猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ

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無神経な王子

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 「で、私の可愛い部下が休みなのはあなたがうっかり地雷を踏んでしまったからだと」
 「そう何度もいうな」

 咎めるような視線を受けて居心地悪そうにするエリオットは先ほどのことを思い出していた。
 ひとしきり泣き止むまで側にいてやると我に帰った天音が顔を真っ赤にしてペコペコと頭を下げてきたのを思い出し思わずふっと口元を緩ませた。
 
 (あれはなんだか可愛かったな)

 「ちゃんと謝ったんでしょうね?」

 ずいっと言い寄られたエリオットは口うるさい侍従から顔を背ける。泣き腫らした顔のまま仕事に向かおうとしたので慌てて止めたエリオットは今日は休日を言い渡したのだった。その後不安そうな表情で「クビ、ですか?」とたずねてきたので「今日はゆっくり休んで、明日からまた励め」と声を掛けるとホッとした表情で頭を下げて帰っていった。

 ──ちなみに謝ってはいない。

 「あ!その顔は謝ってませんね!」

 長い付き合いでユエルはエリオットの性格を熟知していた。人見知りで無愛想なせいか人との関わりが極端に少ないエリオットが人に謝るなんてできるはずがない。はあとため息をついたユエルは頭を抱えた。人付き合いが得意ではないエリオットがうまく立ち回れるように色々とサポートしてきたのがこんなところで裏目に出るとは。
 
 天音はよく働く。よく働くからこそどうしてもユエルは心配になってしまう。ここにきて休みを取ったのはほんの二日ほど。しかもその二日は新しく住む王城の寮に引っ越しで休んだだけ。勤務時間は暗くなる前に帰るので残業などはしないが、いつも就業時間前にはきちんと着席して仕事を始めている。
まともな休日を言い渡しても、王城に出てはあちこちから頼まれる雑用を引き受けているようだった。それがあるから早くにここに馴染めたのもあるだろうが天音と一緒に働き出して好ましい印象を持つようになっただけにユエルは心配していた。

 天音は自分の故郷のことはあまり話さない。一度東の方の国のことをたずねてみると、困った表情をして黙りこくってしまったので慌てて謝ってそれ以来話題に出さないようにしていた。
 テオドールにたずねてみるも、テオドールは「故郷?ああーもう帰れなさそうだしね」といったきり何も話さなかった。
 呪いのせいで故郷を追い出されたのかもしれない……なんてことを考えたユエルは自分の弟たちの顔が浮かび、それから天音にいっそう優しくするようになった。

 それに最近自分の主人であるエリオットが天音と話す姿をちょくちょく見かけることで主人の人見知りが少しづつ解けてきていることに安心して頭の隅に追いやっていたのをすっかり失念していた。
 天音はまだ十八歳の(本人が強調していた)少年なのだ。

 「はー……無神経な質問をしたくせに謝ることもできないとは……まあ、休みを言い渡しただけでもあなたにしてはよくやったほうでしょう」
 「おい、俺を冷血人間かなんかと勘違いしていないか」

 一応エリオット自身も無神経なことを質問したのは自覚しているのでユエルに強く出れないでいた。
 罰が悪そうな表情のエリオットにユエルは人差し指をピッと突き出した。



 「絶対に謝ってくださいね」
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