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アブーラ医師はベルタの家を出るとその足で、丘の上にあるモーリタニアの屋敷へと向かった。
「モーリタニア、私だ、アブーラだ!」
立派な扉を力強く、幾度も叩いた。モーリタニアは人見知りをするので、滅多に扉を開かない。しかし、幼なじみのアブーラだけは別である。
「よく来たな、アブーラ」大きく立派な扉が、少し軋んだ音を立てて開いた。「息を切らせて来るぐらい、重要な用か?」
扉の向こうには、アブーラによく似た老人が、微笑みながら立っていた。
「そうだ。おい、ベルタ・クィーンは知っておるだろう?」
アブーラが中に入るよう誘っても、モーリタニアは──まるでその時間も惜しいかのように──その場で話し始めた。
モーリタニアは、少し渋い顔をして「少しなら知っている」と、答えた。
「そのベルタ・クィーンが今、死神と天使の間で引っ張り合いを受けているのだ」
「ほぅ……」
「死神は白昼に現れ、天使は夜に現れ、共にくるようにベルタに言ったそうだ」
「で、どうしてほしいのだ?」
用件をなかなか言わないアブーラに、意地悪っぽく聞き返した。
「どうするもなにも、助けてやってほしいのだ」すがるような目をしている。「私にはどうすることも出来ない。だが、君だったら出来るだろう?」
「私は別にソレを仕事とはしていない。アレは道楽だ、趣味だよ。それは君も知っているはずだ」
ピシャリとモーリタニアは言った。
「だが……だが君は……」
「幽霊屋敷の幽霊を除霊した、そう言いたいのだろう?」
「う……っ」
アブーラは言い返せない。
再びモーリタニアは口を開いた。
「私の本業は小説家だ。除霊を専門にやっている者達とは全く違うのだよ」
モーリタニアは一息入れると、チラリとアブーラに目をやった。アブーラは下を向いている。
「アブーラ、思いつめることはない」
「……」
「分かった、手を尽くしてみよう」いつもモーリタニアが折れてしまう。「さあ、ベルタ・クィーンのもとに連れて行ってくれ」
根負けしてしまったモーリタニアは、家から出て立派な扉に鍵を掛けた。
それからチラリとアブーラに目をやると、顔はいささか明るくなっており、背中を押されながら、丘を降りて行く事になった。
「モーリタニア、私だ、アブーラだ!」
立派な扉を力強く、幾度も叩いた。モーリタニアは人見知りをするので、滅多に扉を開かない。しかし、幼なじみのアブーラだけは別である。
「よく来たな、アブーラ」大きく立派な扉が、少し軋んだ音を立てて開いた。「息を切らせて来るぐらい、重要な用か?」
扉の向こうには、アブーラによく似た老人が、微笑みながら立っていた。
「そうだ。おい、ベルタ・クィーンは知っておるだろう?」
アブーラが中に入るよう誘っても、モーリタニアは──まるでその時間も惜しいかのように──その場で話し始めた。
モーリタニアは、少し渋い顔をして「少しなら知っている」と、答えた。
「そのベルタ・クィーンが今、死神と天使の間で引っ張り合いを受けているのだ」
「ほぅ……」
「死神は白昼に現れ、天使は夜に現れ、共にくるようにベルタに言ったそうだ」
「で、どうしてほしいのだ?」
用件をなかなか言わないアブーラに、意地悪っぽく聞き返した。
「どうするもなにも、助けてやってほしいのだ」すがるような目をしている。「私にはどうすることも出来ない。だが、君だったら出来るだろう?」
「私は別にソレを仕事とはしていない。アレは道楽だ、趣味だよ。それは君も知っているはずだ」
ピシャリとモーリタニアは言った。
「だが……だが君は……」
「幽霊屋敷の幽霊を除霊した、そう言いたいのだろう?」
「う……っ」
アブーラは言い返せない。
再びモーリタニアは口を開いた。
「私の本業は小説家だ。除霊を専門にやっている者達とは全く違うのだよ」
モーリタニアは一息入れると、チラリとアブーラに目をやった。アブーラは下を向いている。
「アブーラ、思いつめることはない」
「……」
「分かった、手を尽くしてみよう」いつもモーリタニアが折れてしまう。「さあ、ベルタ・クィーンのもとに連れて行ってくれ」
根負けしてしまったモーリタニアは、家から出て立派な扉に鍵を掛けた。
それからチラリとアブーラに目をやると、顔はいささか明るくなっており、背中を押されながら、丘を降りて行く事になった。
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