恩恵なしに異世界に放り込まれたけど妖怪だから大丈夫

千夜詠

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妖狐・すねこすり

妖狐・すねこすり①

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 ここはイタル平原というらしい。ここから南下すれば、緑は少なくなり荒野となるが、この辺りはまだ草木が多いそうだ。サバンナのような風景が広がっている。

「退屈……」

 燃尾は誰に聞かれる事もないように小さく呟いたが、影から声がした。

「あねさん、贅沢はいけないよ」

 はぐれた仲間らの中でたまたま近くにいた「すねこすり」という犬のような猫のような小さな妖怪は、今、自分の影に身を潜めている。

「わーてるって」

 途方に暮れる状況で、見つけたのが獣人の村だった。姿が似ている事から獣人と勘違いされた燃尾は、受け入れられ、歓迎もされている。

「しかし、まさか、ここが異世界とはね」

 異世界という物があるのは知っていた。天界や魔界がもう異世界のような物であるし、白き衣の化物は異世界からやってきたのだという。
 ただ、ここはかの白き衣の化物がいた異世界とはまた別の世界。かの物がいた異世界には人間はいなかったらしく、聞いた情報ではここには人間がいる。

 どうして、こんな場所にいるのか、理由は全く分からない。
 修学旅行に出発したばかりだったのが、妙な霧に包まれ、いつの間にか眠ってしまっていた。
 眠ってしまったのはきっと異世界に渡る為に、妖力を消費させられたからに違いない。
 その証拠に、気付いた時の気怠さは半端なかった。

 目覚めると周囲には何もない荒野にいた。
 幸いに、調理されている食べ物の匂いがして、向かってみるとこの村があったのだ。
 住んでいたのは体の何処かに獣の特徴を持った獣人であった。

 最初は妖怪の仲間かと思ったが、妖気はまるで感じられず、自らを獣人といった彼らが人間に近い亜人であると分かる。
 つまり、ここが元いた世界ではないという証明であった。

 厄介になった家の側から、慌ただしく走っていく獣人らを見た。
 穏やかそうに生きているように見えた彼らが表情を曇らせ、首を横に振っている。

 近付いてくる者がいた。チビの妖怪が影の中に引っ込む。

「モエビさん、ここにいたんだね」

 鹿の角を持った村の青年だ。

 妖艶な若い美女で、アルプスで見るような長いスカートの衣装をした村の女と違い、透けるような薄い白ブラウスに、下着が覗けそうな短いスカートの姿の燃尾は、魅力的に映ったか、まずは男どもが寄ってきた。
 優しくしてくれるのも牡ばかり。牝にはそれが面白くないようで、遠巻きにするだけである。

「何かあったの?」

 チラチラと胸元を見てくるが、燃尾は気にしない。ブラジャーはしていないから、牡なら当たり前の興味であろう。

「あ、ああ、黒の森から魔物がやってきた。それで、村長が対応したんだけど……」

「攻めてきたって訳じゃなさそうだけど」

「今はね。要求を飲まないと、滅ぼされるかもしれない」

 やってきたのは、人狼と呼ばれる魔物だそうだ。妖弧の燃尾は、どちらかと言えば、魔物の方に近い存在である。
その人狼が言うには、配下に加わり、人間の町を共に襲え、との事。

「この村からも国に仕え、兵士となっている者だっている。人間とは上手くやってきたんだ」

「じゃあ、むしろ、人狼の方が敵って事じゃね。当然、突っぱねたんだよね」

「いや、村長は返事を待ってくれって」

「どうして?」

「奴らと俺たちでは戦いになったら勝ち目はないよ」

「じゃあ、配下になるの?」

「それは……」

 はっきりしない青年に、苛立ちを覚えた。

 人狼というのは、元いた世界にもいた。それと同じ程度の強さなら燃尾なら抵抗できる。
 だが、人間が人狼に勝つのは難しい。獣人らの身体能力は、人間よりは高そうだが、やはり人狼には劣るだろう。
 それを理解してやらねば可哀想だが、やはり気に入らなかった。

「これから、村の会議がされる。君も悪い時に来てしまったね」

「貴方は出ないの?」

「俺は出ないけど、父さんは役員だから」

 青年と別れると、彼の父親を探した。

 この村で誰が偉いのか。それを最初に確認している。人を化かすのは狸も同じだが、牝狐はより人に近付き化かす。
 人間のコミュニティの中で、影響力の高い者に近付き、己に利益を齎す為だ。
 村の役員である青年の父親もチェックしていたから、集会場に向かっていくところを見付けた。

「ねえ、今から会議なのよね」

「ん? ああ、君か」

 急いでいるのだろうが、質量の十分な胸を揺らしながらフェロモンを発してやれば、牡は簡単には離れられない。
 顔を急接近させると、いい年をしてドギマギしている様子の中年男の表情だ。その瞳をじっと見詰めれば、仕込みは完了である。

 彼の視覚と聴覚を一時的に共有させてもらった。

 会議が始まる。覗き見、盗み聞きする為に、誰にも邪魔されない陰に隠れておく。

 垂れた犬の耳をした村長が重々しく口を開いた。

「もう、聞いておろう。黒の森の魔物が、配下に加われ、と言ってきた。返事は保留にしたが、今宵また来ると言っておる」

 虎耳が発言する。

「儂は断固反対だ。儂の弟は国軍でそれなりの地位に就任しておる。国王は人間も亜人も関係なしに、優秀な者を正当に評価してくれる優れたお人だ。裏切る事はできん」

 ウサギ獣人の小さな夫人がヒステリックに言った。

「じゃあ、戦えっていうの! 皆、殺されるわ!」

「では、奴らに従うのか? 王様だけじゃない。ここには人間の行商人だってやってくる。よくしてくれる彼らとも戦う事になるんだぞ」

「代わりに私たちが殺されるのよ。うちの子も、貴方の子供だって!」

「裏切り者の汚名を着ながら生きるより、誇りを持って死んだ方がマシだ。それに、魔物は信用できない。配下になれば、奴隷のように扱われるだけだ」

 二人の言い合いを制するように、鹿角の親父が手を上げた。

「城下に使いを出して、私たちも逃げる事はできないか?」

 第三の選択としてはそれしかないのだろう。
 だが、難しい。
 今から村人全員でここから離れたとして、何処まで逃げ切れるか。

 ――まっ、あたしが人狼なら、監視を続けているわね。

 逃げだせば、即、対応してくるはずだ。
 逃げる、という事は配下になる事への拒絶。対応は当然、殺戮という事になろう。

 ここは異世界であるが、獣人なんて者がいて、耳や尻尾を隠さないでもいられる。この村は退屈ではあったが、居心地は良かった。
 もう暫くいても良かったが――一か所に留まる事で仲間と出会えるかもしれないし――潮時というやつか。

 会議は続いている。

「使いはもう出した。だから、我々が魔物と一緒にいてもきっと理由は分かってくれる」

「おお、流石は村長。なら、奴らに従う振りをして、いざ、王国軍と戦う時に、魔物を裏切ればいい」

 妙案ではある。が――。
 誰かが息を切らして、集会場に飛び込んできた。

「大変だ! こ、殺された。町に向かった使いが……、死体になって、魔物が運んできやがった」

 騒然となる。
 死体をわざわざ運んできたのは、見せしめと警告の為だろう。
 既にこの村の周辺に何体かの魔物が監視を張り巡らせているのだ。

 やはり二択。恭順か死か。
 彼らがどちらを選ぼうと、破滅には違いないだろう。

 ――可哀想だけど、肩入れしたってあたしにメリットはないしね。

 早々に余所者は立ち去るだけ。まあ、監視の魔物の数体くらいは倒してやっておいてもいい。

「私は……やはり、王様は裏切れん」

 ヤギの角と髭をした牡が喋った。

「王様が幼少の頃、草木や花々、生物を教える役目を仰せつかって、城にいた事がある。聡明で、心優しいお方だ。先王様が早くに亡くなり、若くして王になったばかりだが、国民に愛される良き王になろう」

 国王の情報か。もう少し聞いてみよう。

「再び支えになろうと思っても、矛を向ける事などできん」

 ウサギ婦人もこれには頷いてしまっている。

「女性にも人気があるしね。ああ、まだ独身だったわよね」

 ほほう、女性に人気のある独身の王ですか。

「弟の話では、恋人はいないらしい。ストイックなお方らしく、国の為に働き、自分を鍛える事も忘れない。美丈夫であるが、男からも尊敬されているらしいぞ」

 なに、その優良物件。
 妖狐として、放ってはおけない。ビッチとして、寝てみたい。
 その若き王のいる首都まで、早速いってみようか?
 いや、王に上手く近付く事ができても、万が一、この村の誰かが生き残ったら、見捨てて一人だけ逃げた事がバレる。
 ヤギ男は知り合いらしいから、彼を生かしておいた方がお近づきになれやすい。
 紹介してもらうには、それなりの理由が必要であろう。
 なら――。

 鹿角の親父とのリンクを切断すると、集会場に向かい、そして扉を開けた。
 部外者の登場に、ギョッとする目と、いぶかしげな瞳があったが、言い放ってやる。

「あたしが逃がしてあげようか」

 ざわつく。だから、続けて言った。

「こう見えてもあたし、大魔法使いよ」

 妖力を少しだけ使って、上に向けた掌に炎を出してやる。
 一瞬の驚きと、次には希望が獣人らの表情に出た。

 つまりは、大活躍して目立ち、王様に会おう作戦、である。
 元の世界に戻る手立てもまるで分からない状況なのだ。ならば、ゲームのように少し楽しませてもらってもいいだろう。

 燃尾の自信に満ちた表情は、獣人らを納得させるのに充分であった。
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