VELTA・QUEEN

たける

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再びベルタが目を開いたのは、夕方になってからの事だった。
ベルタは静かに上半身を起こし、窓の外の夕日を見た。ボーッと見ていると、下から物音がする。マイケルが帰ってきたのだ。
少し急ぎ気味に、ベルタはベッドから這い出し、部屋を出た。階段を一段ずつ、しっかり降りていくと、やがてマイケルの姿が見えた。

「おかえり、マイケル」

ベルタの声に、マイケルは階段の方を見た。そこには、いつものようにやつれた義父の姿がある。

「まだくたばっていなかったのか?」男にしては少し甲高い声を上げて、ベルタを睨んだ。「いつも言ってるだろ?早くくたばれ・・・・って」
ベルタは、床の上にゆっくりと足をつけた。「マイケル、またそんなことを……」力のない声が、悲しみで少し震えていた。「そんなに財産が欲しいのかい?」
結核で白くなってしまった短い髪に、ゆっくりと右手で触れる。そんな仕草を、苛立たしそうにマイケルは見ていた。

「ああそうだ!早く死ね、死神にでも連れて行かれちまえっ……!」
「マイケル」ポツリと呟いた。「今日のお昼──私が食後の薬を飲み終えて眠ろうとした時──マイケルの言う死神が現れた」
静かにマイケルを見つめた。
マイケルは仄かに笑っている。「アンタの幻覚じゃないのか?」嘲笑うかのように言った。しかし、ベルタはそんなことは苦にもせず、首を横に振った。

「幻覚じゃなかった」
「そうか……!」」マイケルは、手を叩いて喜んだ。「今度来た時に、俺が地獄に連れて行ってくれって頼んでやるよっ!」

これが義父に言う言葉だろうか?

「マイケル」静かにベルタが言った。「何故私を義父さんと呼んでくれない?」
「俺は、16年間孤児院で育った。そっちの方が幸せだった。なのに、アンタは子供が欲しいからと言って、嫌がる俺を引き取った!お前は俺の父さんじゃない!」

身体中から絞り出すような、憎悪の込められた叫びに、ベルタは少し目眩がした。

「アンタを父さんと思った事なんか、一度足りともない!」

そう言ってマイケルは、コートをハンガーから剥ぎ取り、再び街へと──家の扉を乱暴に押し開けて──出て行った。
ベルタは、その場に崩れるように座り込んだ。その瞳から、とめどもなく涙が頬を伝っていた。




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