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延長戦
しおりを挟む延長8回表
2対2
ピッチャーはまだ四谷君、バッターは5番小山君、外野は自然と後ろに下がっている。普通ならキャッチャーが外野バックとか言うんだけど、ピッチャーが四谷君になって、全く機能していない。辛うじてコーチから外野バックの指示がでて、みんなが下がっていると言うのが現状だ。さっきの回もなんとかしのげたと言うのに、当の本人は何も考えいないようだ。一球目のボールを見て思わず声を上げてしまった。
「あっ!!」
キン!!
打った瞬間、レフトオーバーの大きな当たりにベアーズベンチからは歓声が上がった。その時、俺もセンターもレフトへ向かって走り出していた。これはヤバイ、ホームランになる。必死になって走ったが予想通りレフトから中継されたボールがサードに到着した時には、ホームインしていた。ピンチはこれで終わらない。
「ファーボール」
これで二人目、走者一塁二塁、あれから四谷君はストライクが入らないでいた。これには流石にコーチもタイムをとって、マウンドに駆け寄っていった。そして、ライトの俺がマウンドに呼ばれた。
「佐藤頼むぞ」
マウンドに集まったみんなが黙って頷いた。俺自身、この状態を抑える自信はない。しかし、俺に託されたこのマウンド、キャッチャーと少し打ち合わせた。
「思いっ切り行こうぜ」
そう言って、俺の胸をグラブでポンと叩いた。3対2、延長の8回表点差は一点、しかも、ランナー、一二塁のピンチ、当然、相手ベンチは押せ押せモードで歓声が沸き上がっている。すると天野さんの声がしてきた。
「まだやってたの?」
「早くないと帰っちゃうわよ」
山田さんが俺に声をかけてきた。その横で、箭内さん達が俺を見て
「「がんばれー!!」」
多分、天野さん・山田さんのチームが勝ったみたいだ。それは、横にいる箭内さん・森さん・太田さんそして、妹の様子を見れば何となくわかる。彼女たちは俺達のベンチへ行って声援を始めた。考えて見れば、5番にホームランを打たれて、6番、7番がファーボールということでこいつは8番バッターということは、打たれる確率は低い打者だ。しかも、かなり力(りき)んでいるのがよくわかる。ということはバントの可能性が高い。
初球は、ストレートを外角高めに外すと決めて投げた。
「ストライク」
キャッチャーはボールを捕った瞬間、サードへボールを投げた。
「アウト!!」
ダブルスチールは、失敗、しかし、ワンアウト2塁とまだピンチが続いている。このことでバッターはよっぽとヘタレなんだろうと予測できた。そう彼はライトの8番バッターなのだ。だからボール球をバントで空振りをしたのだ。さっきのアウトで相手ベンチの押せ押せムードが少し落ち着いている。それより俺たちのベンチからの女の子達の声援が凄い。
「いいぞ!!その調子」
「楽勝!!楽勝!!」
ここはベアーズの監督ならあと一点はほしい所だろう。つまり、2塁ランナーを責めて3塁まで進塁させたいということは、送りバントを続けるか、3塁盗塁策を考えるはず、そのどっちだろうか。俺の結論としては、まずあとワンアウトを取ってツーアウトになればいい。確かにランナーは3塁より1塁の方が点は入りにくいに決まっている。つまり、このタイミングでアウトを取ることを考えるべきだといことははっきりしている。バントならツーアウト3塁、空振りならワンアウト3塁もしくは、さっきと同じように3塁で刺せるかもしれない。ということは、ここはストレート勝負だ。しかも、外角高めのストライクゾーン一杯を狙って投げるとバントの構えをしていたバッターはバットを引いた。
「ストライク」
ボールを捕ったキャッチャーがすぐさまサードへボールを投げる。ランナーはセカンドへ引き返していた。相手ベンチから溜息が聞こえた。
「ツーストライク!!ツーストライク!!」
絹やんが俺にボールを投げながらそう叫んでいた。こいつは三振が取りやすい。次のボールも決まった。もちろん、ストレート勝負だ。しかも、高めのボール球で十分とボールを投げるとバッターのバットは空を切った。
「ストライク!!バッターアウト!!」
すぐさまキャッチャーがサードへボールを投げた。
「セーフ!!」
見た目は完全にアウトに見えていた俺は天を仰いだ。再び絹やんからボールが投げられてきた。
「ツーアウト!!ツーアウト!!」
ベンチからも声援が
「いいよ!!」
「行ける!!行ける!!」
さてと、これで9番バッターに集中しないといけない。基本的にスクイズはないと考えるべきだろう。何しろツーアウトだから、かと言って、超山なりのスローボールはホームスチールを考えると投げることはできない。ここは一球様子見をすべきだろうか。相手を見るとやはり力(りき)んでいる様子はうかがえたのが気になる。ストレート勝負は変わらない。俺は投球モーションに入った。するとバントの構えをした。そして、サードランナーがスタートしたのが目に入って来た。
まさか?
スクイズ?
驚いた俺はボールを最後までうまく投げ切れなかった。そして、ふわりとスピードがないボールがど真ん中に行ってしまった。俺は、直ぐに守備の為、前へ走り出した。そして、ボールにバットが当たるその時
しまった!!
と思った瞬間、
ヒョイ
とボールが変化をして、打者は空振りをした。慌ててボールを捕ったキャッチャーは駆け込んできたランナーの足にタッチをした。
「アウト!!」
こうして、8回表は終わったのだった。重たい1点をのこして、ベンチに戻ると天野さんと山田さんがあの球どうやって投げるの?と興味津々で俺に聞いてきたのだが、コーチが試合中だからと軽く断ってくれた。その時だった。
パチーン!!
ビンタの炸裂音と共に四谷君のお父さんが激怒する声がしてきた。
「点取られやがって!!俺に恥をかかせる気か!!」
別な意味で騒然とするベンチ内を見て、審判が駆け寄ってきた。
「何事です?暴力はいけませんよ」
「ほっといてくれ!!親子の会話だ!!」
思わずカチンときた俺
「いくら親子でも暴力は良くないよ。次期コーチがそんなことしたら、今後、試合にでられなくなるよ」
すると審判も
「そうですよ。お父さん。苛立つのはわかりますが、暴力はいけませんね。次回からこのチームを率いるおつもりでしたら。いくら相手が息子さんでもこれ以上何もしないことですよ。でないと私は協会へこのことを報告しないといけません。今のは目を瞑ってあげてもいいですが」
「ぐ・・勝手にしろ!!」
そう言い残して、四谷君のお父さんはかなり分が悪いと思ったのだろうベンチを後にした。
そして、3対2で迎えた8回裏、この回で同点に追いつかないと試合は負けとなる。しかし、ラッキーなことに2番の絹やんからだった。しかも小山君も疲れているのだろうボールとストライクがはっきりとしてきた。
「ファーボール」
ノーアウトのランナーがでた。ここは3番の矢部っちに任せるしかない。と思ったら
コン!
送りバントを成功させ、ワンアウト2塁に、そして、打順は俺に回ってきた。すると小山君が
「外野!!バック!!」
外野が後退する
「外野!!もっとバック!!」
このグラントにホームランゾーンはない。あそこまでバックされると大きな当たりを打ってもホームランにはならないし、下手をすれば外野フライになってしまう。手前にヒットを打っても得点は期待できない。俺が打席に入ると小山君が不敵な笑みを浮かべた。この雰囲気は橋本さんに似ている。絶対に抑えてやるという意気込みが伝わってきた。そして、一球目、内角へストレート
「ストライク!!」
さっきまでのボールが嘘のようだ。球威が戻ってきている。これを振り切ってぴっぱっても得点は難しい。ふとライトの守備が予想より近い。俺は、ライトを狙うことにした。ピッチャーの表情を見ると次も投げてくる気だ。俺は、バットを構えた。小山君がモーションに入って、ボールを投げてきた。ストレートだ。しかも、さっきより早い!!振り遅れた俺は手を縮めてボールに擦る様にバットを当てた。
キン!!
打球はライトへスライスする感じで飛んで行って、ライト前に落ちたのだが、スライスしていたせいでそのままライト線の方へ転がっていった。ボールの正面で捕ろうとしていたライトは目の前のボールの変化に対応できずに後ろへそらした。
わー!!
歓声が一気に上がった。俺も必死に走った。1塁ランナーはホームイン!!これで負けが無くなった。そして、3塁まで到着したころライトがバックホームへボールを投げようとしていた。それを見て途中で足を止めたがそのボールがセカンドの頭上を越え、ホームと3塁との間へ向いていること気付いた俺は一気にホームに駆け込んだ。
「セーフ!!」
こうして、俺達は初優勝をすることが出来たのだった。
「整列!!」
「ありがとうございました!!!」
整列の後に相手選手と握手をしていると小山君が
「今度は負けないからな」
「夏の大会で会おう」
なんて言葉を交わしたのだった。そして、コーチとの最後のお別れの時がやってきた。
「みんなよくやってくれた。俺がフロッグズのコーチになって3年、このチームで優勝できるなんて夢の様だ。本当にみんなよくやってくれた。そして、ありがとう。俺は、このチームを離れるが君たちのことは決して忘れない。夏の大会は、新しいコーチの指揮で頑張ってくれ」
なんとなく感動したような微妙なコーチの言葉だった。このあと優勝の賞状とメダルをもらって、俺達の新人戦は幕を閉じたのだった。
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