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ジョシュ達が実体化したのは、真新しい倉庫の中だった。天井は高く広々とし、ヨラヌス艦もそこに到着している。と、倉庫の左側にある小屋のような建物からタルボルと、ジョシュが最初に艦長と勘違いをしていたヨラヌス人がやって来た。
「どうも、デビット艦長。ヨラヌス星へようこそ」
ずんぐりとした体格のタルボルは、赤子のように肉づきのよい手を差し出してきた。ジョシュはその手をしっかり握り、歓迎を受ける者に相応しい笑みを返した。
「こちらは船医長のワイズ・キルトンです」
ワイズもタルボルと握手を交わし、ジョシュはもう1人のモハンドと名乗った副艦長と握手を交わした。
「トラボタヌ石は、貴方達に害が及ばぬよう厳重な箱に入れて運びます」
歩き出したタルボルに続き、ジョシュ達も足を進めた。
「で、その精製工場と言うのはどこにあるんです?」
今まさに、トラボタヌ石の入った重厚な箱が、ヨラヌス艦から運び出されてくるところだった。箱は慎重にリフトへと乗せられ、タルボルの部下達は艦長に頷いた。
「この先にあります。ご案内致しましょう」
倉庫の扉が大きく開かれると、赤茶色の広大な土地が視野一面に広がった。遠くには町があり、工場はここより少しだけ離れた場所に建造されている。
「宇宙連邦軍からの医師と探査班は、既に工場へおります」
ゆっくりとした速度で進むリフトに合わせ、タルボルも歩調を遅くしていた。モハンド副艦長はずっと黙ったまま、艦長の左後方から着いてくる。
「荒れた土地と思われるだろうが、我々にとってここは、故郷なのだ。ここで生まれ、育ち、そして死ぬ……争いもなく、平和で、何の不自由もない」
工場は、近付くにつれその外観を鈍く光らせた。四角い箱のようなそれは、他の何物も受け付けないとでも言うように、窓もなくただ平面だった。
「失礼ながら、貴方達は宇宙連邦の平和軍に加入はしないのですか?」
ワイズが真面目な顔で尋ねた。するとタルボルは足を止め、そんな船医長を見遣った。
「もう何年も打診は受けているが、我々の長がそれを良しとはしておらん。勿論私も、そのようなものは必要ないと考えているのだよ」
そう言ったタルボルは、再び歩き出した。その視線は高く、赤紫色の空を見上げている。
「君達宇宙連邦軍は、確かに平和的だ。多くの知識や物資を我々に与えるだろう。だが、変化はいらないのだ。変化が起これば、我々の文明も変化するだろう。脈々と受け継がれてきた文明がな」
工場は──ジョシュが視認する限り──ビルの3階建てに相当する高さだった。壁に埋め込まれるようにある鋼鉄の扉が異質さを放って設置されており、重々しい音を立てながら開かれる。
「どうぞお入り下さい。貴方達には、上の別室で精製の様子を見て頂きます」
扉の向こうにはまた扉があった。だが、タルボルが壁に備え付けられているボタン──上下に2つある──の上の方を押すと、ジョシュ達のいる床がせり上がった。どうやらリフトにもなっているようだ。
「この工場は、トラボタヌ石精製以外にも使われているのですか?」
リフトが停止し、新たな鋼鉄の扉が目の前に現れた。
「主に、薬剤の調合に使用しております。この惑星にヨラヌス人は、8000もいるので」
扉を潜ると、左右に通路が伸びていた。その右側へと、タルボルは進んで行く。
「我々ヨラヌス人は、元来抵抗力があまりないのです。だから医師は、なくてはならぬ存在なのです。貴方達の艦から看護婦長を許可なく借りたのは、そこに理由がありました。申し訳なかったと思っています」
案内された別室は、山小屋のように簡素だったが、モハンドがスイッチを入れると壁が透明になり、階下の様子を一望出来るようになった。
「私は精製の様子を見てきますが、何かあればモハンドに言って下さい。ここにいさせますから」
そう言うと、タルボルは部屋を出て行った。残されたモハンドは、階下を眺めるジョシュ達を見つめている。
「あの、モハンドさん、すみませんが、艦と連絡をとっても構いませんか?定期的に連絡をするようになっているので」
「はい、構いませんよ」
無表情に言い、モハンドは部屋の隅に移動した。ジョシュは通信器を取り出すと、アルテミス号のブリッジを呼び出した。
「こちらはジョシュ・デビットだ。ファイ、我々は無事ヨラヌス星に転送降下し、現在精製工場にいる。そっちは問題ないかい?」
暫くして、冷静な副艦長の答えが返ってきた。
『はい、こちらは問題ありません。怪我人の治療も終え、現在待機中です』
「そうか。またこちらから連絡する、以上」
通信器をパチンと閉じると、ワイズが食い入るように作業を眺めていた。丸い目が更に丸くなり、まるで驚いているようだ。
「見ろよジョシュ。あれは凄いぞ!」
ジョシュもワイズの隣に立ち、工場を見回した。建物は2階建てになっていて、1階の作業場の天井が高くなっている。その中央に、巨大なミキサーのような機械がどっしりと陣取り、その回りで作業員達は、それぞれの業務に勤しんでいた。
「あの機械でトラボタヌ石を粉砕します。それからパイプを伝って隣の機械に流し込み、銀と混ぜ合わせます」
モハンドの説明に、ワイズは興味深げに頷いている。
「確か……こちらへ派遣された調査団体に、モル・ポプラ博士がいらっしゃいましたね?」
彼は宇宙連邦において、異星生体学に精通し、いくつも報告を行っている著名な学者だ。ジョシュもポプラの報告書を、アカデミーの図書館で読んだ事があった。
「いらっしゃいます。ポプラ博士は、ヨラヌスの医師団体と何度も面会され、今は下におられます」
──作業が済めば、会ってみたいものだな……
そんな風に、ジョシュは思っていた。
「どうも、デビット艦長。ヨラヌス星へようこそ」
ずんぐりとした体格のタルボルは、赤子のように肉づきのよい手を差し出してきた。ジョシュはその手をしっかり握り、歓迎を受ける者に相応しい笑みを返した。
「こちらは船医長のワイズ・キルトンです」
ワイズもタルボルと握手を交わし、ジョシュはもう1人のモハンドと名乗った副艦長と握手を交わした。
「トラボタヌ石は、貴方達に害が及ばぬよう厳重な箱に入れて運びます」
歩き出したタルボルに続き、ジョシュ達も足を進めた。
「で、その精製工場と言うのはどこにあるんです?」
今まさに、トラボタヌ石の入った重厚な箱が、ヨラヌス艦から運び出されてくるところだった。箱は慎重にリフトへと乗せられ、タルボルの部下達は艦長に頷いた。
「この先にあります。ご案内致しましょう」
倉庫の扉が大きく開かれると、赤茶色の広大な土地が視野一面に広がった。遠くには町があり、工場はここより少しだけ離れた場所に建造されている。
「宇宙連邦軍からの医師と探査班は、既に工場へおります」
ゆっくりとした速度で進むリフトに合わせ、タルボルも歩調を遅くしていた。モハンド副艦長はずっと黙ったまま、艦長の左後方から着いてくる。
「荒れた土地と思われるだろうが、我々にとってここは、故郷なのだ。ここで生まれ、育ち、そして死ぬ……争いもなく、平和で、何の不自由もない」
工場は、近付くにつれその外観を鈍く光らせた。四角い箱のようなそれは、他の何物も受け付けないとでも言うように、窓もなくただ平面だった。
「失礼ながら、貴方達は宇宙連邦の平和軍に加入はしないのですか?」
ワイズが真面目な顔で尋ねた。するとタルボルは足を止め、そんな船医長を見遣った。
「もう何年も打診は受けているが、我々の長がそれを良しとはしておらん。勿論私も、そのようなものは必要ないと考えているのだよ」
そう言ったタルボルは、再び歩き出した。その視線は高く、赤紫色の空を見上げている。
「君達宇宙連邦軍は、確かに平和的だ。多くの知識や物資を我々に与えるだろう。だが、変化はいらないのだ。変化が起これば、我々の文明も変化するだろう。脈々と受け継がれてきた文明がな」
工場は──ジョシュが視認する限り──ビルの3階建てに相当する高さだった。壁に埋め込まれるようにある鋼鉄の扉が異質さを放って設置されており、重々しい音を立てながら開かれる。
「どうぞお入り下さい。貴方達には、上の別室で精製の様子を見て頂きます」
扉の向こうにはまた扉があった。だが、タルボルが壁に備え付けられているボタン──上下に2つある──の上の方を押すと、ジョシュ達のいる床がせり上がった。どうやらリフトにもなっているようだ。
「この工場は、トラボタヌ石精製以外にも使われているのですか?」
リフトが停止し、新たな鋼鉄の扉が目の前に現れた。
「主に、薬剤の調合に使用しております。この惑星にヨラヌス人は、8000もいるので」
扉を潜ると、左右に通路が伸びていた。その右側へと、タルボルは進んで行く。
「我々ヨラヌス人は、元来抵抗力があまりないのです。だから医師は、なくてはならぬ存在なのです。貴方達の艦から看護婦長を許可なく借りたのは、そこに理由がありました。申し訳なかったと思っています」
案内された別室は、山小屋のように簡素だったが、モハンドがスイッチを入れると壁が透明になり、階下の様子を一望出来るようになった。
「私は精製の様子を見てきますが、何かあればモハンドに言って下さい。ここにいさせますから」
そう言うと、タルボルは部屋を出て行った。残されたモハンドは、階下を眺めるジョシュ達を見つめている。
「あの、モハンドさん、すみませんが、艦と連絡をとっても構いませんか?定期的に連絡をするようになっているので」
「はい、構いませんよ」
無表情に言い、モハンドは部屋の隅に移動した。ジョシュは通信器を取り出すと、アルテミス号のブリッジを呼び出した。
「こちらはジョシュ・デビットだ。ファイ、我々は無事ヨラヌス星に転送降下し、現在精製工場にいる。そっちは問題ないかい?」
暫くして、冷静な副艦長の答えが返ってきた。
『はい、こちらは問題ありません。怪我人の治療も終え、現在待機中です』
「そうか。またこちらから連絡する、以上」
通信器をパチンと閉じると、ワイズが食い入るように作業を眺めていた。丸い目が更に丸くなり、まるで驚いているようだ。
「見ろよジョシュ。あれは凄いぞ!」
ジョシュもワイズの隣に立ち、工場を見回した。建物は2階建てになっていて、1階の作業場の天井が高くなっている。その中央に、巨大なミキサーのような機械がどっしりと陣取り、その回りで作業員達は、それぞれの業務に勤しんでいた。
「あの機械でトラボタヌ石を粉砕します。それからパイプを伝って隣の機械に流し込み、銀と混ぜ合わせます」
モハンドの説明に、ワイズは興味深げに頷いている。
「確か……こちらへ派遣された調査団体に、モル・ポプラ博士がいらっしゃいましたね?」
彼は宇宙連邦において、異星生体学に精通し、いくつも報告を行っている著名な学者だ。ジョシュもポプラの報告書を、アカデミーの図書館で読んだ事があった。
「いらっしゃいます。ポプラ博士は、ヨラヌスの医師団体と何度も面会され、今は下におられます」
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そんな風に、ジョシュは思っていた。
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