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第16章.帰国
1.
しおりを挟む『沢村朋樹、グランドスラム優勝です!それと共に、来年開催のオリンピック出場内定しました!』
パリで開催されている試合を、テレビで見ていた。
──おめでとう!
1人、部屋で──テレビに向かって──拍手を送る。
直接応援には行けなかったけど、激励のラインは送っていた。それに対して返事は──頑張るよ──短かったけど、寝ないで見ていた甲斐はあった。
急ぎ、2人に祝福のラインを送る。
──康介さんも、さぞ喜んでるだろうな……
朋樹とは、あの報告──康介さんと関係を持ったと伝えた──から、康介さんとは、あの接待以来会えてはいない。結局、カクテル言葉の確認もしていないし、ただただ、毎日の仕事に忙殺されるばかりだった。
──会いたいな……
と思うけど、その気持ちも伝えられないまま。
このまま──会えないまま──年越しかも知れないと思うと、やけに寂しい。一昨年も去年も1人だったから、何て事はない筈なのに。
再びテレビに視線を向ける。画面には、インタビューに答える朋樹の姿が映っていた。
『優勝おめでとうございます!』
『ありがとうございます』
『今のお気持ち、誰に1番に伝えたいですか?』
『そうですね……』
真面目な顔をしている。やはり、試合中とは全然顔付きが違う。
『勿論、応援して下さった方々や、父に感謝を伝えたいですが、1番は……私の大切な人に、やったよと、伝えたいです』
『1番大切な人、とは?』
そう記者がマイクを改めて向けた時、康介さんが間に割って入ってきた。
『すみません、もうそろそろ……』
お名前だけでも、と食い下がる記者達を残し、画面から2人が見切れていった。残された人達は、ザワついている。
──朋樹……
画面越なのに、見つめられている気がした。気のせいかも知れないけど、俺の胸は痛いぐらいに鼓動している。
まさか、と思いながらテレビを消すと、ペポン、と、ラインが届く音がした。
『澪さん、見ててくれた?』
朋樹からだ。電話していいものか悩んだけど、結局ラインにした。
『見てたよ!おめでとう』
すぐ、電話がかかってくる。俺は通話ボタンを押した。
「朋樹、本当におめでとう!」
『ありがとう。澪さんに、1番に伝えたくて』
ドキリとする。
「あのインタビュー、どうかと思うよ?康介さんに、怒られたんじゃない?」
そう言うと、笑い声がした。笑顔が目に浮かぶ。
『迷惑かけるな、だって。でも、オレ……』
「朋樹……会いたいよ……」
素直な気持ちが零れた。
会いたくて堪らない。
『オレも会いたいよ!ねぇ、澪さん……』
言い淀む間に、俺はずっと緊張していた。
──もしかして……
『空港まで迎えに来て……!』
「うん。行くよ。いつ帰るの?」
帰国の便を聞き、電話を切る。胸はずっとドキドキしていて、体は熱い。
──やっぱり俺は……
恋をしているみたいだ。
やっと自覚した。
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