ホワイト・ルシアン

たける

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第20章.迫るクリスマス

2.

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エレベーター前の掲示板に、来年サンライズとの合併を報告する貼り紙が掲示されていた。その前に人集りが出来ており、私は──エレベーターを諦め──階段で道場に向かった。

「おはよう」
「おはようございます」

今日も皆、真面目に練習に励んでいるようだ。が、朋樹の姿がない。

「朋樹はどうした?」
「少し遅れると連絡がありました」

そう答えたのは、朋樹の付き人を担当している四ツ谷純也よつやじゅんや──凛々しい眉と大きな瞳で、なかなか整った顔をしている──だ。

「そうか。分かった」

失礼します、と下がるのを見て、私も執務室へと向かう。


──遅れる理由はなんだろう?


デスクに座ると、式典の詳細が書かれた用紙が置いてあった。ざっと目を通す。社長等の挨拶があったり、報道陣からの質疑応答、立食……どうにも堅苦しそうな内容だ。
ふと、彼を思う。


──この式典に、彼は出席するのだろうか?


恐らく、しないだろう。会いたくない連中が集まるのだ。彼なら、きっと誘われても断るだろう。
会いたくはあるが、彼の心情を思うとやるせない。
だがその前に、と、卓上カレンダーを手に取る。来週はクリスマスだ。
オリンピック内定が決まっているのは──我が社では──今のところ朋樹だけ。会社も冬休みに入り、必要最低限の社員しか出社しなくなる。私は出社するつもりだが、柔道部にも冬休みは与えたい。


──朋樹は……


恐らく我孫子なら──内定も決まっているし──練習をさせろと言うだろう。だが朋樹は、練習をし過ぎるきらいがある。休む事に怯えているようでもあり、止めない限り──己の限界を超えてでも──続けてしまう。頂点を極めた者として、分からなくはない。が、体調管理も必要な事だ。自己管理が未熟だ、と言えばそれまでだが、そこを調整してやるのも、コーチの仕事だと言えるだろう。


──せめてクリスマスは休ませるか……


そう決め、再び道場へ向かった。




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