ホワイト・ルシアン

たける

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第7章.沢村朋樹

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幼い頃からずっと、柔道をやっていた。
最初は多分、体が弱かったから、だと思う。父も柔道家だったから、母はやれと言ったんだろう。
好きでも嫌いでもなく──なかなか勝てなくて、悔し泣きをした日もあった──ずっと続けてきた。
練習は厳しく、あれこれ制限もされ、不満や鬱憤は溜まっていく一方で、なのに恋愛は駄目だとか、礼儀作法を重んじろとか。


──いつまで続くんだろう?勝てないのに……


何度挑戦しても、勝てない世界柔道。オリンピックにも選出されず、ただ苦しく、ただ虚しいだけで、何の為に柔道をやっているのか、分からなくなっていた。
だけど、徐々に勝てるようになってきて、面白い──と言うより、もっと強くなりたい──と思えてきて、制限すら気にならなくなってくると、ストレスも減って更に勝てるようになった。

そして2年前。
ついに世界柔道選手権で優勝し、父の胸で泣いた。
やっと努力が形になった──その努力も、報われない人も大勢いる──んだと。
だけどそれから、勝ち続けなければならないと言う重圧とも戦わなければならなくなり、更に練習は激しいものになっていった。

そんな中知ったのが、剣崎澪選手だった。絶頂期にも関わらず、現役引退──当時33歳──すると言うニュースで。
理由は体力の限界で、と言っていたけど、どうなんだろう?柔道とラグビーとじゃ、比べようもなくて。ただ、テレビに映るその姿が余りに素敵──体型も美しく──だったから、一瞬で恋に落ちた。会った事もないのに。

だから、吉村が憎かった──完全な八つ当たりと言うか、嫉妬だ──し、逆に利用してやろうって。
で、実際会ってみて──オレより大きいのに──控えめな人だと思った。話してみて心が騒いだし、捩じ伏せたい願望にも駆られた。


──どうしたら、夢中になってくれるんだろう?


会話の最中では分からなくて、抱いてる時にもそのポイントを探ったけど、掴めなかった。
ただ、誰かが澪さんの胸にいて──しかも本人さえ誰だか分からない──苦しんでいる。


──それが恋なのか、分からないが故の不安なのか。


「ねぇ澪さん。その誰かさんが分かったら、どうするの?」

衣服を整えながら──吉村から連絡があり、父が会社に戻るよう言ってるって──尋ねた。

「え……そうだな。会って、みるかな。どうして自分が、抱かれてもいいって思ったのか、探ってみたい」
「ふー……ん。ねぇ……初めての人って、やっぱり特別なの?」

抱く側と抱かれる側では、そう言う感性が違うものなんだろうか。それとも、相手によるのだろうか。

「俺は……特別、って訳じゃ……うーん……こうやって探してるって事は、特別なのかもね」

そうなんだ、と思いながら、今度は見えない相手に嫉妬する。


──見つけたら、その時は……


「また会える?」

本当は、恋人になって欲しかった。でも澪さんは、断るだろう。多分、だけど。その誰かさんの件が片付かない限り、誰のものにもならないだろうって。

「うん。俺も会いたい」

そう笑った顔に、嘘はないように思う。




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