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第二章
あなたは、誰? 4
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屋敷の中に、誰かがいる。そう確信した。
少女に毛布をかけた誰か。黒い影のような誰か。
ランタンの火を消したまま、そっと静かに歩く。
今つけているランプの数は多くはないけれど、屋敷の中ならば、ランタンなしでも歩くことが出来る程度にはつけている。
ランタンがふらついて音が出たりしないように、両手で抱えて歩いた。
私はどうしたいんだろう。この現実を前に。自分の心も不可解なまま、体は動いた。
エルリックの居る部屋へ。
そっと覗いた。冷え切ったスープと落ちたメッセージの紙が、そのままになっていた。
エルリックも、変わりがない。悲しい視線を送り、その部屋を出て行く。
厨房へ向かい、そっと入った。
厨房には用がないので、ランプの明かりはつけてない。
ここに来るのはランタンを取りに来た時以来だ。
前と変わったのは、厨房が使われているということ。
小鍋の中には、スープが入っている。匂いからして、パンプキンスープ。スープはここにあるけれど、あの黒い影本人はいないようだ。
その後も、どこにいるのか、そっとそっと屋敷の中を歩き、探した。
両親の部屋、ラウンジ、書斎……。屋敷のほとんどを覗いた。
自分の部屋も、そっと入った。
あの日以来、自分の部屋が時間と共に変わっていくのを見ることが辛くて、あまり見ることはできなかったけれど、埃はかぶっていないようだ。
奥へ続くドアの向こう、少女専用のバスルームも、綺麗に整えられたままだった。
いくつもの部屋を覗いて、最後の部屋へ。
大きなドアを見上げ、憂鬱な気分に襲われる。
そこは、ホールだった。
けど、もう、ここしかない。
ドアに手をかける。
少女の気持ちとは裏腹、その扉はガチャ、と音を立て、あっけなく開いた。
一見あの日のまま。聖剣も、放り出されたまま。窓も、全て割られたまま。
けれど、ガラスのかけらは全て取り除かれていた。
そして。
そして、その大きなホールの真ん中。星明かりに照らされた白い床の上に、それは立っていた。
タキシードのような黒い服。一瞬獣の頭蓋骨のように見える大きな顔。大きな手。
そして、それを包み込む大きな黒い……何か。背中から生えるそれは、天使の翼とは似ても似つかないものだけれど、翼、としか言いようがないものだった。闇のような、それでいて星空をそのまま写し取ったような、翼。
悪魔、としか言いようがなかった。それが何だかわからない。何かわからない存在だけれど、何かと問われれば、間違いなく悪魔と呼ぶだろう。
一歩、一歩と音をたてず近づく。
存在を知られていることはわかっていた。
それでも。
そっと、一歩、一歩と近づいた。
向かい合う。
深淵のような闇色の瞳。
星明かりが二人を照らす。
「あなたは、誰?」
大きな手が、少女の頬へ伸びた。
そっと、壊れものを扱うかのようにそっと、指先だけで触れる。
「君を、食べてあげようか?」
少女に毛布をかけた誰か。黒い影のような誰か。
ランタンの火を消したまま、そっと静かに歩く。
今つけているランプの数は多くはないけれど、屋敷の中ならば、ランタンなしでも歩くことが出来る程度にはつけている。
ランタンがふらついて音が出たりしないように、両手で抱えて歩いた。
私はどうしたいんだろう。この現実を前に。自分の心も不可解なまま、体は動いた。
エルリックの居る部屋へ。
そっと覗いた。冷え切ったスープと落ちたメッセージの紙が、そのままになっていた。
エルリックも、変わりがない。悲しい視線を送り、その部屋を出て行く。
厨房へ向かい、そっと入った。
厨房には用がないので、ランプの明かりはつけてない。
ここに来るのはランタンを取りに来た時以来だ。
前と変わったのは、厨房が使われているということ。
小鍋の中には、スープが入っている。匂いからして、パンプキンスープ。スープはここにあるけれど、あの黒い影本人はいないようだ。
その後も、どこにいるのか、そっとそっと屋敷の中を歩き、探した。
両親の部屋、ラウンジ、書斎……。屋敷のほとんどを覗いた。
自分の部屋も、そっと入った。
あの日以来、自分の部屋が時間と共に変わっていくのを見ることが辛くて、あまり見ることはできなかったけれど、埃はかぶっていないようだ。
奥へ続くドアの向こう、少女専用のバスルームも、綺麗に整えられたままだった。
いくつもの部屋を覗いて、最後の部屋へ。
大きなドアを見上げ、憂鬱な気分に襲われる。
そこは、ホールだった。
けど、もう、ここしかない。
ドアに手をかける。
少女の気持ちとは裏腹、その扉はガチャ、と音を立て、あっけなく開いた。
一見あの日のまま。聖剣も、放り出されたまま。窓も、全て割られたまま。
けれど、ガラスのかけらは全て取り除かれていた。
そして。
そして、その大きなホールの真ん中。星明かりに照らされた白い床の上に、それは立っていた。
タキシードのような黒い服。一瞬獣の頭蓋骨のように見える大きな顔。大きな手。
そして、それを包み込む大きな黒い……何か。背中から生えるそれは、天使の翼とは似ても似つかないものだけれど、翼、としか言いようがないものだった。闇のような、それでいて星空をそのまま写し取ったような、翼。
悪魔、としか言いようがなかった。それが何だかわからない。何かわからない存在だけれど、何かと問われれば、間違いなく悪魔と呼ぶだろう。
一歩、一歩と音をたてず近づく。
存在を知られていることはわかっていた。
それでも。
そっと、一歩、一歩と近づいた。
向かい合う。
深淵のような闇色の瞳。
星明かりが二人を照らす。
「あなたは、誰?」
大きな手が、少女の頬へ伸びた。
そっと、壊れものを扱うかのようにそっと、指先だけで触れる。
「君を、食べてあげようか?」
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