DEEP BLUE OCEAN

鼓太朗

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第三章 満月の夜 七夕の奇跡

七夕伝説

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朝から天気が悪い。
もうすぐ七夕なのにと海人は店のカーテンを引いた。

曇天は空を低くしている。
雲が屋根に引っ掛かりそうだ。
そもそも七夕は旧暦の星祭り。
天の川は秋の季語なのからも分かるように、元々は七夕は秋祭りの一つ。
七夕伝説はもとを辿ると中国で生まれた伝説だと言われている。
それが日本に入ってきて日本神話と融合され、織姫と彦星の物語は「古事記」などで今のかたちに近いものにアレンジされたと言われている。
海人は30年以上生きてきて、七夕が快晴だった記憶はほとんど無い。
太陽暦で7月7日は梅雨の終わりだ。
今日みたいな天気の方が普通かもしれない。
「七夕が雨だと天の川が増水して渡れなくなるので、カササギが羽を広げて橋になってくれる。」というのが七夕の物語の最後だ。
雨でも大丈夫だよーというが、海人はカササギという鳥がからすの仲間だと知ったのはごく最近のことだ。
世間が七夕に浮き足立つ(?)頃、DEEP BLUEには全国からプロの海中カメラマンが続々と店にやって来ている。
彼らのお目当てはこの時期だけのビッグイベントをカメラに納めること。

天空の「天の川」に対抗するのは海中の「サンゴの産卵」だ。

この辺りは世界でも最北端のサンゴの群生地となっている。
シコロサンゴやニホンミドリイシなど何種類かのサンゴが群生している。
サンゴは動かないので岩のような無機物や植物のようなものと勘違いされがちだが、彼らも立派な動物だ。

ポリプという身体構造を持ち、花のように見えるポリプ一つ一つが独立した生き物だ。
一部のサンゴは体に渇虫藻という藻類を住まわせて光合成をする。
そんなサンゴが年に一度だけ、満月の夜に産卵をする。
それがちょうど今の時期だ。

海人は何度かその現場に遭遇したことがあるが、その様子は筆舌に尽くしがたい。
サンゴから花吹雪のような卵が海中に舞い上がる。
波に揺られ、潮の流れに乗って長い旅をする。
その儚さが何とも言えない幻想的な雰囲気を醸し出す。
サンゴの産卵は1年のこの時期(早いものは5月から)の満月の夜に行われる。
満月は潮汐が大潮の日を意味する。
大潮とは1日の干満がもっとも大きくなる時期のことだ。
月の引力の影響を一番受ける満月はサンゴの卵ができるだけ遠くへ流れるのに好都合なのだろう。

今年の満月はしくも7月6日、7日。
もしかしたら七夕の日に奇跡が起きるかもしれない。
七夕の数日前から水中カメラマンが宿泊しているのはそのためだ。

産卵を今か今かと待ちわびているのはカメラマンだけではない。
もう一人、朝からそわそわしている人がいる。
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