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ダークエルフ
ダークエルフ②
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ダークエルフはひねくれ者が多い。
エルフの国ディープグリンで、ベオルグは産まれたが、例に漏れず、彼の両親もまたひねくれ者であった。
ディープグリンという国は、国土の九割が森林であり、町も村も木々や植物と共にある。極力、樹木を伐採する事無く家屋を作り、人工物と緑が共存していた。故に、世界で最も美しい国と呼ばれるのだ。
そんな見た目は美しい国の中で、ベオルグは醜さを見続けた。
明確な種族の上下がエルフにはある。
彼らが最も上位に敬愛するのが神であり、続いて最高位の精霊がくる。この考えは他の国々でも変わらないが、一生のうちにまず出会う事ない存在だ。
世界に留まりある存在で、エルフが考える最上位は、ハイエルフになる。
その下に一般的にエルフと呼ばれる森エルフがあり、彼らにとって、標準の存在だ。
これより下に考えられるあらゆる知的生物が侮蔑の対象である。ドラゴンでさえ。
人間種、獣人種、ドワーフ、ときて、その下にダークエルフがやっとくる。
知恵ある魔物は上下関係には考えられない。
単純に敵対する存在というだけで、侮蔑を向けるより、殺意と恐怖を向ける対象だった。
ベオルグの両親のひねくれぶりは、ダークエルフの中でも際立って、どんなに忌み嫌われようと、森エルフの町に住んでいた。
他のダークエルフは、自分達だけの集落を作っていたが、そこでも変人扱いされている。
周囲の森エルフからどんなに嫌われようと、実害はない。不気味とされ、近付いてはこないから。
そんな環境で生まれ育ったベオルグだから、他種族を見下し続ける森エルフを間近で見てきたのだ。
当然、友人などできるはずもない。だから、書物を読み続けた。
紙はある。印刷技術もある。だが、書物や地図は重要な知恵であり、高額な値がつけられ、普通では買えぬ代物であったが、沢山あった。
何故か?
それはベオルグの両親が、父も母も、研究者であり著者であったから。
ダークエルフの集落でなく、森エルフの町に来たのは、誰も接触してこないから、これに没頭できたからに相違ない。
こんな環境で育ったベオルグであったが、ある日を境に気付く。
周囲の誰よりも魔術の才を持ち、既に両親の持つ知識だけでは物足りなくなった事に。
だから、ベオルグはディープグリンを出た。
丁度、魔物の軍勢と、勇者ノブナガが激戦を繰り広げていた頃である。
百年、世界を巡り、唯一彼を受け入れてくれたのが、破滅神の信奉者だけだった。
信奉者には魔物だけでなく、人間も亜人もドワーフ、エルフさえもいて、驚く事に、上下関係がなかった。
だから、ベオルグは暗くてジメジメして、日の当たらないような場所であっても、彼らのいる場所こそ美しく思えた。
そこでベオルグは期待され、協力を得て、魔導を極めていく。
邪教と迫害され、生涯、唯一仲間と言えた彼らが殺された時に、ついに外法に手を出し、町一つを壊滅させ、死体の山を築き、その上で狂気に笑った。
ダークエルフであったベオルグは魔物と化した。力と死を求め続け、辿り着いた先が黒の森。
森を掌握し、ただ一つ敵対を続けたオークは消え、北外れの岩山で空の覇権を握っていた鳥の魔物らも配下となった。
気ままに飛び交うワイバーンも支配したかったが、飼いならす前に荒野で死骸になっている。誰が奴を殺ったか、だいたい想像はついた。
「想定していたよりも、人間どもの動きが早いな」
既に空になった村で、ベオルグはそう呟いた。
魔物といえども、休憩なし、食事もなしで、進軍は続けられない。ベトランゼ王国を手に入れるのに、まずは西の都市カサブランダルを落とそうと考えているが、途中の村々でそれらを配下に与える予定でいた。
「ま、これまでに、幾つか村を襲撃してるんだから、流石に気付いて逃げるよね」
フェイノートの発言は他人事のように聞こえ、苛つかせる。だが、悪魔とはそんなものなのだろう。
「仕方あるまい。村の蔵に残った物だけで済ませよう」
人の肉の味を覚えている人狼などには、我慢してもらうしかない。
「で、これからどう向かうんだい?」
「侮れぬ存在がいる。カサブランダルには、オルトロスを倒した者がいるようだし、戦う相手を人間や獣人だけと考えては負ける」
「まあ、そうだろうね」
正確な情報が必要だ。
警戒すべき強者が何人いて、誰なのか。
ベオルグが知っているのは、モエビとオーガもどきの娘。特にオーガもどきの娘は最も警戒しなくてはならない。
「鳥どもの話では、人間の賢者も厄介だ」
「一つ、教えてあげよっか?」
こういうところが苛つかせる。
「勿体ぶらずに話して貰えるか」
「はいはい。えっとね、今、カサブランダルでは、勇者が現われたって、噂が広まっているんだ」
「馬鹿な。破滅神様がもう勇者は現われないと仰ったから、我らは動きだしたのだぞ」
「そう、そいつは勇者なんかじゃない。だけど、そいつの存在が、人間どもの士気を高めている。士気は大事だよ」
「うむ……」
さて、どうするか。
暗殺者を送り込み、先にその勇者と思われている者を亡き者としてしまえば、敵の大幅な戦力ダウンと士気の低下が見込める。
「どうするのさ?」
「他に気になる存在がいる。ここまで再会していないが、移動しているなら、大きな町に向かった可能性もあるのだ」
「ああ、つまり、妖怪どもを心配してんだ」
ヨウカイ――人間、亜人とも魔物とも違う異質な存在。アンデッドの魔物よりも不気味でゴーストよりも正体不明といった印象を持っていた。
「どちらにせよ、情報が欲しい。密偵を送りたいところだが……」
向いている魔物なんていない。
「いいよ、私が行ってあげようか?」
「ほう……、いいのか?」
「うん。ちょっと興味があるしね。会えるといいな、妖怪」
まるで緊張感のないフェイノートであるが、実力は確かだろう。
現実的に、人間の町に入り込んでも違和感のないのは、彼女だけだ。翼を隠すだけで、角は羊の獣人にも似ている。用心するなら帽子を被ればいい。
フェイノートには二日を与えた。
――――
大笑いと馬鹿笑いが響き渡った。
空葉の与えられた部屋に行き、人間が誰もいなくなったところで、互いのこれまでの経緯を話し合ったが、閻鬼は呆れ、燃尾は笑わずにはいられなかったのだろう。
「ぶひゃひゃ、こいつが英雄とか……、ないわぁ。ぷ……」
「笑い過ぎよ、発情狐。先生なのだから」
一応ね。
「ガシャドクロが賢者となっている方が笑えるんだが」
憮然と空葉が人間の姿のまま呟く。
「あら、感動のお話なのですけど」
大人の話にはついていけないので、キュピエルはスネコスリと遊んでいる。ガシャドクロもいつ人間が入ってきてもいいように、ハクレウスのままでいた。
「それで、先生、ぬりかべもいるのでしょ?」
「ああ、街の外にいてもらっている。彼は街中には向かいからな」
これで、合流できた妖怪は、鬼、妖狐、ガシャドクロ、化狸、ぬりかべ、スネコスリ、と六名。現地の天狗が一人、だ。
「あと、えーと八つ。川猿、クネユスリ、海座頭、ずんべら坊、それから雪女と二口女、蔵ぼっこ、そして座敷童ね」
もしかしたら、朧バスも来ているかもしれない。その中に、荷物が置かれたままで、気になった栞もあれば――。
「どうした、閻鬼?」
「いえ……、先生は旅の栞をお持ちではないのですか?」
「さっき、話したこちらに来てしまった理由か。閻鬼はそこにヒントがあると?」
「確証はないのですが……」
やはり、この話題は今持っている情報では、これ以上は考えようがなかった。
「ねえ、モッコリ、ここで厄介になってるんでしょ? 情勢を教えてよ」
と、燃尾。
「モッコリ言うな。ああ、世界がどうなっているかは、ハクレウス殿に聞いたんだろ? そうだな、伯爵が集めた情報では、魔物の動きが活発になっているのは確かだ。ただ、他の国事までは分からん」
今度は閻鬼がハクレウスに聞いた。
「あの黒の森に、多くの魔物を押し込めたのよね」
「そうです。大陸西側にいた魔物の多くは、そこに追いやられた。ですが、それが全てではありません。東の大山脈、南の大海にも同等か、それ以上の魔物がいるでしょう」
「例えば、もっと大規模な戦争になった場合、多分だけど、数的には人間が有利でしょ」
「この国だけでも集めれば、二万の兵がいます。黒の森にどれくらいの魔物がいるかは正確には分かりませんが、多くても三千とか」
約七倍近くの差か。
ハクレウスが続ける。
「ですが、魔物は人間や亜人よりもずっと強い」
空葉が補足した。
「先日の戦いでも、ベテランの兵士が、昔の魔物よりも強いとか言っていたな」
ハクレウスが頷いた。
「ええ、そして、魔物の中には、文字通り、一騎当千とも言える存在も一体や、二体ではないのです」
文字通り――千人がかりで一体と互角の相手がいたら、数の差など関係ない。
「つまり、圧倒的に人間や亜人の方が不利なのですね」
はあ、と一つ息を吐き、閻鬼は考える。
これから、どう行動すべきなのか。
「教師として、他の生徒を探すべきなのは分かっているが、伯爵には恩義がある。また、いつ魔物が襲撃してくるか分からない状況じゃ、ここからは離れられん」
「まあ、先生としては、そうなのでしょうね」
「閻鬼たちも付き合う必要はない。妖怪らしく、気ままに自由に行動してくれ」
閻鬼はチラっとハクレウスを見た。
「賢者として、要請されれば、特に急ぎの用事でもないと、断りきれん」
燃尾はというと、
「あたしは、とっとと王都に向かって、早くその若くてイケメンの王様に会いたいんだけど」
ブレない。
キュピエルはハクレウスと共にいる事を選ぶだろうし、スネコスリは燃尾のほぼ子分だ。
では、閻鬼はどうするのか。
「目的が不明瞭です。もしも何者かが、私たちをここにわざと送り込んだのなら、その理由は?」
自分の希望だけで言えば、第一目標は、元の世界に帰る事。
一つの物語の登場人物と考えると、ここに来た目的を達成しなければ、帰る事はできない。
肝心のそれが分からないし、そうと決まった訳でもない。
やはり、朧バスを探すべきか。手がかりすらない。
頭が痛い。
「はあ、だいたい、元々はこの世界の住人であるハクレウスは別にして、どうして、私が思考する役なのかしら」
バリバリの武闘派の鬼なのに。
じとっと周りを見たら、絶賛発情中と変態狸に、小動物。外にいるという、ぬりかべは、チンパンジー並の知能ときた。
せめて、川猿かずんべら坊がいてくれたら。
トントンと扉を叩く音が聞こえて、だらけそうだった身をしゃんとさせた。
入ってきたのは、この伯爵家に仕える侍女と、そして妹令嬢であるレベッカだった。
「皆様、お茶をお持ちしました。あの、良ければ私もご一緒に旅のお話しなど、お聞かせ願えませんか?」
夕食の席まで待てなかったのか、好奇心旺盛そうな令嬢がさりげなく空葉の隣に座る。
――この人間のお嬢様、噂通り、まさか……。
空葉の正体をばらしたくて、ウズウズしてしまったのは閻鬼だけではない。
人間が見た目に騙されやすいのは、男も女も同じようだ。
しかし、妖怪の仲間が世話になった相手。このままレベッカが空葉に対して、いつまでも恋心を抱き続けるのは後の不幸を招きかねない。
「まさか、賢者ハクレウス様と連れの皆様が、カラハ様とお知り合いだったんなんて」
と彼女が会話を切りだしてきたので、ここで言ってみた。
「はい、レベッカ様。父がお世話になりました」
空葉に子持ち設定を付けてやった。
エルフの国ディープグリンで、ベオルグは産まれたが、例に漏れず、彼の両親もまたひねくれ者であった。
ディープグリンという国は、国土の九割が森林であり、町も村も木々や植物と共にある。極力、樹木を伐採する事無く家屋を作り、人工物と緑が共存していた。故に、世界で最も美しい国と呼ばれるのだ。
そんな見た目は美しい国の中で、ベオルグは醜さを見続けた。
明確な種族の上下がエルフにはある。
彼らが最も上位に敬愛するのが神であり、続いて最高位の精霊がくる。この考えは他の国々でも変わらないが、一生のうちにまず出会う事ない存在だ。
世界に留まりある存在で、エルフが考える最上位は、ハイエルフになる。
その下に一般的にエルフと呼ばれる森エルフがあり、彼らにとって、標準の存在だ。
これより下に考えられるあらゆる知的生物が侮蔑の対象である。ドラゴンでさえ。
人間種、獣人種、ドワーフ、ときて、その下にダークエルフがやっとくる。
知恵ある魔物は上下関係には考えられない。
単純に敵対する存在というだけで、侮蔑を向けるより、殺意と恐怖を向ける対象だった。
ベオルグの両親のひねくれぶりは、ダークエルフの中でも際立って、どんなに忌み嫌われようと、森エルフの町に住んでいた。
他のダークエルフは、自分達だけの集落を作っていたが、そこでも変人扱いされている。
周囲の森エルフからどんなに嫌われようと、実害はない。不気味とされ、近付いてはこないから。
そんな環境で生まれ育ったベオルグだから、他種族を見下し続ける森エルフを間近で見てきたのだ。
当然、友人などできるはずもない。だから、書物を読み続けた。
紙はある。印刷技術もある。だが、書物や地図は重要な知恵であり、高額な値がつけられ、普通では買えぬ代物であったが、沢山あった。
何故か?
それはベオルグの両親が、父も母も、研究者であり著者であったから。
ダークエルフの集落でなく、森エルフの町に来たのは、誰も接触してこないから、これに没頭できたからに相違ない。
こんな環境で育ったベオルグであったが、ある日を境に気付く。
周囲の誰よりも魔術の才を持ち、既に両親の持つ知識だけでは物足りなくなった事に。
だから、ベオルグはディープグリンを出た。
丁度、魔物の軍勢と、勇者ノブナガが激戦を繰り広げていた頃である。
百年、世界を巡り、唯一彼を受け入れてくれたのが、破滅神の信奉者だけだった。
信奉者には魔物だけでなく、人間も亜人もドワーフ、エルフさえもいて、驚く事に、上下関係がなかった。
だから、ベオルグは暗くてジメジメして、日の当たらないような場所であっても、彼らのいる場所こそ美しく思えた。
そこでベオルグは期待され、協力を得て、魔導を極めていく。
邪教と迫害され、生涯、唯一仲間と言えた彼らが殺された時に、ついに外法に手を出し、町一つを壊滅させ、死体の山を築き、その上で狂気に笑った。
ダークエルフであったベオルグは魔物と化した。力と死を求め続け、辿り着いた先が黒の森。
森を掌握し、ただ一つ敵対を続けたオークは消え、北外れの岩山で空の覇権を握っていた鳥の魔物らも配下となった。
気ままに飛び交うワイバーンも支配したかったが、飼いならす前に荒野で死骸になっている。誰が奴を殺ったか、だいたい想像はついた。
「想定していたよりも、人間どもの動きが早いな」
既に空になった村で、ベオルグはそう呟いた。
魔物といえども、休憩なし、食事もなしで、進軍は続けられない。ベトランゼ王国を手に入れるのに、まずは西の都市カサブランダルを落とそうと考えているが、途中の村々でそれらを配下に与える予定でいた。
「ま、これまでに、幾つか村を襲撃してるんだから、流石に気付いて逃げるよね」
フェイノートの発言は他人事のように聞こえ、苛つかせる。だが、悪魔とはそんなものなのだろう。
「仕方あるまい。村の蔵に残った物だけで済ませよう」
人の肉の味を覚えている人狼などには、我慢してもらうしかない。
「で、これからどう向かうんだい?」
「侮れぬ存在がいる。カサブランダルには、オルトロスを倒した者がいるようだし、戦う相手を人間や獣人だけと考えては負ける」
「まあ、そうだろうね」
正確な情報が必要だ。
警戒すべき強者が何人いて、誰なのか。
ベオルグが知っているのは、モエビとオーガもどきの娘。特にオーガもどきの娘は最も警戒しなくてはならない。
「鳥どもの話では、人間の賢者も厄介だ」
「一つ、教えてあげよっか?」
こういうところが苛つかせる。
「勿体ぶらずに話して貰えるか」
「はいはい。えっとね、今、カサブランダルでは、勇者が現われたって、噂が広まっているんだ」
「馬鹿な。破滅神様がもう勇者は現われないと仰ったから、我らは動きだしたのだぞ」
「そう、そいつは勇者なんかじゃない。だけど、そいつの存在が、人間どもの士気を高めている。士気は大事だよ」
「うむ……」
さて、どうするか。
暗殺者を送り込み、先にその勇者と思われている者を亡き者としてしまえば、敵の大幅な戦力ダウンと士気の低下が見込める。
「どうするのさ?」
「他に気になる存在がいる。ここまで再会していないが、移動しているなら、大きな町に向かった可能性もあるのだ」
「ああ、つまり、妖怪どもを心配してんだ」
ヨウカイ――人間、亜人とも魔物とも違う異質な存在。アンデッドの魔物よりも不気味でゴーストよりも正体不明といった印象を持っていた。
「どちらにせよ、情報が欲しい。密偵を送りたいところだが……」
向いている魔物なんていない。
「いいよ、私が行ってあげようか?」
「ほう……、いいのか?」
「うん。ちょっと興味があるしね。会えるといいな、妖怪」
まるで緊張感のないフェイノートであるが、実力は確かだろう。
現実的に、人間の町に入り込んでも違和感のないのは、彼女だけだ。翼を隠すだけで、角は羊の獣人にも似ている。用心するなら帽子を被ればいい。
フェイノートには二日を与えた。
――――
大笑いと馬鹿笑いが響き渡った。
空葉の与えられた部屋に行き、人間が誰もいなくなったところで、互いのこれまでの経緯を話し合ったが、閻鬼は呆れ、燃尾は笑わずにはいられなかったのだろう。
「ぶひゃひゃ、こいつが英雄とか……、ないわぁ。ぷ……」
「笑い過ぎよ、発情狐。先生なのだから」
一応ね。
「ガシャドクロが賢者となっている方が笑えるんだが」
憮然と空葉が人間の姿のまま呟く。
「あら、感動のお話なのですけど」
大人の話にはついていけないので、キュピエルはスネコスリと遊んでいる。ガシャドクロもいつ人間が入ってきてもいいように、ハクレウスのままでいた。
「それで、先生、ぬりかべもいるのでしょ?」
「ああ、街の外にいてもらっている。彼は街中には向かいからな」
これで、合流できた妖怪は、鬼、妖狐、ガシャドクロ、化狸、ぬりかべ、スネコスリ、と六名。現地の天狗が一人、だ。
「あと、えーと八つ。川猿、クネユスリ、海座頭、ずんべら坊、それから雪女と二口女、蔵ぼっこ、そして座敷童ね」
もしかしたら、朧バスも来ているかもしれない。その中に、荷物が置かれたままで、気になった栞もあれば――。
「どうした、閻鬼?」
「いえ……、先生は旅の栞をお持ちではないのですか?」
「さっき、話したこちらに来てしまった理由か。閻鬼はそこにヒントがあると?」
「確証はないのですが……」
やはり、この話題は今持っている情報では、これ以上は考えようがなかった。
「ねえ、モッコリ、ここで厄介になってるんでしょ? 情勢を教えてよ」
と、燃尾。
「モッコリ言うな。ああ、世界がどうなっているかは、ハクレウス殿に聞いたんだろ? そうだな、伯爵が集めた情報では、魔物の動きが活発になっているのは確かだ。ただ、他の国事までは分からん」
今度は閻鬼がハクレウスに聞いた。
「あの黒の森に、多くの魔物を押し込めたのよね」
「そうです。大陸西側にいた魔物の多くは、そこに追いやられた。ですが、それが全てではありません。東の大山脈、南の大海にも同等か、それ以上の魔物がいるでしょう」
「例えば、もっと大規模な戦争になった場合、多分だけど、数的には人間が有利でしょ」
「この国だけでも集めれば、二万の兵がいます。黒の森にどれくらいの魔物がいるかは正確には分かりませんが、多くても三千とか」
約七倍近くの差か。
ハクレウスが続ける。
「ですが、魔物は人間や亜人よりもずっと強い」
空葉が補足した。
「先日の戦いでも、ベテランの兵士が、昔の魔物よりも強いとか言っていたな」
ハクレウスが頷いた。
「ええ、そして、魔物の中には、文字通り、一騎当千とも言える存在も一体や、二体ではないのです」
文字通り――千人がかりで一体と互角の相手がいたら、数の差など関係ない。
「つまり、圧倒的に人間や亜人の方が不利なのですね」
はあ、と一つ息を吐き、閻鬼は考える。
これから、どう行動すべきなのか。
「教師として、他の生徒を探すべきなのは分かっているが、伯爵には恩義がある。また、いつ魔物が襲撃してくるか分からない状況じゃ、ここからは離れられん」
「まあ、先生としては、そうなのでしょうね」
「閻鬼たちも付き合う必要はない。妖怪らしく、気ままに自由に行動してくれ」
閻鬼はチラっとハクレウスを見た。
「賢者として、要請されれば、特に急ぎの用事でもないと、断りきれん」
燃尾はというと、
「あたしは、とっとと王都に向かって、早くその若くてイケメンの王様に会いたいんだけど」
ブレない。
キュピエルはハクレウスと共にいる事を選ぶだろうし、スネコスリは燃尾のほぼ子分だ。
では、閻鬼はどうするのか。
「目的が不明瞭です。もしも何者かが、私たちをここにわざと送り込んだのなら、その理由は?」
自分の希望だけで言えば、第一目標は、元の世界に帰る事。
一つの物語の登場人物と考えると、ここに来た目的を達成しなければ、帰る事はできない。
肝心のそれが分からないし、そうと決まった訳でもない。
やはり、朧バスを探すべきか。手がかりすらない。
頭が痛い。
「はあ、だいたい、元々はこの世界の住人であるハクレウスは別にして、どうして、私が思考する役なのかしら」
バリバリの武闘派の鬼なのに。
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トントンと扉を叩く音が聞こえて、だらけそうだった身をしゃんとさせた。
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――この人間のお嬢様、噂通り、まさか……。
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人間が見た目に騙されやすいのは、男も女も同じようだ。
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神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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