精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−62

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 思考の波に沈んでいると名前を呼ばれてハッとする。

 「ごめんなさい、いろいろ考えちゃって……」
 「おいおい、大丈夫か?」

 ヨシュアが呆れたように言いながらも私の顔を覗き込む。「大丈夫よ」と微笑むとヨシュアはなぜか顔を赤くしてそっぽを向いた。
 不思議に思っているとイアンがフローラの背後から出てきて「アリアちゃん」と声をかける。

 「あのとき言えなかったんだけど……助けにきてくれてありがとう」
 「私こそ、その前に助けにきてくれてありがとう。あの小屋でイアンと二人じゃなかったら今頃とっくにどうにかなっていたわ」

 イアンが途端に泣きそうな表情になる。

 「僕、あれから後悔してて……なんであの人のこと信じちゃったんだろうって」
 「イアン……」

 私はイアンの前に立ち、俯いてギュッと拳を握りしめているイアンの手を取った。

 「私はマリウス神父が何を考えていたのかなんて誰にもわからないと思うわ。全部が嘘かもしれないし、そうじゃないかもしれない。全部じゃなくて一部分だけでも本当だったって思ってもいいと思う。あなたの気持ちは誰のものでもないし、どう思うかは自由だわ」

 そう言うとイアンは顔を上げて私の顔を見た。

 「僕は……食べるものや寝る場所を与えてくれたこと、魔法を教えてくれたり、眠れないときに話をしてくれたこと、喧嘩したときに慰めてくれたことは全部騙すためなんかじゃないって思いたい……だって、神父様がしてくれたことは本当のことだから」

 イアンの瞳から涙が溢れ落ちる。ハンカチを取り出してイアンの頬の涙を拭うと、イアンは私の手を握り返して微笑んだ。

 「ありがとう。アリアちゃん」

 私がうなずいたところでハンナが横から出てきてイアンの私の手を握ったままの腕を軽く手刀で振り落とした。イアンが思わず「わっ」と声を上げるとハンナは「時間切れです」と無表情で言い放つ。

 「そういえばあの冒険者のやつは一緒じゃねえのか」

 ヨシュアが私にその場の空気を変えるようにたずねてきた。

 「レイ様のこと? レイ様は今自警団の方に顔を出しているんじゃないかしら」

 朝食を一緒に摂ったあと、レイ様は夕方には戻ると言って出ていった。何気なくリクの方を見ると、リクはカイと会話しているようだった。
 カイはしゃがんでリクを見ながらニコニコしている。

 「ねえ、リリュとはあれから会ったの?」


 そうたずねると「んー、抜け道が使えなくなるからしばらく会いにこれねえって言いに行ったんだ」となぜか複雑そうな表情を見せた。首を傾げるとヨシュアは小声で話し出した。
 なんでもカイがその場でリリュに向かって「契約してほしい」と言ったという。リリュはというと断ったという。

 「どうして」
 「リリュは「ずっと待っているから」って……それ以上は教えてくれなかったけど」

 はぐれ精霊であるリリュはいったい誰を待っているのだろうか。私がそれを聞くことはないけどいつかリリュの願いが叶いますようにと心の中で願った。

 「アリア、俺冒険者になろうと思う」

 突然ヨシュアがそう言うと、今までそれぞれ会話していたみんながこちらをいっせいに振り向いた。視線を向けられてヨシュアがたじろぐ。

 「ヨシュア! 本当に?」

 ハンナと会話していたフローラがヨシュアに詰め寄った。

 「お、おう。ミルランタのギルマスのヒューズさんにいろいろ聞いて、カイが魔法学園に入る前にこの町を出ることにしたんだ」
 「聞いてない!」

 フローラが大きな声を出すのでカイがたしなめる。


 「それにしても急だね。ダンテさんには話したの?」
 「ああ、父さんにも話してある」

 息子が行方不明になって帰ってきたと思ったら家を出ることを告げられたダンテさんを少し気の毒に思っていると「それで」と私の方に向き直って話を続けた。

 「また会えるか?」

 こちらを伺うような表情でヨシュアが私を見つめる。

 「ええ! 私も会いたいし、みんなとこれからももっとお話したいわ!」

 そういってヨシュアの顔を見てからカイやフローラ、イアンの方を見渡す。視界の端の方でヨシュアがなぜかガックリと肩を落としていた。
 するとフローラがいきなりガバッと抱きついてきた。

 「アリア! 私もよ!」

 以前より力加減をして私を優しく抱きしめるその腕にクスッと笑いながら私もそっと腕を回す。私より少しだけ背が高いフローラは温かくて石鹸と陽だまりの香りがした。
 
 

 この町、キヨラではいろいろなことがあった。
 けれどたくさんの出会いがあったし、たくさん考えさせられることもあった。旅の目的をまだ果たせていないけど、この町に来てよかったと私は心から思えた。
 
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