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鬼
鬼③
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襲われた人間達には悪いが、期待外れ、というのが閻鬼の今の思いだ。
ほんの少し、気を送り込んだだけで吹き飛んでしまうような脆弱な体。これの何処が鍛えた人間が倒すのに数名が必要なのか。
――自衛隊員一人で充分でしょうに。
飛び散った血肉によって、着物が汚れたが、妖術で綺麗に拭えばいい。
さて、残っているのは二体。
「な、なんだ、お前ぇ――」
笑ってやった。
血塗られた顔で、口角を上げる美少女の姿に魔物すら慄いている。
「オーガ、か?」
後退りしながら一体が呟いた。
「なに、それ? 立って喋るといっても豚さんだから、知恵が足りないのかしら。鬼だって、言ってるでしょ」
その瞬間、閻鬼の体はオークの肩に乗っていた。ギョッとする顔を見ると、頭を掴み、捩じ切るようにして、胴体と分離させる。
真っ赤な噴水があがり、倒れ込む前に地に降り立った。
「うぁあああ――――、お、お前、魔物の癖に、人間の味方……」
つまらなそうにオークの頭部を投げ捨てると、最後の一体へと近付いていく。
腰が抜けたようになって、尻を地に付けていた。
「はあ……、だから、妖怪だって言ってるでしょ。ここまで頭が悪いとか、死ね、豚野郎」
一部の特殊な性癖の男性なら喜びそうだが、オークにそういった趣味はない様子だ。
「ま、待て……、こんな事して、タダで済むと……、直ぐに仲間が――」
「ああ、この集落に入り込んだ連中ね。もう、動かないけど」
信じられないといった顔を見せたオークであったが、怪我をした人間の男らが集まってくるのを見れば、それが事実であると理解できたようだ。既に殺されているはずだから。
ただ、人間の男らが閻鬼に向ける瞳は恐怖。
オークどもの襲撃があったと叫ばれた時、閻鬼は真っ先に殺気のある場所へと向かった。
もっと早く気付けなかったのは、恐れる程の強さをまるで感じなかったからである。
四体を手刀で切り刻み、笑いながらそれを成した少女の姿は、人間の男らにどう映った事であろうか。
だから、最後の一体だ。
「ゆ、許して……」
「どうして人間を襲うの?」
「破滅神様に、混沌を捧げる為」
「は?」
破壊神ではなく破滅神。世界中の神々について詳しいわけではないが、首を傾げる。
「魔物の癖に、聞いていないのか? あの声を!」
イラッとする。
豚面を踏み付けて、潰してしまっていた。わめく騒音は消えたが、
「あら……、やっちゃった」
テヘペロ。
人間の男らは蒼白の顔をしている。
「おかしいわ。可愛いって、言ってもらえるところなのに」
どうも喜んでもらえている雰囲気ではない。
顔を向ければ「ヒッ」と悲鳴が聞こえ、震えながら矛先を向けてきた。
振り返って、スープを与えてくれた老婆に視線を送る。
そこにあったのは、絶望に満ちた表情であった。
――まあ、怖いのでしょうね。人間が鬼を恐れるのは普通だもの。
日本では、節分で鬼を歓迎する地域もあるが、一般的には人間の敵であるというイメージのはずだ。
感謝を向けられている様子はない。
『なあ、どんなに恐れられても、仲良くなろうと頑張り続けたら、叶うもんさ』
かつて人間と仲良くなりたい小さな鬼がいた。
彼女は、人間の為に恐ろしい化物と戦った。
何度も挑み、ボロボロになっても諦めなかった彼女の姿に、人間は心を打たれ、応援するようになったという。
その御伽噺の鬼こそ、閻鬼が敬愛する棟梁である。
だから、閻鬼は埃を払うような仕草で、着物に付いた鮮血を妖術で拭うと、老婆に向けてお辞儀をするのだった。
つい先程出会ったばかりの人間。だが、自分を心配して、食事も与えてくれた。
感謝を表すのが、礼儀ではないか。
後は、振り返らずに去るだけだ。
――――
破滅神は仰った。
もはや、この世界に勇者は現れない。幾十年、幾百年、この時を闇の中で待った。
魔物と呼ばれる愛しき存在よ。我が対となる神は力を無くし、もう異世界から勇者を召喚する事はない。
さあ、存分に屈辱の歴史を払うがよい。
我が偉業を称えるなら、混沌を捧げよ。
最も混沌を捧げた物を魔王とし、更なる祝福を与えよう。
オーク王はその時の歓喜を生涯忘れないと思った。
魔物と人間種。相反する価値観を持つ二つの勢力は、太古より種の存続をかけて戦い続けてきた。
破滅の使徒たる魔物が立つ度に、人間種側の神は異世界から勇者を召喚して、これを挫いてきた。
忌まわしき歴史だ。
身体能力、魔力、寿命、どれを比較しても魔物が人間より劣る要素はなかった。
なのに、悉く敗れたのだ。
異世界からの勇者――こいつさえ現れなければ、日の当たる場所に君臨しているのは魔物のはずだったのだ。
度重なる敗北に、魔物は勇者が現れるのを恐れ、地に、森の奥深くに隠れるようになってしまった。
その間に劣等種たる人間が、数を増やし、我が物顔で世界に広がっている。
だが、唯一恐れる勇者はもう現れない。
「俺はついている。この機に一族の王であった事。人間が近くにいた事。オーク兵が皆、精鋭として育っていた事。さあ、進軍せよ。まずは近くの人間の集落を襲い、破滅神様に混沌を捧げるのだ」
奮い立つ配下を見て、満足そうに頷いた。
尤も、先行させた者らだけで、小さな集落など陥落していよう。
斥候からの情報では、人間どもは東へと使いを出したようだ。この人間の国の軍隊がやってくるに違いない。
まずは集落に拠点を構えて迎え撃つ。
「おっと、先行させた者らに、少しは生かしておくように言うのを忘れた。人質がいないと少々面倒かもしれん」
無論、負ける気など全くない。
我らオークこそが最強なのだから。
広野を進軍する。
後、半日もすれば、目的の集落に到着するだろう。
楽しみだ。
人間の肉は久しぶりだ。若い娘は性欲を満たすに適している。本能のうち、どちらをまずは満たそうか。涎が垂れた。
ビュンっと音が聞こえた気がする。
進軍する集団の前方がやけに騒がしくなった。
「ん? 何事か!」
混乱しているように見え、近くにいた側近も首を傾げた。
また、ビュンと聞こえる。
すると、混乱は阿鼻叫喚と変わった。
数体が倒れていて、確認の間に、また数体が倒れていく。
「攻撃だ! 何処からか攻撃を受けているぞ!」
自分を守るように、数体が周りを囲んできた。その中心で、オーク王は辺りを見渡す。
「敵は何処か!」
近くにはいない。ならば遠距離から撃たれている。
矢は見えない。倒れたオークの体には幾つかの穴が空いていた。
魔法か?
姿の見えない距離から放たれる魔法ならばかなりの術者に違いない。
「馬鹿な……、こんな魔法は知らない。こんな攻撃ができる人間がいるわけ……」
まさか、勇者なのか?
だが、破滅神様は、勇者は現れないと言った。破滅神様が我らを謀るはずなどない。
考えているうちに、また次々とオークが攻撃を受けて、絶命していた。
何が起きている?
身を隠さなくてはならない。だが、荒野のど真ん中に、障害物はない。
動揺の中、異様な気配を感じ取った。
笑っている。
そいつは、笑いながら近付いてきていた。
「鬼は外、福は家……」
呪文のような物を唱えながら、何かを投げてくる。
ビュンとまた音が聞こえ、正面にいた一体が倒れた。
貫通したそれをオーク王は、反射的に握っている。
「…………石」
そいつが投げていたのは、ただの石だった。魔力は感じなくて、そこらじゅうに転がっている石ころだ。
黒い髪をした小さな女である。
「人間……、いや……」
角が見えた。
オーガに似ていたが、顔立ちや肌の色はより人間に近い。
「うわぁあああああ――、何をしている! そいつを殺せ!」
得体の知れない存在に、怖気を自覚する前に、震えながら叫んでいる。
そいつと視線が合った。
「みーつけた」
途端に、時が止まった。
正確には、時が止まったように感じた、だ。
配下のオーク、生き残り四百弱の全てが、まるで動いていない。
それはオーク王も同じであった。
鼓動が激しく鳴っている。冷や汗がどっと全身を流れていった。
迫ってくるのは死の顕現。
女は、真っ直ぐにこちらに向かってくる途中、邪魔なオークを拳で叩き、肉魂へと変えていった。
「あ……あが……」
開いた口から声が出ない。膨張してくる感情は、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖――。
血飛沫が、オーク王の体を濡らした。
周りの側近が全て、女の手刀に切り刻まれていた。
「一飯の恩の為に、死んでくださいね」
股間にぶらさがった物が硬くなりそうな妖艶な笑みを見せられながら、オーク王は頭から両断される。
配下のオークが一体残らず、自分と同じ運命になるのを見届ける事無く、王は絶命した。
――――
荒野に大量の魔物の死骸。血生臭さが、乾いた風に乗っていく。
冷めた瞳で周りを見回して、一仕事を終えたのを閻鬼は確認した。
決して美味しいスープではなかった。
だが、ボロ小屋のような家から考えれば、精一杯のもてなしであったのだろう。それに、とても温かかった。
自分を恐れたのは人間。だが、出会ったばかりの者に優しくできるのも人間だ。
なにより、ここで魔物を見逃したら、帰った時に棟梁にどう報告したらいいのか。
オークと呼ばれる魔物の集団があの集落に向かっている事を知り、方角も聞いていた。
だから、迎え撃つつもりでいたのだが、問題は数が多い事だ。
自分だけに向かってくるのなら、殲滅するのは簡単であろう。戦闘ヘリ一機で充分に戦える程度の戦力だと分析していた。
攻撃的な妖術が使えるなら、それで一気に数を減らす手はある。
が、鬼の基本的な戦い方が腕力に物を言わせるもの。物理特化タイプなのだ。
中には鬼神姫のような超大な妖力を持ち、それを自在に使った戦い方のできる鬼もいるのだが、自分に伝説の最強鬼のような真似はできない。
数の多い事の何が問題かと言えば、自分を無視して、あるいは逃げて、そのまま人間の集落に向かってしまう恐れがあるからだ。
逃してたまるか。
簡単な妖術なら使える。
索敵――場所を特定。数は六百三十一体。
纏まって移動しているが、直接ぶつかる前に、二百程度は減らしておきたい。
遠距離攻撃をしたい。
武器は――あるではないか、足元に幾つも。
己の闘気を込めた小石を投げて、確実に潰していく。
散り散りに逃げていく者を先に殺していけば、今度は仲間を盾にしだす。
愚か。余りにも愚か。
できれば、敵の頭を先に潰してしまいたい。少対多の戦いでは基本だ。尤も、全滅させるのだから、関係ないのだが。
慌てて、命令を出した者がそれ。
「みーつけた」
今の敵の数、位置なら、全体を金縛りにできる。これも指揮官の恐怖が伝染してくれたお陰でもある。
これで後は、息の根を止めていくだけ。
「それにしても、この地の神は何をしているのでしょう? 密かにテロ行為をするのならまだしも、こんなに大ぴらに殺戮行為に及ぼうとしている人外がいるなら止めなくてはいけないでしょうに」
怠慢な神のいる国だと呆れる。
「それとも、魔界からやってきたのなら、白き衣の神を通じて、魔王に文句を言ってもらわねば」
ところで、ここは何という国なのか。
もう少し、世界地理を勉強しておくべきだったと、閻鬼は溜息を付いた。
ほんの少し、気を送り込んだだけで吹き飛んでしまうような脆弱な体。これの何処が鍛えた人間が倒すのに数名が必要なのか。
――自衛隊員一人で充分でしょうに。
飛び散った血肉によって、着物が汚れたが、妖術で綺麗に拭えばいい。
さて、残っているのは二体。
「な、なんだ、お前ぇ――」
笑ってやった。
血塗られた顔で、口角を上げる美少女の姿に魔物すら慄いている。
「オーガ、か?」
後退りしながら一体が呟いた。
「なに、それ? 立って喋るといっても豚さんだから、知恵が足りないのかしら。鬼だって、言ってるでしょ」
その瞬間、閻鬼の体はオークの肩に乗っていた。ギョッとする顔を見ると、頭を掴み、捩じ切るようにして、胴体と分離させる。
真っ赤な噴水があがり、倒れ込む前に地に降り立った。
「うぁあああ――――、お、お前、魔物の癖に、人間の味方……」
つまらなそうにオークの頭部を投げ捨てると、最後の一体へと近付いていく。
腰が抜けたようになって、尻を地に付けていた。
「はあ……、だから、妖怪だって言ってるでしょ。ここまで頭が悪いとか、死ね、豚野郎」
一部の特殊な性癖の男性なら喜びそうだが、オークにそういった趣味はない様子だ。
「ま、待て……、こんな事して、タダで済むと……、直ぐに仲間が――」
「ああ、この集落に入り込んだ連中ね。もう、動かないけど」
信じられないといった顔を見せたオークであったが、怪我をした人間の男らが集まってくるのを見れば、それが事実であると理解できたようだ。既に殺されているはずだから。
ただ、人間の男らが閻鬼に向ける瞳は恐怖。
オークどもの襲撃があったと叫ばれた時、閻鬼は真っ先に殺気のある場所へと向かった。
もっと早く気付けなかったのは、恐れる程の強さをまるで感じなかったからである。
四体を手刀で切り刻み、笑いながらそれを成した少女の姿は、人間の男らにどう映った事であろうか。
だから、最後の一体だ。
「ゆ、許して……」
「どうして人間を襲うの?」
「破滅神様に、混沌を捧げる為」
「は?」
破壊神ではなく破滅神。世界中の神々について詳しいわけではないが、首を傾げる。
「魔物の癖に、聞いていないのか? あの声を!」
イラッとする。
豚面を踏み付けて、潰してしまっていた。わめく騒音は消えたが、
「あら……、やっちゃった」
テヘペロ。
人間の男らは蒼白の顔をしている。
「おかしいわ。可愛いって、言ってもらえるところなのに」
どうも喜んでもらえている雰囲気ではない。
顔を向ければ「ヒッ」と悲鳴が聞こえ、震えながら矛先を向けてきた。
振り返って、スープを与えてくれた老婆に視線を送る。
そこにあったのは、絶望に満ちた表情であった。
――まあ、怖いのでしょうね。人間が鬼を恐れるのは普通だもの。
日本では、節分で鬼を歓迎する地域もあるが、一般的には人間の敵であるというイメージのはずだ。
感謝を向けられている様子はない。
『なあ、どんなに恐れられても、仲良くなろうと頑張り続けたら、叶うもんさ』
かつて人間と仲良くなりたい小さな鬼がいた。
彼女は、人間の為に恐ろしい化物と戦った。
何度も挑み、ボロボロになっても諦めなかった彼女の姿に、人間は心を打たれ、応援するようになったという。
その御伽噺の鬼こそ、閻鬼が敬愛する棟梁である。
だから、閻鬼は埃を払うような仕草で、着物に付いた鮮血を妖術で拭うと、老婆に向けてお辞儀をするのだった。
つい先程出会ったばかりの人間。だが、自分を心配して、食事も与えてくれた。
感謝を表すのが、礼儀ではないか。
後は、振り返らずに去るだけだ。
――――
破滅神は仰った。
もはや、この世界に勇者は現れない。幾十年、幾百年、この時を闇の中で待った。
魔物と呼ばれる愛しき存在よ。我が対となる神は力を無くし、もう異世界から勇者を召喚する事はない。
さあ、存分に屈辱の歴史を払うがよい。
我が偉業を称えるなら、混沌を捧げよ。
最も混沌を捧げた物を魔王とし、更なる祝福を与えよう。
オーク王はその時の歓喜を生涯忘れないと思った。
魔物と人間種。相反する価値観を持つ二つの勢力は、太古より種の存続をかけて戦い続けてきた。
破滅の使徒たる魔物が立つ度に、人間種側の神は異世界から勇者を召喚して、これを挫いてきた。
忌まわしき歴史だ。
身体能力、魔力、寿命、どれを比較しても魔物が人間より劣る要素はなかった。
なのに、悉く敗れたのだ。
異世界からの勇者――こいつさえ現れなければ、日の当たる場所に君臨しているのは魔物のはずだったのだ。
度重なる敗北に、魔物は勇者が現れるのを恐れ、地に、森の奥深くに隠れるようになってしまった。
その間に劣等種たる人間が、数を増やし、我が物顔で世界に広がっている。
だが、唯一恐れる勇者はもう現れない。
「俺はついている。この機に一族の王であった事。人間が近くにいた事。オーク兵が皆、精鋭として育っていた事。さあ、進軍せよ。まずは近くの人間の集落を襲い、破滅神様に混沌を捧げるのだ」
奮い立つ配下を見て、満足そうに頷いた。
尤も、先行させた者らだけで、小さな集落など陥落していよう。
斥候からの情報では、人間どもは東へと使いを出したようだ。この人間の国の軍隊がやってくるに違いない。
まずは集落に拠点を構えて迎え撃つ。
「おっと、先行させた者らに、少しは生かしておくように言うのを忘れた。人質がいないと少々面倒かもしれん」
無論、負ける気など全くない。
我らオークこそが最強なのだから。
広野を進軍する。
後、半日もすれば、目的の集落に到着するだろう。
楽しみだ。
人間の肉は久しぶりだ。若い娘は性欲を満たすに適している。本能のうち、どちらをまずは満たそうか。涎が垂れた。
ビュンっと音が聞こえた気がする。
進軍する集団の前方がやけに騒がしくなった。
「ん? 何事か!」
混乱しているように見え、近くにいた側近も首を傾げた。
また、ビュンと聞こえる。
すると、混乱は阿鼻叫喚と変わった。
数体が倒れていて、確認の間に、また数体が倒れていく。
「攻撃だ! 何処からか攻撃を受けているぞ!」
自分を守るように、数体が周りを囲んできた。その中心で、オーク王は辺りを見渡す。
「敵は何処か!」
近くにはいない。ならば遠距離から撃たれている。
矢は見えない。倒れたオークの体には幾つかの穴が空いていた。
魔法か?
姿の見えない距離から放たれる魔法ならばかなりの術者に違いない。
「馬鹿な……、こんな魔法は知らない。こんな攻撃ができる人間がいるわけ……」
まさか、勇者なのか?
だが、破滅神様は、勇者は現れないと言った。破滅神様が我らを謀るはずなどない。
考えているうちに、また次々とオークが攻撃を受けて、絶命していた。
何が起きている?
身を隠さなくてはならない。だが、荒野のど真ん中に、障害物はない。
動揺の中、異様な気配を感じ取った。
笑っている。
そいつは、笑いながら近付いてきていた。
「鬼は外、福は家……」
呪文のような物を唱えながら、何かを投げてくる。
ビュンとまた音が聞こえ、正面にいた一体が倒れた。
貫通したそれをオーク王は、反射的に握っている。
「…………石」
そいつが投げていたのは、ただの石だった。魔力は感じなくて、そこらじゅうに転がっている石ころだ。
黒い髪をした小さな女である。
「人間……、いや……」
角が見えた。
オーガに似ていたが、顔立ちや肌の色はより人間に近い。
「うわぁあああああ――、何をしている! そいつを殺せ!」
得体の知れない存在に、怖気を自覚する前に、震えながら叫んでいる。
そいつと視線が合った。
「みーつけた」
途端に、時が止まった。
正確には、時が止まったように感じた、だ。
配下のオーク、生き残り四百弱の全てが、まるで動いていない。
それはオーク王も同じであった。
鼓動が激しく鳴っている。冷や汗がどっと全身を流れていった。
迫ってくるのは死の顕現。
女は、真っ直ぐにこちらに向かってくる途中、邪魔なオークを拳で叩き、肉魂へと変えていった。
「あ……あが……」
開いた口から声が出ない。膨張してくる感情は、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖――。
血飛沫が、オーク王の体を濡らした。
周りの側近が全て、女の手刀に切り刻まれていた。
「一飯の恩の為に、死んでくださいね」
股間にぶらさがった物が硬くなりそうな妖艶な笑みを見せられながら、オーク王は頭から両断される。
配下のオークが一体残らず、自分と同じ運命になるのを見届ける事無く、王は絶命した。
――――
荒野に大量の魔物の死骸。血生臭さが、乾いた風に乗っていく。
冷めた瞳で周りを見回して、一仕事を終えたのを閻鬼は確認した。
決して美味しいスープではなかった。
だが、ボロ小屋のような家から考えれば、精一杯のもてなしであったのだろう。それに、とても温かかった。
自分を恐れたのは人間。だが、出会ったばかりの者に優しくできるのも人間だ。
なにより、ここで魔物を見逃したら、帰った時に棟梁にどう報告したらいいのか。
オークと呼ばれる魔物の集団があの集落に向かっている事を知り、方角も聞いていた。
だから、迎え撃つつもりでいたのだが、問題は数が多い事だ。
自分だけに向かってくるのなら、殲滅するのは簡単であろう。戦闘ヘリ一機で充分に戦える程度の戦力だと分析していた。
攻撃的な妖術が使えるなら、それで一気に数を減らす手はある。
が、鬼の基本的な戦い方が腕力に物を言わせるもの。物理特化タイプなのだ。
中には鬼神姫のような超大な妖力を持ち、それを自在に使った戦い方のできる鬼もいるのだが、自分に伝説の最強鬼のような真似はできない。
数の多い事の何が問題かと言えば、自分を無視して、あるいは逃げて、そのまま人間の集落に向かってしまう恐れがあるからだ。
逃してたまるか。
簡単な妖術なら使える。
索敵――場所を特定。数は六百三十一体。
纏まって移動しているが、直接ぶつかる前に、二百程度は減らしておきたい。
遠距離攻撃をしたい。
武器は――あるではないか、足元に幾つも。
己の闘気を込めた小石を投げて、確実に潰していく。
散り散りに逃げていく者を先に殺していけば、今度は仲間を盾にしだす。
愚か。余りにも愚か。
できれば、敵の頭を先に潰してしまいたい。少対多の戦いでは基本だ。尤も、全滅させるのだから、関係ないのだが。
慌てて、命令を出した者がそれ。
「みーつけた」
今の敵の数、位置なら、全体を金縛りにできる。これも指揮官の恐怖が伝染してくれたお陰でもある。
これで後は、息の根を止めていくだけ。
「それにしても、この地の神は何をしているのでしょう? 密かにテロ行為をするのならまだしも、こんなに大ぴらに殺戮行為に及ぼうとしている人外がいるなら止めなくてはいけないでしょうに」
怠慢な神のいる国だと呆れる。
「それとも、魔界からやってきたのなら、白き衣の神を通じて、魔王に文句を言ってもらわねば」
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ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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