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「ねぇ、チェイス。あっちの仕事は順調?」
同じ書店に勤めるアンディ・ハルバートが声をかけてきた。
「お前には関係ない」
棚に溜まった雑誌の返品作業をしなければならない。
「そんな事ないよ。だって君んとこでもミカは働いてるんだ」
この草食系オタク男子が才女と交際しているとは信じ難い。が、現実にそうなのだ。トムは未だに1人身だが。
「順調だ」
雑誌の山を月刊誌と週刊誌に分けながら、嘘をつく。
「いいや、君は嘘をついているぞ。その汗を舐めたらきっと嘘の味がするはずだ!」
そう言って顔を近づけたアンディを睨み、トムは眉間の皺を更に深く刻んだ。
「たくさんだよ、お前の妙な知識は!」
「妙とは失礼だな。ブチャラティだって、汗を舐めてジョルノの嘘を見抜いたんだぜ?」
このオタクが、と口の中で呟きながら、トムは早く探偵業が軌道に乗れば、と願わずにはいられなかった。
荷物の片付けも終わり、ジュリアは一息つく為にコーヒーをミルにセットした。
ご近所には、引っ越してきてこれからお世話になる、と言う意味を込め、自分で焼いたクッキーを配った。だが、隣の住人はまだ帰っていない。向いのサマンサによると、流行らない探偵事務所をしている、堅苦しい男だとか。
「どんな人だろうね?」
拾ったハムスターの為に、ついさっき近所のペットショップでカゴを──勿論、この店からハムスターは1匹も脱走していなかった──買ってきた。その中でグレッグ──ジュリアがハムスターに名付けた──は、ひまわりの種をかじっている。
やがてコーヒーの支度ができ、ジュリアは出来立ての熱い液体をカップに注いだ。すると隣の家から、扉の鍵を開ける音が聞こえた。
──帰ってきたんだ。
急いでクッキーを皿に盛り付け直し、部屋を出る。やはり隣の住人は帰宅したらしく、窓から灯りが漏れていた。
時刻はもう22時を回っていたが、ジュリアは思いきって呼び鈴を鳴らした。
「誰だ?」
低い声が扉の向こうから聞こえた。
「隣に越してきたジュリア・バートンと言います。これからお世話になります。あの、クッキーを焼いたんですが、よかったら……」
急に扉が開き──トランクス1枚の姿だ──体格のいい男が出てきた。思わず絶句し、ジュリアは男を見つめた。
スポーツマンのように短い黒髪。そしてサマンサが言っていたように、堅苦しそうな仏頂面をしている。だがハンサムだと思った。
「はじめまして……あの?」
漸く口を開いた。男はまだ黙ってジュリアを見ている。
「お名前は……?」
──私より10歳は上かしら……
そんな事を考えていると、男も漸く日を開いた。
「チェイスだ」
そう言うなり、チェイスはジュリアから皿を受け取った。
「これからよろしくお願いします、それじゃあ!」
ジュリアは踵を返し、急いで部屋へ戻った。頬が熱い。改めてチェイスの容貌にまた顔が熱くなる。
「グレッグ、明日はバイトの面接なの。受かるかしら?」
懸命にチェイスの姿を頭から消そうと、ジュリアは冷めたコーヒーを飲んだ。
今は隣人の事など考えている暇などないのだ。
同じ書店に勤めるアンディ・ハルバートが声をかけてきた。
「お前には関係ない」
棚に溜まった雑誌の返品作業をしなければならない。
「そんな事ないよ。だって君んとこでもミカは働いてるんだ」
この草食系オタク男子が才女と交際しているとは信じ難い。が、現実にそうなのだ。トムは未だに1人身だが。
「順調だ」
雑誌の山を月刊誌と週刊誌に分けながら、嘘をつく。
「いいや、君は嘘をついているぞ。その汗を舐めたらきっと嘘の味がするはずだ!」
そう言って顔を近づけたアンディを睨み、トムは眉間の皺を更に深く刻んだ。
「たくさんだよ、お前の妙な知識は!」
「妙とは失礼だな。ブチャラティだって、汗を舐めてジョルノの嘘を見抜いたんだぜ?」
このオタクが、と口の中で呟きながら、トムは早く探偵業が軌道に乗れば、と願わずにはいられなかった。
荷物の片付けも終わり、ジュリアは一息つく為にコーヒーをミルにセットした。
ご近所には、引っ越してきてこれからお世話になる、と言う意味を込め、自分で焼いたクッキーを配った。だが、隣の住人はまだ帰っていない。向いのサマンサによると、流行らない探偵事務所をしている、堅苦しい男だとか。
「どんな人だろうね?」
拾ったハムスターの為に、ついさっき近所のペットショップでカゴを──勿論、この店からハムスターは1匹も脱走していなかった──買ってきた。その中でグレッグ──ジュリアがハムスターに名付けた──は、ひまわりの種をかじっている。
やがてコーヒーの支度ができ、ジュリアは出来立ての熱い液体をカップに注いだ。すると隣の家から、扉の鍵を開ける音が聞こえた。
──帰ってきたんだ。
急いでクッキーを皿に盛り付け直し、部屋を出る。やはり隣の住人は帰宅したらしく、窓から灯りが漏れていた。
時刻はもう22時を回っていたが、ジュリアは思いきって呼び鈴を鳴らした。
「誰だ?」
低い声が扉の向こうから聞こえた。
「隣に越してきたジュリア・バートンと言います。これからお世話になります。あの、クッキーを焼いたんですが、よかったら……」
急に扉が開き──トランクス1枚の姿だ──体格のいい男が出てきた。思わず絶句し、ジュリアは男を見つめた。
スポーツマンのように短い黒髪。そしてサマンサが言っていたように、堅苦しそうな仏頂面をしている。だがハンサムだと思った。
「はじめまして……あの?」
漸く口を開いた。男はまだ黙ってジュリアを見ている。
「お名前は……?」
──私より10歳は上かしら……
そんな事を考えていると、男も漸く日を開いた。
「チェイスだ」
そう言うなり、チェイスはジュリアから皿を受け取った。
「これからよろしくお願いします、それじゃあ!」
ジュリアは踵を返し、急いで部屋へ戻った。頬が熱い。改めてチェイスの容貌にまた顔が熱くなる。
「グレッグ、明日はバイトの面接なの。受かるかしら?」
懸命にチェイスの姿を頭から消そうと、ジュリアは冷めたコーヒーを飲んだ。
今は隣人の事など考えている暇などないのだ。
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