精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−45

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 「おい、見てこいよ」

 ロックが警戒した様子で仲間の鎧を着た男に言うと、男は黙ってうなずいてドアの隙間から外を確認してからゆっくりと扉を開けて出ていった。
 魔力のゆらぎのようなものは感じたままだ。ぞわぞわと何かが這い寄ってくる感覚がおさまらず気味が悪い。
 思わずイアンの方を見るとイアンも感じたのか私の方を見てうなずいた。
 数分たった後、足音がしてゆっくりと扉が開かれた。一瞬ロックが身構えるも仲間だとわかりホッとしたようだった。

 「何だった?」

 ロックがたずねると男は戸惑った様子で「それが……」と言い淀む。その様子に苛立ったロックは「ハッキリ言えよ」と大きな声を出した。

 「し、死んでた……」
 「あ? 何がだよ」
 「いつもの子供を引き渡す商人……そこで倒れてて……息してなかった」

 途端に焦り出す男に対して、ロックは動揺しながらも「魔物か?」とたずねた。すると男は首を横に振った。

 「いや、それが……外傷がなくて」
 「外傷がない……?」

 怪訝そうに聞き返すと男はガタガタと震え出した。

 「はぐれ精霊だ……!昔ばあちゃんが言ってたんだ! この森で魂を抜くはぐれ精霊がいるって!」

 ガタガタと震える男にロックは顔を顰めた。

 「何言ってんだお前、魂を抜く精霊なんざ聞いたことねえぞ」
 「お前は他所から来た奴だから知らねえんだよ! ここいらじゃ昔、はぐれ精霊が人間の魂を抜いて死人がたくさん出たことがあったんだよ」
 「何だよそれ……」

 絶句するロックを横目に鎧の男は落ち着きのない様子で辺りをうろうろとし始めた。

 魂を抜く精霊。私は以前リクから聞いた妖精の話を思い出していた。男が言っている魂を抜く精霊とは十中八九リクが話していた妖精のことだろう。
 この近くに妖精がいるのだろうか。そう考えていると鎧の男は思い立ったようにロックに告げた。

 「なあ、ここから出て町長様のとこに行こう」
 「は? ちょっと待てよ! こいつを探し回っている冒険者の男がいたらどうすんだよ」
 「もし会ったら魔導具で眠らせときゃいいだろ」
 「これは回数制限あんだよ。神父様に言われてさっきこのガキ達に使っちまったしな、もったいねえからあまり使いたくねえ」

 そう言って腰に携えた剣と一緒にぶら下がっている皮袋を握りしめた。今朝、捜索したときにも見たのでおそらくあれがリクが言っていた「嫌な魔導具」のことだろう。そして私が先程マリウス神父と話しているときに気分が悪くなって意識がなくなったのもあの魔道具のせいかもしれない。
 レイ様達が探してくれている……。
 リクやハンナの顔が浮かび、鼻の奥がツンとした。涙が出そうになるのを堪えて唇を噛み締める。泣いている場合じゃないと頭を振る。
 ロックとやりとりをしていた鎧の男は苛立ったように「じゃあ、俺が一人で行って聞いてくる」と言って勢いよくドアから出て行ってしまった。

 「ったく……」

 虚しくロックの独り言が部屋に響いたときだった。先程出て行った鎧の男の叫び声がすぐ近くで聞こえた。

 「チッ、何だよ。おい、大人しくしてろよ」
 
 そう言って顔をこわばらせたロックがドアを開けるとそこにはふわふわと光の物体が浮かんでいた。を見た途端、私の身体が警鐘を鳴らすように鼓動が速くなる。一見すると下位精霊のような小さな光を放っているが、明らかに精霊とは違う異質な魔力だ。

 「なんだ?」

 ロックが訝しげに腰に携えている剣を鞘から抜いたときだった。

 「あは! ここにもいたんだ!」

 どこからか声が聞こえてきたかと思うとドアの前に立っていたロックが膝から崩れ落ちた。ロックの顔を見ると目を開けたまま固まったように動かない。
 明らかに意識はなくなっている。顔も青白く、ポッカリと生命力だけが抜け落ちたように感じられる。 
 それを見た私がショックで固まっていると後ろからイアンが「アリアちゃん、これって……」と声を掛けて我に帰った。

 「やっぱり人間の魂は何だか元気になるね!」

 無邪気な声でとんでもないことを喋っているのはやはりふよふよと宙に浮いているこの光の物体だろう。さっきよりも少し光が大きくなっている気がする。恐怖で体が震えてしまいそうになりながらも、私は思い切って目の前の光の物体に話し掛けた。

 「ねえ、あなたは妖精なの?」

 するとふよふよと浮かんでいた光の物体はこちらにスーッと近づいてきた。顔の前まできたとき思わず叫び出しそうになるのを堪えて目の前の光の物体をよく見てみると小さな小人のような出立ちで顔立ちは一見人間のようだが大きな白目がない黒い目だけでまつ毛もなく鼻は低い。虫の羽のような翅脈しみゃくが通った薄い4枚の羽を生やしている。
 魔力量が多くない人が見れば一見下位の精霊に見えてしまうこともあるだろう。

 「人間の子供かあ! 人間の子供は違うのかなー」

 そう言って私の言葉には返答せず、私たちの周りをくるくると飛び回る。

 「あのー、妖精さん?」
 「女王様に聞いた方がいいかな? でもお腹いっぱいだしなー、仲間を呼んでこようかな、どうしようかな」
 「もしもーし……」
 「でも仲間に教えるのもったいないしなー」

 全然話が通じない……!
 どうしようか途方にくれているときだった。



 「まあいいや! 怒られちゃうかもだし今食べちゃお!」
   
 妖精がこちらを見てニイッっと笑った。

 

 
 
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