ホワイト・ルシアン

たける

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第13章.接待

3.

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──同時刻


常務からは──料亭での会合から2日後──今日、顔合わせをすると言われていた。場所はサンライズ社の会議室で、との事で、私は朋樹と共にそろそろ向かおうとしていた。

「車を回してくるから、ロビーでちょっと待っててくれ」
「うん」

そう言って事務室を出ると、社長秘書の鷹殿二郎たかどのじろう──32歳の細面で痩身。アレルギー持ちでメガネをかけている──が声をかけてきた。

「お疲れ様です、沢村部長」
「あぁ、お疲れ様」

明朗で聞き取りやすい声音だ。扉を出てすぐだったので、背後で朋樹が──どうしたの?と──立ち止まった。

「今から顔合わせに向かわれるんですよね?」
「あぁ、そうだよ。私も一緒に行こうかと」
「ボクが同行しますので、沢村部長は社長室へ行って下さい」

お呼びです、と言われ、朋樹を振り返る。困惑しているようだが──私も同じだが──頷いて見せた。

「分かった。じゃあ、頼みます」
「はい。では沢村君、行きましょう」
「う、あ、はい……」

チラリとこちらを振り返るが、鷹殿君に連れられて行く。私は2人を見送ると、社長室に向かった。
暗い黄緑色の絨毯──海松茶みるちゃと言うらしく、海松色を褐色がらせた暗い黄緑色の事だと、ネットにあった──を進み到着すると、社長が部屋から──常務を伴って──出てくるところだった。

「社長、今から顔合わせに向かわれるんですか?」
「おぉ、沢村君。君も来たまえ」

話は車の中でしよう、と言われ、着いて行く。


──何の話なんだろう?


結局、すぐ顔合わせに向かう事になるなら、向こうで話をしてもよかったのでは?と思う。
社用車──ベンツだ──の後部座席に社長と乗り込むと、常務が運転し会社を出た。

「あの、社長……鷹殿君に、呼ばれてると言われて来たのですが……」
「呼んだよ、呼んだ」

小柄で、ブルドッグみたいな──朋樹はボストン・テリアみたいと言っていた──面相だ。私は居ずまいを正すと、そんな社長を見遣った。

「どのようなお話でしょうか?」
「取り敢えず、これを見てくれ」

そう言って封筒──ポストカードが入るような形のものだ──を手渡された。何だろう?と、中身を取り出すと、写真が数枚入っている。じっくり見ると、そこには私や朋樹が、澪さんと並んで歩いているところが写されていた。思わず社長を見遣る。

「一緒に接待を受けようじゃないか、ん?」
「しゃ……社長、これは……」
「社長、間もなく到着します」

常務が右折する。社長は笑っていて、断らないよな、と言った。


──顔合わせじゃない……?


社長は接待と言った。どう言う意味だ?と、考えている間に、車が駐車場──先日来た高級料亭の──に停車する。

「降りたまえ」
「……はい」

有無を言わさぬ力強い声音に、従うしかない。降りると、靴が砂利を踏んだ。

「社長、ささ、こちらです」

常務が社長を連れて歩き出す。私も2人の後を追い、料亭へと入った。
美しい錦鯉の屏風が三和土を上がってすぐにあり、その前で女将が──膝をついて──深々とお辞儀する。

「お連れ様はもう、離れの方へお通ししております」

少しハスキーな声でそう言い、それに社長は手を上げて答える。それを見た女将は、我々を先に通し、やがて厨房へと──暖簾を潜って──姿を消した。

「沢村君、この接待ね、息子さんに来てもらっても良かったんだけどね……」

内庭──白い玉砂利が敷かれ、松や鯉のおよぐ池がある、和風の庭だ──に面した渡り廊下を歩き、襖の前で立ち止まる。

「刺激が強いから、君にしたんだ」
「どう言う意味でしょう……?」

常務によって、襖が開かれた。社長の肩越しに──私より15センチは低い──見えたのは、淫靡な姿で声を上げる澪さんの姿だった。


──なっ……!


「やぁ、随分いい眺めじゃないか!」
「ようこそ、棟方社長。準備万端です」

悲鳴のような嬌声を上げる彼は──目隠しをされたまま──小さな球体の上に座らされていた。

「あァッ!あッ!あッ!」

怒りに震え、足が動かない。

「沢村君を連れて来たよ。彼にさせようと思ってね」

さぁ入れ、と言われ、背中を押される。ふらついて膝をついてしまい、頭の上で笑われた。

「沢村さん、どうぞこちらに」

そう言って──近藤社長が──私に手を差し伸べてくる。

「どう言う事ですか?接待って……彼に何て事をしてるんです!」
「お怒りにならないで下さい。これは棟方社長をもてなす為です」

剣崎も承知の上です、と言われても、到底納得出来る筈もない。

「沢村、先方の折角のご好意を無駄にするのか?」

社長は既に座していて、日本酒を飲んでいる。


──私と彼の関係を知っていて……


「社長の機嫌を損ねるつもりか?」

常務まで──社長に酒を注いでいる──そう言い、私はゆっくりと立ち上がった。
覚悟、と言うのはおかしいが、彼の為に──果たして彼の為になるだろうか?──私が出来る事は1つしかない。




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