恩恵なしに異世界に放り込まれたけど妖怪だから大丈夫

千夜詠

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鬼神

鬼神②

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 人間のハクレウスであった時なら、もう十回は死んでいただろう。
 暗黒の槍状がまた体を貫いてきたが、まだ膝をつけない人間に、そいつは首を傾げた。体は最初から零体のようなものだから問題がないが、白いローブはボロボロである。

 不気味であろうな。互いに。

 部下である魔術師らは、街に向かわせ、城壁の西側に残っているのは、人間側の戦力ではハクレウスとぬりかべだけになっている。

 敵は顔のない悪魔が一体とトロールが五体。それ以外はもう街に雪崩れ込んでいった。

 ――不味い。このままでは、人間の兵は全滅する。

 黒い悪魔の一体が既に街の中へと飛んでいっていた。三体いたはずだが、その内の一体は燃尾を連れ去ってからは戻ってこない。

 これはアレだね。敵に捕まって、エロい事されるやつ――ガシャドクロが取り込んだ怨霊の一人が能天気に言ってきた。

「ふう、まったく……」

 心配なのは伯爵の館に残してきたキュピエルだが、こんな連中が世界制覇を狙っているのなら、何処に逃れても窮地は時間の問題か。
 全ての力を出し切って、ここで倒す。

「さあ、教えてやるぞ、私が死なぬ理由と、我らの恐ろしさを!」

 ハクレウスの形態を解除。
 巨大な骸骨となって、一気に悪魔に距離を詰めると、顔のないそいつが驚いたように見えた。

 捕まえてやる――伸ばした骨の手を擦り抜け、奴に躱された。
 が、逃げた先で、もう一本の手の先を侍に変えて、斬る。
 ズバ――ッ! 初めて奴にダメージを与えてやった。

 距離を取るか。

 顔のない悪魔が魔法陣を出して、そこから雷撃を撃ち込んでくる。
 こちらの的が大きくなっているから、まともに食らった。

 分かっている。奴は強い。
 だが、悪いが、こちらもダメージを受けにくい体をしているのだ。
 骨のように見えるであろうが、アンデッドの魔物のように元々の骨が動いているのではない。
 怨霊が集合した塊であって、有効なのは神聖の攻撃のみ。

 ――貴様の持つ攻撃では、相性は最悪であろうな。

 故に、数段レベルが上のこいつと戦っていられる。
 手の内はまだ全て見せてはいない。

 距離を保ち、素早く飛び回る奴を捉えきれない。

 体の一部から山伏を出して、錫杖を鳴らす。
 波動が奴を捉え、金縛りにさせた。

 それでもまだ動くのか。スピードが僅かに落ちただけ。そして、金縛りを強引に解こうとしている。

 恐るべき敵。

 ならば――。

「さあ、無念あるものらよ、私に力を貸してくれ!」

 魔物に殺された兵らの魂が昇り、次々と悪魔に纏わりついていく。
 今だけだ。もう少しだけ力を貸してくれ。
 必ず後で埋葬してやる。安らかに天へと召されるように。

「お前らが殺したぶんだけ、追い詰められるのだ。因果応報と知れ!」

 骸骨の手で、顔無し悪魔の頭を掴んだ。
 後はそのまま捻るだけ。絶命するまで、捻り続ける。

 ――――

 トロールの一体に抑え込まれているぬりかべがいた。

 ――あいつ、ああなったら、とことん、何もできないからな。

 少々、呆れて思った。

 残りの四体が、壁を叩き、自分達もどうにか街の中へと入ろうと、崩しにかかっている。まだ城壁は貫通していないが、時間の問題か。

 手伝ってやらなくてはならない。
 ここに伏兵が潜んでいる事を奴らは気付いていない。

 さあ、ここまで温存しておいた妖力を解放して、変化。
 獣の体を大きく見せながら、イメージしたままに変化させていく。

 ジュワ――とでも叫んでおこうか。
 それは、光の巨人。現代日本の子供らが憧れるヒーロー。胸のタイマーが特徴的だ。

 トロールどもがギョッとした顔をしている。
 まずは、ぬりかべを抑えている奴へと向かって、蹴り上げてやった。
 グギャっと叫んで、奴はぬりかべから離れ、膝をつき、蹴ってやった腹を押さえた。

 ぬりかべよ、後は自分で立ちあがれ。

 まずはダメージを与えたトロールを先に倒す。数を減らし、こちらが有利になるように。

 他のトロールらも気付いて、こちらに向かってくるが、一体をぬりかべが潰す。
 あの長方形の壁状で、高く跳躍して、体をトロールの頭部に叩き付けたのだ。まさに、動く鈍器だ。

 これで一体。

 で、こっちは一本背負いで一体を投げ飛ばしつつ、頭を地面に叩き付けてやった。

 残りは三体だ。
 二対三では分が悪いか。

 と、そこに、ガシャドクロが黒い悪魔一体を屠って、こちらに参戦してくれる。
 よし、勝ったな、ガハハ、である。

 黒い悪魔が一体でも倒された事実はどうやらトロールどもに精神的なプレッシャーを与えたようだ。

 奴らは妖怪を知らない。
 まあ、元の世界の悪魔も知らない程、我らは様々な種類があるから。
 ましてや、向こうにはいない魔物らでは、余計にそうであろう。
 元いた世界では、人狼や吸血鬼などがひっそりと暮らしているが、ゴブリンやオーク、トロールなどはいない。グールはいたか。

 そして、異世界から来た我らは、こいつらを知っている。
 ゲームや物語の中だけで、こっちのそいつらが同じとは限らないが、対峙した時の心の持ち方が違うのだ。

 奴らの戦い方は比較的に単純だ。トリッキーな妖怪と違って。
 ガシャドクロがトロールの一体に抱き付き、怨念の熱で焼いていった。
 ぬりかべを殴ろうとしたトロールは、拳を潰して呻いている。

 こちらは格闘戦。いい具合にダメージを与えた後に、光線でも出したいところだが、それは流石に無理だ。
 なので、足を掴んでは、降り回し、ぬりかべに叩き付けてやる。
 グシャっと鈍い音がした。首が折れたな。

 一体はガシャドクロに焼かれ、拳を潰した一体が残った。

 妖怪三体で囲ってやれば、哀願するような瞳を向けてきたが、許してやるはずはない。

 ――――

 ガシャドクロは、ハクレウスの姿を取った。
 光の巨人が元の姿へと戻る。狸の姿に。

「先生、やはり生きておいでだったか」

 妖力を使い果たしてか、彼はぐったりとしていた。
 それでも化狸の空葉は説明をしてくれる。

「いやあ、あの時、咄嗟に人狼を人間形態の自分の姿に変えて、身代わりにした」

 黒い悪魔が現われたのは、確か、空葉が人狼の胸を刀で貫いていた時だったはず。

「もっと、早く再戦してくれれば……」

「中途半端に変化しても結果は同じに思えてな。あれになれるまで、溜めていた」

 一世一代の大化けであったようだ。

「ぬりかべもご苦労だったな」

「…………」

 彼も疲れていよう。

 早く街に向かいたいところであったが、悪魔一体に、トロール五体を相手にして、ガシャドクロも実体を保っているのがやっとである。
 それでも、

「キュピエルが心配だ。私は行くぞ」

「んあ、付き合う。引率者だしな。ぬりかべは、姿を消していろ」

 今の状態で、どこまで戦えるか分からない。
 残った魔物は小物ばかりが大量と、やばいのは悪魔が一体残っている。
 こちらの戦力は、人間の兵士がどれくらい生き残っているのであろうか。

「む……、燃尾も心配だが……」

 悪魔の一体に何処かに連れていかれている。

「殺すつもりなら、その場で……。妖怪を調べるつもりで、連れていったか?」

 空葉の調べるという言葉に妄想してしまった。
 裸に剥かれ、体の隅々まで、ねっとりと調べられてしまう燃尾の姿を。
 ハクレウスの顔が赤くなった。

「ぐへへ、あの下衆ども……」

 空葉も同じ様な事を考えたようだが、レベッカはよくこいつに好意を抱いたものだ。

「狸オヤジめ」

 人間形態の時のカラハは完全に気取っただけの演技である。
 尊敬していいのか、とても迷う教師であった。

「よし、私は燃尾を助けにいこう」

 下心が見え見えであるが、妖怪の仲間を放ってはおけない。
 狸の姿のままなら敵に近付き易いのも確か。

「では、先生は燃尾の救出――」

 これまでにない圧力に、西の空に顔を向けた。空葉も気付いたようだ。

「な、なんだ……」

 飛んでいる。
 人型なのは分かった。

 ――また、悪魔か? しかし、これは……。

 戦ったから分かる。顔のない悪魔よりも数段上の存在であると。

「ち……、まさか、魔物どもの親玉か? こいつは、燃尾を助けにいく余裕はねえ」

 そう言った空葉であるが、彼の妖力はまだ殆ど回復していない。
 戦いはこれからが本番だった。

 ――――

 一人、取り残されているような感じであった。
 無力感に呆然としている。

「私は行くから、アンタは勝手にしなよ」

 フェイノートとかいう悪魔の娘がそう言った。

「…………私を見張ってなくていいの?」

 この林の中にはもう燃尾とフェイノートしかいない。

「まっ、あれでも魔王候補だったんだけど、あれじゃあ、ねぇ」

 ベオルグの顔をしていた。だが、その精神は希薄になっていて、唸るような声しか聞いていない。

「いったい、何が目的なの?」

「ん? 私? そうだね、簡単に言えば、力のない神から、この閉鎖的な世界を解放してやろうって思っている破滅神様の考えのままに動いてるだけだから」

「アンタは命令されてるだけって事?」

 悪戯っぽい笑みをフェイノートが見せた。

「そうだね。でも、まあ、具体的な指示があるわけじゃない。結構、大雑把なんだよ、うちの神様は。ああ、破滅神様の方ね」

「大雑把ねえ」

「だけど、停滞したこの世界を変える事ができるのは、破滅神様だけだよ。地獄って呼ばれる事になるかも、だけど」

「地獄?」

「そう、地獄……って、君らの方がよく知っているでしょ、地獄。この世界には地獄も天国もないのさ。じゃあ、死んだ人間や魔物はどうなるのか?」

「魂はある。けど、行き場は……」

「そう、消滅するだけ。まっ、私も破滅神様に教えてもらった知識しかないから、詳しい事は分かんないけど、魂が一度休まる場所も罰を受けて償う場所もないから、疲弊して消えるしかない。で、新しく発生した魂しかないから、世界は広がらない」

「訳わかんないわ」

「だよね。私もさっぱりだ。でも、これだけは言える。力のない神に作られたばかりに、この世界は不幸なのさ」

 まるで、この世界の神こそ、悪のような言い分だ。
 考えても仕方がない。
 燃尾は踵を返した。

「行くのかい?」

「ええ、ここで戦うしか、今はやる事ないもの」

「そう……。じゃあ、私はここにもう用はないから、他へ行くよ。じゃあ、生きていたら、また何処かで。妖怪のしぶとさを信じてるよ」

 フェイノートは飛び去った。
 彼女と戦う事にならなくて、安堵するしかない燃尾だった。
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