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たける

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第一章:ゼフィル

4.

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だが願いは虚しく、キャロラインの傷は1ヶ月経っても治らなかった。深い傷は3センチもあり、彼女の美しい顔に影を落としていた。
あれからもゼフィルは盗みを続けていたが、キャロラインの事が頭から離れなかった。
だがもうすぐ、その傷を癒してやる事が出来る。
ゼフィルは骨董店から、ある宝石を盗んでいた。それは見目も美しいブルーサファイアで、あるいわくが噂されているものだった。
その曰くとは、ブルーサファイアを手にした者は、どんな願いでも叶う。だが実際叶えて貰った者は、ある日忽然と姿を消してしまう、と言うものだった。
ゼフィルがブルーサファイアを盗んだ時、同じ箱に古文書のような巻物が入っていた。それを──焚き火に照らしながら──開いてみると、願いを叶える方法が記されていた。
噂を半ば信用していなかったゼフィルだが、藁にもすがる気持ちだった為、この古文書に信憑性を見出だした。


──これでキャルの傷を治してやるんだ……


そう決めていたゼフィルは、古文書に記されている手順通り、自身の掌をナイフで切りつけ、溢れ出たその血を、ブルーサファイアに垂らした。見る間に美しい青は鮮血に包まれて行く。
暫くそうしてから、ゼフィルは自身のマントを破いて包帯代わりにすると、左掌をきつく縛った。そして待った。
するとブルーサファイアから奇妙な煙が上がり、洞窟内に充満し始めた。ゼフィルはそれを見上げながら、あの曰くは本当だったのだと確信した。

「俺の願いを叶えてくれ!」

そう立ち上がりながら言うと、煙は人形を成して行った。それを見ながらゼフィルの胸は希望に高鳴っていたが、やがて──現れた者の姿を見て──愕然とした。

「オレを呼び出したのは貴様か?」

嗄れた声に、真っ黒い肌。目はつり上がり、瞳は炎のように真っ赤だった。

「あ……悪魔……か?」

そう喘ぐように言うと、それは笑って首肯した。

「いかにも悪魔だ。だが、名はある。ポルポトだ」

鋭い爪の生えた大きな手を差し出すと、悪魔はそう名乗った。


──あの曰くは、本当だ……


ゼフィルは恐怖に全身を戦慄かせた。だが、キャロラインの傷が治るなら、悪魔とだって契約してやる、と、自身を奮い立たせた。

「早速だが、俺の願いを叶えて欲しい」

人差し指を握って握手の代わりにすると、ゼフィルは洞窟内で窮屈そうにしている巨体を見上げた。

「いいだろう。だが、叶えてやる前に契約書にサインをするんだ」

そう言ってポルポトは、何処かしらか契約書を出すと、ゼフィルの前に差し出した。それに視線を落としたが、何と書かれてあるかは読めなかった。

「何て書いてあるんだ?」
「読まなくても契約しろ。さもなければ、取引は破棄する」

その言葉に怒りを覚えたが、ゼフィルは思った。悪魔との契約は──書物に書かれてあるように──自らの命を差し出す事なんだろう、と。


──この命と引き換えにキャロラインが幸せを取り戻すなら、構わない。


ゼフィルは、契約書に自身の血で名前を書いた。それを見たポルポトは──満足そうに頷くと──聞いた事もない言葉を言ってからゼフィルの頭を掴んだ。
ゼフィルは身長が180もあったが、ポルポトに掴まれた頭はまるでリンゴのように小さいと感じた。

「お前に力を与えた。これから願いを叶えるといい」
「叶えたら、契約は成立するって訳だな?」

全身に力がみなぎっている。
ゼフィルがそう言うと、ポルポトは笑って頷いた。

「あぁ、成立だ……」




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