ホワイト・ルシアン

たける

文字の大きさ
15 / 86
第5章.吉村圭人

1.

しおりを挟む
沢村先輩は直帰するって言ってたけど、俺はそうはいかなくて、自社に戻っていた。

「お疲れ様でーす」
「あ、吉村君、お帰りなさい。あれ?沢村君は?」
「直帰するそうで……」

えへへ、と、笑い、ホワイトボードの自分の名前のとこの外出中を、勤務中、と書き換える。そして沢村先輩のとこ──同じく外出中──には、直帰とした。


──部長に呼ばれてるんだよなー……


沢村先輩の事をチクってやろうと連絡したら、戻ったら道場に来てくれ、だって。怖い人ではないけど、どう説明したらいいのやら。
エレベーターに乗って地下の練習場──道場やジム、シャワールームなどの設備がある──へ入った。
道場の扉を開けた途端、懐かしい──汗や畳、湿った柔道着の──匂いがする。

「お疲れ様でーす」

大勢が練習をしているのを、沢村部長──コーチも兼任している48歳バツイチ──が腕組みをして見守っている。俺の姿を見つけるなり──顎をくいっとして──執務室を示す。頷き、渋々向かった。

「すぐすむから」

さぁ座って、とソファを指差すから、はい、って答えて座る。畏まるように姿勢を正し、部長を見つめた。

「まずは、お疲れ様」
「あ、お疲れ様です……」
「で?電話で言ってた事はつまり……?」

柔道着姿のまま向かい側に座る部長は、柔和に笑っている。その少し垂れた目や、しっかりとして形のいい鼻といい、ハンサム──と言うか、ダンディと言うか──だ。

沢村康介さわむらこうすけは朋樹先輩の父で、昨年離婚し、先輩を引き取った。離婚理由については──部長の浮気だとか囁かれているが──不明のままだ。

「えと……部長はその、元ラグビー日本代表の剣崎澪さんをご存知ですか?」
「うん?」
「あー……と、2年前に現役引退された、現在サンライズの営業の……」

首を傾げるから、この間一緒に撮った写真──居酒屋で、頬をくっつけて2人で笑ってるやつ──を部長に見せた。

「この人なんですけど……」
「どれどれ……」

じっとスマホを眺めている。思い出そうとしているのか、やけに長い。

「先輩は、その人と食事して直帰するって言ってましたけど、多分剣崎さんの事好きですよ」

反応が薄い──てか、聞いてる?──んですけど。
チラと見遣ると、勝手にスマホ弄って電話してるんですけどー!ちょちょ、おい!

「ぶ、ぶちょ……」
「出ないな。おい吉村、朋樹に伝えといてくれ」
「え?」
「終わったら、会社に連れて来なさいって」


──えぇー?む、無茶な!


「や、それはマズイですよ」
「何故だ?挨拶ぐらいしたいんだが」
「いやいやいや、さっきも言いましたが、剣崎さん、サンライズの営業さんですよ?」
「うん?そうだったっけ?じゃあ無理だな……それなら、朋樹に直帰じゃなく、会社に戻って来なさいと伝えてくれ」

それなら大丈夫だろうけど、いつ戻るかは知りませんからね、って、言えるはずない。

「了解しました」

そう答え、執務室を出る。果たして沢村先輩、ちゃんと戻ってくるだろうか?





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...