
瞼を開けると数日しか滞在していないのだが見慣れた宿の天井だった。
「やっぱり……」
夢か。そんなことを思ってベッドから起き上がるとあたりは夜が明ける前なのかまだ薄暗い。ハンナはまだ寝ているのか物音がしない。音を立てずにそっと起き上がり、カーテンの隙間から窓の外を覗いてみると外の通りの向かいの建物の影で三人ほどの男達が何やら話をしているようだった。こんな朝早くから仕事で動き出す人もいるのかとぼーっとその様子を眺めていると一人は見覚えのある鎧を身に着けていることに気がついた。
どこかで見たような……。
思い出せずにいる寝起きの頭をふるふると振る。窓の外では鎧を身に着けた男はそのまま手に持った兜を被った。その瞬間思わず「あ!」と声を上げそうになった。ドキドキしながら手で口元を押さえた。
男達はそのまま何か言葉を交わすと散り散りにどこかへ去っていった。その姿を眺めながら脳裏には数日前の出来事を思い起こす。
鎧を身に着けている男はキヨラの町長についていた護衛騎士と同じ鎧を身に着けていた。
なんでこんな早朝に……?しかもなんでこの宿の近くに?
護衛ならばわざわざ町長の元を離れて町にいることに違和感を覚えた。非番ならわざわざ鎧を身に付けているのもおかしい。
町長の指示を受けて抜け出していると考えるのが妥当だ。
夢の内容も忘れて、私はしばし窓の外を眺めていた。外はもう朝焼けが町に広がり始めていた。
三回目ともなると慣れた私は声をかけることもせず黙ってその様子を眺める。さわさわと木々が風で揺らめいている。
程なくして白銀の髪の人物が霧と共に現れた。やはり顔はなぜかもやがかかって見えない。
「来たのか」
現れるなりアズに声をかけると、アズはすぐさま立ち上がって嬉しそうに白銀の髪の人物にしがみついた。ぎゅうぎゅうと袴を握りしめて顔を埋めるアズを振り払うこともせず白銀の髪の人物は呆れたようにため息を吐いた。
「お前、何回も来てるがここには何も面白いものはないぞ」
「ふふふ。楽しいんだもーん! それに私のお名前アズだよ! 『お前』ってお名前じゃないよ!」
そう言われても白銀の髪の人物は「フン」と鼻で笑った。
「お前は『お前』でじゅうぶんだ」
そんなことを言われてもアズは気にした様子もなくゴソゴソと肩にかけている小さなカバンから何かを取り出した。取り出したのは可愛く花柄でラッピングされた何かだった。アズは包み紙を開けると「あ!」と声を上げた。よく見るとそこには花の形やハート型であったであろうクッキーが割れてところどころ欠けたり真っ二つになってしまっていた。
先程までの元気はどこへやらアズはしょんぼりと肩を落とし、項垂れた。
「せっかく頑張ってアズが作ったのに……割れちゃった……さっき来る途中転んじゃったから……」
そう小さく呟いて目に涙を浮かべている。よく見るとアズの膝小僧には転んでしまって時間が経った、血が固まった擦り傷があった。
痛々しい姿に思わず握り拳を作るも「これは夢なんだから私には何もできない」と自分に言い聞かせる。よほどショックだったのか、アズはじっと割れたクッキーを見つめている。
すると白銀の髪の人物は大きくため息を吐いてアズの目の前にしゃがんで目線を合わせた。不思議に思って見ているとその人物はアズの手のひらから割れたクッキーを手に取って口に入れた。咀嚼音が響き渡る。アズは目を真ん丸にして驚いた表情で白銀の髪の人物を見つめた。
「フン、お前が作ったにしてはまあまあだな」
白銀の髪の人物はなおもアズの手から割れたクッキーを取り口に運ぶ。
「割れちゃったんだよ……?」
恐る恐るといった様子でアズが声をかけると白銀の髪の人物はクッキーを手に取ってアズの口に放り込んだ。アズがびっくりした様子でモグモグと食べる。
「どうだ? 口に入れば形など一緒だろう」
偉そうにそう言うと白銀の髪の人物はアズの転んで血が固まった擦り傷におもむろに手をかざす。すると傷がスッと跡形もなく消えてなくなった。
アズはそれを見てさっきより目をいっぱいに見開いて驚きの表情を見せた。
「すっ、ごおおおい!!」
アズは感激したようで足をバタバタとさせた。
「フン! こんなもの俺にかかれば朝飯前だ!」
白銀の髪の人物は立ち上がって胸を張った。アズはきょとんとさせて「朝ごはん食べてないの?」とたずねると白銀の髪の人物はガクッと肩を落とすとすぐさま「そういう意味ではない」とため息をつく。私はというと先程の出来事に驚きを隠せないでいた。傷を癒すなんて見たことがなかったからだ。
すごい……治癒魔法? 一体何者なんだろう?
私がぐるぐると考えているのをよそに目の前の二人は階段の麓に並んで腰掛けてのんびりと割れたクッキーをつまみはじめた。アズは嬉しそうにクッキーを作ったときのことを白銀の髪の人物に話している。白銀の髪の人物はというと相槌も打たず木々を眺めながら無言でクッキーを口に運んでいた。
「また〇〇に作ってくるね!」
笑顔でアズが言うと白銀の髪の人物は「フン」とそっぽを向いた。
その途端意識が遠のいていく。
瞼を開けると数日しか滞在していないのだが見慣れた宿の天井だった。
「やっぱり……」
夢か。そんなことを思ってベッドから起き上がるとあたりは夜が明ける前なのかまだ薄暗い。ハンナはまだ寝ているのか物音がしない。音を立てずにそっと起き上がり、カーテンの隙間から窓の外を覗いてみると外の通りの向かいの建物の影で三人ほどの男達が何やら話をしているようだった。こんな朝早くから仕事で動き出す人もいるのかとぼーっとその様子を眺めていると一人は見覚えのある鎧を身に着けていることに気がついた。
どこかで見たような……。
思い出せずにいる寝起きの頭をふるふると振る。窓の外では鎧を身に着けた男はそのまま手に持った兜を被った。その瞬間思わず「あ!」と声を上げそうになった。ドキドキしながら手で口元を押さえた。
男達はそのまま何か言葉を交わすと散り散りにどこかへ去っていった。その姿を眺めながら脳裏には数日前の出来事を思い起こす。
鎧を身に着けている男はキヨラの町長についていた護衛騎士と同じ鎧を身に着けていた。
なんでこんな早朝に……?しかもなんでこの宿の近くに?
護衛ならばわざわざ町長の元を離れて町にいることに違和感を覚えた。非番ならわざわざ鎧を身に付けているのもおかしい。
町長の指示を受けて抜け出していると考えるのが妥当だ。
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