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37 図書館日記
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窓の外に青い空が覗く。
リナリは一息つくと、本の返却作業に戻った。
一人の部屋。一人での仕事。
始めはさみしくて仕方がなかったけれど、だんだんとここの生活にも慣れてきた。
レーヴを眺める余裕も、新しい本を読む余裕もできてきた。
「リナリさん」
後ろから、声をかけられて、振り返ると、そこにはレーヴが居た。
「はい」
出来る限り好印象を持ってもらえるようにはっきりと返事をする。
書架の仕事をしていると、図書館全てを管理し、研究に出掛け、自分の本まで出しているレーヴと会うことはそうそうない。
こうして数日置きに少し顔を見るくらいだ。
その時くらいは、いい印象を持ってもらえるような態度でいたい、とそう思う。
「今後のことについて、少しお話があります。部屋まで来ていただけますか」
「わかりました」
同じく書架の仕事をしていた同僚に、席を外すことを言い置いて、レーヴに付いていく。
隣を歩くのも久しぶりだ。
貴重な体験、貴重な体験……。
少し後ろから、レーヴを眺めた。
高い背。
ヴァルやシエロ先生よりずっと高い。
よく見ると、頭の後ろがくしゃくしゃだ。
ほこほことした気持ちで、レーヴの後を付いていく。
辿り着いたのはレーヴの執務室だった。
「失礼します」
言いながら、入った執務室。
初めて入るレーヴの仕事場。
中は、大きなデスクが一つ。小さなデスクが一つ。大きなテーブルが一つあり、何人かで作業できるようになっていた。
部屋の周りの殆どは本棚で囲まれており、所狭しと本や書類が差し込まれている。
サイドボードもあるけれど、どう纏められているのか、レーヴだけがわかる形で分類された書類が積んであった。
部屋の入り口に立つと、テーブルに座り、何か作業をしていた人物が、立ち上がる。
「こんにちは。あなたがリナリさん、ですね」
それは、シンプルなドレスを着て、長い髪を一つにまとめた背の高い女性だった。
「はい、よろしくお願いします」
とても綺麗な女性。正直、緊張する……。
隣に立っていたレーヴが、にこやかな声を出した。
「リナリさん。あなたには、明日から私の仕事の補佐をしてもらおうかと思います。といっても、雑用ですけどね」
そして、リナリに向かってにっこりと笑った。
「補佐……」
それってそれって、毎日ラビラントさんのご尊顔が拝めるってこと?
「こちらは、私の秘書をやってくれているゴールディ。いろいろと教えてもらってくださいね」
「よろしくね」
と、ゴールディが挨拶をする。
ほわほとした気分でいられたのも、束の間だった。
「レーヴ」
え?
一瞬、リナリの表情が固まりそうになる。
ゴールディさんは……ラビラントさんのこと、名前で呼べるんだ。
「部屋の使い方は私から教えていいのね?」
「よろしくお願いします」
ラビラントさんの方は敬語だけど、それでも……仲良さそう……。
「楽しみだわ」
ふふっと笑うゴールディとレーヴの姿に、なんだか間に入れない空気を感じてしまう。
一瞬で、気の置けない仲だということが手に取るように解ってしまう。
「じゃあ、明日の朝から、ここに来てください。書架の方には話は通してあるので、今日は残りの時間、書架の仕事の引き継ぎをしておいてくださいね」
「はい、わかりました。明日からよろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
一人、部屋を出て、執務室の位置を覚えながら、とぼとぼと廊下を歩いた。
誰もいなくてよかった……。
少し、泣きそうになっているから。
近くで働くってことは、こういうことまで見ることなんだ。
なんとなく、仲のいい女性なんて居ないと思っていた。
だって、髪もボサボサだし、見た目にも無頓着だし。
けど、それは勝手な想像だ。
見えない部分をあたしの都合のいいように思い込んでしまっていただけ。
恋人とか……奥さんだったら、どうしよう。
大きなため息をひとつついて、リナリは静かな廊下を一人歩いた。
◇◇◇◇◇
一人王都へ行ったリナリも、落ち込んだりしつつ元気にやっているようです。
次回からは、メインのチュチュとシエロくんのお話が進みます!
リナリは一息つくと、本の返却作業に戻った。
一人の部屋。一人での仕事。
始めはさみしくて仕方がなかったけれど、だんだんとここの生活にも慣れてきた。
レーヴを眺める余裕も、新しい本を読む余裕もできてきた。
「リナリさん」
後ろから、声をかけられて、振り返ると、そこにはレーヴが居た。
「はい」
出来る限り好印象を持ってもらえるようにはっきりと返事をする。
書架の仕事をしていると、図書館全てを管理し、研究に出掛け、自分の本まで出しているレーヴと会うことはそうそうない。
こうして数日置きに少し顔を見るくらいだ。
その時くらいは、いい印象を持ってもらえるような態度でいたい、とそう思う。
「今後のことについて、少しお話があります。部屋まで来ていただけますか」
「わかりました」
同じく書架の仕事をしていた同僚に、席を外すことを言い置いて、レーヴに付いていく。
隣を歩くのも久しぶりだ。
貴重な体験、貴重な体験……。
少し後ろから、レーヴを眺めた。
高い背。
ヴァルやシエロ先生よりずっと高い。
よく見ると、頭の後ろがくしゃくしゃだ。
ほこほことした気持ちで、レーヴの後を付いていく。
辿り着いたのはレーヴの執務室だった。
「失礼します」
言いながら、入った執務室。
初めて入るレーヴの仕事場。
中は、大きなデスクが一つ。小さなデスクが一つ。大きなテーブルが一つあり、何人かで作業できるようになっていた。
部屋の周りの殆どは本棚で囲まれており、所狭しと本や書類が差し込まれている。
サイドボードもあるけれど、どう纏められているのか、レーヴだけがわかる形で分類された書類が積んであった。
部屋の入り口に立つと、テーブルに座り、何か作業をしていた人物が、立ち上がる。
「こんにちは。あなたがリナリさん、ですね」
それは、シンプルなドレスを着て、長い髪を一つにまとめた背の高い女性だった。
「はい、よろしくお願いします」
とても綺麗な女性。正直、緊張する……。
隣に立っていたレーヴが、にこやかな声を出した。
「リナリさん。あなたには、明日から私の仕事の補佐をしてもらおうかと思います。といっても、雑用ですけどね」
そして、リナリに向かってにっこりと笑った。
「補佐……」
それってそれって、毎日ラビラントさんのご尊顔が拝めるってこと?
「こちらは、私の秘書をやってくれているゴールディ。いろいろと教えてもらってくださいね」
「よろしくね」
と、ゴールディが挨拶をする。
ほわほとした気分でいられたのも、束の間だった。
「レーヴ」
え?
一瞬、リナリの表情が固まりそうになる。
ゴールディさんは……ラビラントさんのこと、名前で呼べるんだ。
「部屋の使い方は私から教えていいのね?」
「よろしくお願いします」
ラビラントさんの方は敬語だけど、それでも……仲良さそう……。
「楽しみだわ」
ふふっと笑うゴールディとレーヴの姿に、なんだか間に入れない空気を感じてしまう。
一瞬で、気の置けない仲だということが手に取るように解ってしまう。
「じゃあ、明日の朝から、ここに来てください。書架の方には話は通してあるので、今日は残りの時間、書架の仕事の引き継ぎをしておいてくださいね」
「はい、わかりました。明日からよろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
一人、部屋を出て、執務室の位置を覚えながら、とぼとぼと廊下を歩いた。
誰もいなくてよかった……。
少し、泣きそうになっているから。
近くで働くってことは、こういうことまで見ることなんだ。
なんとなく、仲のいい女性なんて居ないと思っていた。
だって、髪もボサボサだし、見た目にも無頓着だし。
けど、それは勝手な想像だ。
見えない部分をあたしの都合のいいように思い込んでしまっていただけ。
恋人とか……奥さんだったら、どうしよう。
大きなため息をひとつついて、リナリは静かな廊下を一人歩いた。
◇◇◇◇◇
一人王都へ行ったリナリも、落ち込んだりしつつ元気にやっているようです。
次回からは、メインのチュチュとシエロくんのお話が進みます!
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