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第16章.帰国
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優勝から2日。丁度、仕事は休みだった。
だから、じゃない。
──会いたかった……
空港で、そっと待つ。辺りはファンと記者でごった返し、凄い混雑だった。けど、誰も俺の事なんて気にも止めていない。
──だってもう、過去の人間だから……
そんな事は気にしてない。むしろ、気付かれなくてホッとしている。圭人も誘ったけど、断られた。理由は聞かなかったけど、何か察したのかも知れない。
急に辺りがザワつき始めた。もしかしたら、到着したのかも、と、腕時計を見遣る。確かに、到着の時間だ。
緊張してくる。けど、こんなに沢山いて、気付いてくれるだろうか?
応援プレートや団扇、色紙やカメラ等、色々なものが、人波の間で揺れている。シャッター音やフラッシュの明かりに、視野が少しぼやけてきた。
その時、ラインが鳴った。
『ただいま。どうせ隠れてるんでしょ?もうすぐそっち行くから、前まで出てきててよ』
朋樹だ。どこからか見てるんじゃないかってぐらい、当たってる。どうしよう、と逡巡してると、悲鳴が上がり出した。いよいよ、到着したらしい。
今から前に行くとしたって、この人波は泳いでいけそうにない。
──やっぱり後ろから見ていよう……
諦めて壁にもたれると、急に横から腕を掴まれた。驚いてそちらを振り向くと、圭人──誘った時は断った筈なのに──がいた。走ってきたらしく、ゼェゼェ言ってる。
「圭人!どうしたの?」
「ゼェ……ゼェ……澪君、やっぱり……ハァハァ……後ろにいるーっ!も、前……行かないと……沢村先輩、小さいから、見……えない、よ」
早く荒い息継ぎの合間にそう言い、俺の腕を掴んだまま、人波を`──すみませんって──割って前列へと進んで行く。
「ちょ、圭人!」
「ほらほら……あ、すみません」
最前列に並ぶと、左隣の妙齢女性が俺の名前を──剣崎だ──小さく呟いた。チラと会釈しておく。
「あ、ほら来た!」
そう指差した圭人は汗だく──右隣の初老女性が少し迷惑そうだ──だった。
「どうして来てくれたの?」
出口を見つめながら聞いた。
我孫子弘之監督──現在日本代表監督で、フォレストキャットみたいな容姿だ──を先頭に、選手団が姿を現した。朋樹はキャリーバッグ──みんなもだけど──を引いている。
「だって澪君、先輩の事好きでしょ?」
「え……?」
「昨日N高校にまた行く事になったんだけど」
そこで言葉を切った圭人は、そっと俺の背中を押した。反動で通路によろめき出てしまう。朋樹の横にいた康介さんは微笑し、少し立ち位置をずらした。
「澪さん!」
強い衝撃と共に抱きつかれ、俺も朋樹を抱き締め返す。回りでシャッター音やフラッシュが瞬いていたけど──悲鳴も上がったけど──構わないと思った。
「おめでとう」
出会ってから少し伸びた黒髪に、そっと頬を寄せると、甘い果実のような香り──朋樹はいつもいい匂いがする──がした。
「ありがとう……!」
そう笑う朋樹の回りに、記者達が集まりだす。そこにすかさず、また康介さんが間に入ってくれた。
「ここは通路です。会見場所をご用意してますので、そちらでお願いします」
空港警備員も駆けつけ、記者達を誘導する。
「剣崎君、来てくれてありがとう」
「いえ。沢村さんも、皆さんも、お疲れ様です」
「では、我々は会見がありますから……」
「はい、僕は帰りますので」
「帰っちゃうの?」
ぎゅうと両手を握られる。そこへ、圭人もやって来た。
「先輩、おめでとうございます。剣崎さんは僕がきっちり送らせていただきますので」
それでは、と、圭人が俺の手を取り──朋樹はスルリと手を放した──歩き出した。
振り返ると、団体は会見場へ向かって行くところだった。
だから、じゃない。
──会いたかった……
空港で、そっと待つ。辺りはファンと記者でごった返し、凄い混雑だった。けど、誰も俺の事なんて気にも止めていない。
──だってもう、過去の人間だから……
そんな事は気にしてない。むしろ、気付かれなくてホッとしている。圭人も誘ったけど、断られた。理由は聞かなかったけど、何か察したのかも知れない。
急に辺りがザワつき始めた。もしかしたら、到着したのかも、と、腕時計を見遣る。確かに、到着の時間だ。
緊張してくる。けど、こんなに沢山いて、気付いてくれるだろうか?
応援プレートや団扇、色紙やカメラ等、色々なものが、人波の間で揺れている。シャッター音やフラッシュの明かりに、視野が少しぼやけてきた。
その時、ラインが鳴った。
『ただいま。どうせ隠れてるんでしょ?もうすぐそっち行くから、前まで出てきててよ』
朋樹だ。どこからか見てるんじゃないかってぐらい、当たってる。どうしよう、と逡巡してると、悲鳴が上がり出した。いよいよ、到着したらしい。
今から前に行くとしたって、この人波は泳いでいけそうにない。
──やっぱり後ろから見ていよう……
諦めて壁にもたれると、急に横から腕を掴まれた。驚いてそちらを振り向くと、圭人──誘った時は断った筈なのに──がいた。走ってきたらしく、ゼェゼェ言ってる。
「圭人!どうしたの?」
「ゼェ……ゼェ……澪君、やっぱり……ハァハァ……後ろにいるーっ!も、前……行かないと……沢村先輩、小さいから、見……えない、よ」
早く荒い息継ぎの合間にそう言い、俺の腕を掴んだまま、人波を`──すみませんって──割って前列へと進んで行く。
「ちょ、圭人!」
「ほらほら……あ、すみません」
最前列に並ぶと、左隣の妙齢女性が俺の名前を──剣崎だ──小さく呟いた。チラと会釈しておく。
「あ、ほら来た!」
そう指差した圭人は汗だく──右隣の初老女性が少し迷惑そうだ──だった。
「どうして来てくれたの?」
出口を見つめながら聞いた。
我孫子弘之監督──現在日本代表監督で、フォレストキャットみたいな容姿だ──を先頭に、選手団が姿を現した。朋樹はキャリーバッグ──みんなもだけど──を引いている。
「だって澪君、先輩の事好きでしょ?」
「え……?」
「昨日N高校にまた行く事になったんだけど」
そこで言葉を切った圭人は、そっと俺の背中を押した。反動で通路によろめき出てしまう。朋樹の横にいた康介さんは微笑し、少し立ち位置をずらした。
「澪さん!」
強い衝撃と共に抱きつかれ、俺も朋樹を抱き締め返す。回りでシャッター音やフラッシュが瞬いていたけど──悲鳴も上がったけど──構わないと思った。
「おめでとう」
出会ってから少し伸びた黒髪に、そっと頬を寄せると、甘い果実のような香り──朋樹はいつもいい匂いがする──がした。
「ありがとう……!」
そう笑う朋樹の回りに、記者達が集まりだす。そこにすかさず、また康介さんが間に入ってくれた。
「ここは通路です。会見場所をご用意してますので、そちらでお願いします」
空港警備員も駆けつけ、記者達を誘導する。
「剣崎君、来てくれてありがとう」
「いえ。沢村さんも、皆さんも、お疲れ様です」
「では、我々は会見がありますから……」
「はい、僕は帰りますので」
「帰っちゃうの?」
ぎゅうと両手を握られる。そこへ、圭人もやって来た。
「先輩、おめでとうございます。剣崎さんは僕がきっちり送らせていただきますので」
それでは、と、圭人が俺の手を取り──朋樹はスルリと手を放した──歩き出した。
振り返ると、団体は会見場へ向かって行くところだった。
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