VELTA・QUEEN

たける

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男は食後の薬を飲み終え、ベッドの上で静かに目を閉じていた。
この家に住んでいるのは、男の他に養子の息子だけで、今この家の中には、たった1人の息子さえいない。息子は遊び人で、いつも男の財布からお金を取り、フラフラと街に行くのだ。
今日もそうだろう。男はさらに胸を痛めた。いつものことなのに、そのつど心を痛める。
「何故だ……」男は静かに言った。「何故マイケルはこんなことを……」
男は深いため息をつき、ゆっくりと寝返りをうった。そしてそのままの体勢で、部屋の中をじっと見つめていると、開くはずがない扉がゆっくりと音を立てて開いた。
男は少しも驚かず、ただ扉が開くのを見ていた。

「貴方がベルタ・クィーンですね?」

黒い服や帽子、靴、サングラス……黒に覆われた男が言った。

「そうですが、貴方は?」

力なくベルタが尋ねた。すると、黒い男が微笑んで言った。

「貴方を地獄に連れて行きたい・・・・・・・・・・死神です」
「死神……?」ベルタはまだ、驚きの影を見せない。「本当に死神ですか?」
「ええ。死期の近い人に、冗談を言っても仕方がありませんからね」

死神は、ベッドへゆっくりと歩み寄り、そしてベルタの真横に立った。

「早く貴方を地獄に連れて行きたい」死神は、気味の悪い笑顔を作った。「そして、デビル様に誉めていただくのだ」
ベルタも静かに笑った。「ダメですよ」
「ダメ、とは?」笑うのを止めた死神が言った。「どういうことですか?」

「私は死にたくはありません」

力なくもハッキリとした口調で、ベルタは言った。それを聞いた死神は面喰らってしまったが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「死にたくないって……」苦笑いを浮かべる。「そう言われても、死ぬんですから」
「死ぬのは私も分かっています」死神から視線を逸らした。「ただ、納得がいかないのです」
死神から逸らされた視線は、しばらく宙を泳いでいたが、やがて開けられた扉へと落ち着いた。
「何故私が死ぬんですか?」ベルタは再び口を開いた。「今まで37年生きてきました。何の病気もせずに……悪いことも、した覚えがありません」
視線は再び死神へと移された。

「そんな……」答えに困った死神は、スッとベルタに背を向けた。「今日は帰ります。クィーンさん、早く死ぬ覚悟を決めて下さい」
背を向けたまま、死神は言った。「ではまた……」
死神は、開けっ放しになっていた扉を潜り、後ろ手で静かに扉を閉めた。
再び広い家の中に、ベルタは1人になった。
「死神がくるとは……」ベルタは呟いていた。「少し眠ることにしよう」
やがて、ベルタの静かな寝息が聞こえ始めた。




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