2 / 13
第一章:ゼフィル
2.
しおりを挟む
──10年後
ゼフィルは30歳になっていたが、強奪を止める事はしなかった。
「よくもまぁ、またこんなに稼いだもんだなぁ、フィニーさんよぉ!」
性懲りもなくゼフィルは裕福な家に押し入り、盗んだばかりの宝石や金貨を、愛馬に跨がりながら眺めていた。すると、近くを流れるアーツ河から水を汲んで帰ってきたキャロラインが、すぐさまゼフィルに歩み寄った。
「また来たの?いい加減にしなさい、ゼフィル!」
美しく成長したキャロラインは、ゼフィルを見上げると、水瓶を脇に置きながら鋭く言った。
柔らかな金髪は腰まで伸び、ゼフィルからしてみれば、多分街で1番愛らしかった。
「お前もな、キャル。いい加減俺に説教するのは止めな」
盗品を腰からぶら下げている麻袋に仕舞うと、ゼフィルはキャロラインと視線を絡めた。
「いいえ、止めないわ!貴方が盗みを止めて、まっとうに働くまではね!」
おてんばで勝ち気な性格は、幼少時代から変わらない。ゼフィルはうんざりした顔をしながらも、こうしたキャロラインとのやり取りが好きだった。
彼女は美しい。そして凛々しくもあり、ゼフィルは気に入っていた。
「まっとうに働いたって、お役人どもの取り立ては緩みはしねぇよ」
そう言うとゼフィルは手綱を握り直し、愛馬の向きを変えた。するとキャロラインは、ゼフィルに飛び付いてきた。いつもと違うやり取りに驚いたゼフィルは、咄嗟にキャロラインの手を払い除けた。
「きゃあっ!」
体制を崩したキャロラインは、運悪く水瓶の上に倒れてしまった。壊れた水瓶は中の水を溢れさせ、そしてその鋭い破片はキャロラインの頬を切り裂いた。
それまで黙って2人のやり取りを傍観していた群衆は、どよめきを上げた。
「……っ」
大量の血が流れ、キャロラインは苦悶に顔を歪めながら頬を押さえた。それを見ていたゼフィルは言葉を無くしたが、慌てて馬から下りてキャロラインの前に屈んだ。
「お、おい、キャル……」
痛みに涙を浮かべるキャロラインは、そっと手を出すゼフィルに笑いかけると、大丈夫、と呟いた。
「アンタ、よくもうちの娘に怪我を負わせたわね!」
キャロラインの母親が、凄まじい形相でゼフィルからキャロラインを奪った。そしてそのまま家に入ると、それを見ていた群衆も散って行った。
残されたゼフィルは唇を噛み締めながらも、愛馬に跨がって自身の住み家へと戻って行った。
ゼフィルは30歳になっていたが、強奪を止める事はしなかった。
「よくもまぁ、またこんなに稼いだもんだなぁ、フィニーさんよぉ!」
性懲りもなくゼフィルは裕福な家に押し入り、盗んだばかりの宝石や金貨を、愛馬に跨がりながら眺めていた。すると、近くを流れるアーツ河から水を汲んで帰ってきたキャロラインが、すぐさまゼフィルに歩み寄った。
「また来たの?いい加減にしなさい、ゼフィル!」
美しく成長したキャロラインは、ゼフィルを見上げると、水瓶を脇に置きながら鋭く言った。
柔らかな金髪は腰まで伸び、ゼフィルからしてみれば、多分街で1番愛らしかった。
「お前もな、キャル。いい加減俺に説教するのは止めな」
盗品を腰からぶら下げている麻袋に仕舞うと、ゼフィルはキャロラインと視線を絡めた。
「いいえ、止めないわ!貴方が盗みを止めて、まっとうに働くまではね!」
おてんばで勝ち気な性格は、幼少時代から変わらない。ゼフィルはうんざりした顔をしながらも、こうしたキャロラインとのやり取りが好きだった。
彼女は美しい。そして凛々しくもあり、ゼフィルは気に入っていた。
「まっとうに働いたって、お役人どもの取り立ては緩みはしねぇよ」
そう言うとゼフィルは手綱を握り直し、愛馬の向きを変えた。するとキャロラインは、ゼフィルに飛び付いてきた。いつもと違うやり取りに驚いたゼフィルは、咄嗟にキャロラインの手を払い除けた。
「きゃあっ!」
体制を崩したキャロラインは、運悪く水瓶の上に倒れてしまった。壊れた水瓶は中の水を溢れさせ、そしてその鋭い破片はキャロラインの頬を切り裂いた。
それまで黙って2人のやり取りを傍観していた群衆は、どよめきを上げた。
「……っ」
大量の血が流れ、キャロラインは苦悶に顔を歪めながら頬を押さえた。それを見ていたゼフィルは言葉を無くしたが、慌てて馬から下りてキャロラインの前に屈んだ。
「お、おい、キャル……」
痛みに涙を浮かべるキャロラインは、そっと手を出すゼフィルに笑いかけると、大丈夫、と呟いた。
「アンタ、よくもうちの娘に怪我を負わせたわね!」
キャロラインの母親が、凄まじい形相でゼフィルからキャロラインを奪った。そしてそのまま家に入ると、それを見ていた群衆も散って行った。
残されたゼフィルは唇を噛み締めながらも、愛馬に跨がって自身の住み家へと戻って行った。
0
あなたにおすすめの小説
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
側妃の愛
まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。
王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。
力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。
Copyright©︎2025-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる