猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ

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 周りの景色が王宮の明るい執務室から一転、あたりは薄暗い部屋に移り変わった。
 小脇に抱えられた天音は即座に抜け出し、飛び降りる。室内をよく見ると液体の入ったビーカーのようなものが置いてあったり、本や紙の束がそこらじゅうに置かれている。天井からは何やら怪しげなしなびた草花がぶら下がっている。

 (き、汚え……)

 天音があまりの汚さにドン引きしていると、すぐそばで鼻歌を歌いながらテオドールが山積みになった本と紙の束をガサガサと探っている。

 「あ!あった!あった!」

 取り出した一枚の紙を眺めながら何やらニヤニヤしている。その姿を見て危機感を感じた天音はこの室内から脱出できるところはないかとキョロキョロと見渡した。
 本棚がたくさんあるにもかかわらず、あちこちに本は散らばっており、壁沿いには本がこれでもかと高く積まれているのでまず壁が見えない。
 窓の方はというと上の方に天窓があるが、埃かぶっていて固く閉じられている。これから何をされるのかと冷や汗をかいていると、テオドールがブツブツと身の丈ほどある杖をこちらに向けて呪文のような言葉を唱え出す。
 「やばい」と思ったときにはすでに遅し、多数の光がどこからか現れて天音を包み込んだ。

 「にゃあああああああ(やめろおおおおおお)」

 しばらくすると光が徐々に消えていく。眩しさに目を瞑っていた天音は少しずつ瞼を開けた。
 床に降ろしている尻がなんだかいつもより冷たいし肌寒い。目線も先程より高い。床に爪を立てたつもりがうまく爪が出てこない。

 (ま、まさか……)

 はくはくと口を動かしながら天音が自分の手を確認するとこの数ヶ月で見慣れた肉球はなく、人間の掌がそこにはあった。
 人間のときにあった手のひらのホクロの位置もそのままだ。懐かしい感触に手を開いたり閉じたりと動かす。

 「やーっぱり普通の猫じゃなかったね」

 テオドールがニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。その声を聞いてビクッと肩を動かした天音はこちらを見下ろすテオドールを見上げた。

 「……あ……っ」
 「ん~喋れないの?人間に戻るの久しぶりとか?」

 そう言いながら懐から包み紙を取り出して天音の目の前でしゃがんで細長い指で口を無理やり開けさせる。

 「んぐっ!」

 何かを口に突っ込まれてすぐにそれが甘いキャンディーだと気づく。コロコロと口の中で転がすと先程まで乾き切ってうまく声が出せなかっただんだんと潤って喉が開いてくるのがわかる。
 その様子を観察していたテオドールは先程とは一転、飄々とした表情がスッと消え失せた。蛇のような獲物を捕らえたような目つきで天音に問いかけた。


 「君は何者なんだい?」
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