a story

たける

文字の大きさ
3 / 13
第一章:ゼフィル

3.

しおりを挟む
ゼフィルの住み家は──街の外れにある──深い森の中の洞窟だった。湿ってごつごつした岩は、眠るのに適してはいない。だがゼフィルはここに住み続けている。
盗んだ宝物はゼフィルの手元にはない。それらの大半を、貧しい家に分け与えていたからだ。
ゼフィルにとってその行為は、特別なものではない。ただ気紛れに、分けた方がいいと思ったからやっている事だった。だから感謝もされたくなく、こうして1人でいるのだった。
だが今日は違う。
1人きりが嫌になるぐらい、気が滅入っていた。
原因は分かっていた。キャロラインに傷を負わせたからだ。

「すまない……」

誰とはなしに呟き、そして頭を抱えた。


──どうすれば彼女の傷は癒えるだろう?
どうすれば許されるだろう?


そんな事を考えながら、徐々に沈み行く太陽を眺めていた。
やがて陽が落ちると、ゼフィルは再び愛馬に跨がり街へ出た。街頭の下には人はまばらで、物請いの姿もない。そんな石畳を進みながらキャロラインの家の前に着くと、丁度彼女が玄関から出てきたところだった。
暗闇の中でも分かるそのシルエットは、庭先にある納屋へ向かっている。ゼフィルは馬から下りると、キャロラインを呼んだ。

「キャル……」
「まぁ……ゼフィル……」

振り返ったキャロラインは声のトーンを落とし、ゼフィルの元へ近付いてきた。その顔には痛々しく、包帯が巻かれている。

「どうしたの?」
「すまない、キャル……あんな事……その、怪我をさせるつもりはなかったんだ」

ゼフィルは昼間の事を詫びた。だがキャロラインは笑った。

「気にしないで、ゼフィル。こんな傷、すぐに治るから」

優しい笑顔に胸が痛くなる。

「だが……」

それ以上言葉は続かなかった。ただ苦しくて、愛しい。
ゼフィルはキャロラインを愛していた。

「本当に、気にしないで。だからもう行って、ゼフィル」

家の様子を気にしながらそう言うと、キャロラインは納屋から薪をいくつか持ち出し、そのまま家に戻って行った。その姿をずっと見つめたまま、ゼフィルはキャロラインの傷が早く癒えるようにと願った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...