GO TO THE FRONTIER

鼓太朗

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第八章 虫と獣の戦争

狼少年からのSOS 前編

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雲ひとつなく晴れ渡る暑い日。
木々の影を縫うように白い影が走り抜ける。
カルバンマラミュートの子どもが目にも止まらぬ早さで森の中を駆け抜けている。
彼の名前はウィン。
獣の皇帝・ウェライの息子だ。
わんぱく盛りのウィンは危険だと言われているにもかかわらず、こうして森の中を駆け回っていた。
「いずれは父さんみたいな森の王様になるんだ! 森の中を見回るのは王様の大事な仕事だろ?」
周りにはいつもそう言っていた。
「早く王様になりたーい」
それが彼の口癖だった。
「おぅい! ウィン! 危ないから森に不用意に出るなってウェライ大帝から言われてるだろ! ちょっとは言うことを聞けよ!」
不意に木の上から自分に向けられる声が降ってくる。
ウィンが見上げると、そこにいるのはポックだった。
ウィンは小さく舌打ちをする。
ポックは自分よりも少し年上なだけでウィンを子ども扱いする、鬱陶しい兄貴のような存在だった。
世界をあちこち旅しているとは聞いているがまだ自分と同じ子どもだ。
自分よりも身体は小さいし、牙や爪は自分の方がずっと鋭い。
たいして強くもないくせに偉そうな口を叩かれるのがウィンは気に入らなかった。
しかもポック、ガミガミとうるさい上にお節介も甚だしい。
昨日もこっそり抜け出そうとしたのにポックの告げ口でウェライに見つかり、こってり叱られたばかりだ。
「うるさいなぁ! 俺は父さんみたいな立派な王様になるために修行中なの! 虫の野郎が攻めてきたら真っ先にやっつけにいかなきゃなんないだろ!」
ウィンは相変わらず鼻息荒くそう言った。
お前みたいなチビがどうやって虫たちの軍勢を倒すんだよ…。
ポックは呆れてそう言いそうになるが、自分の方が更に小柄なことに気づいて言いかけた言葉を飲み込む。
代わりに小さくため息をついた。
「わかったわかった。でも、あんまり遠くに行くなよ。大帝も心配するからさ」
できるだけ優しくそう言ったつもりだったが、ウィンの機嫌は直らない。
プイッときびすを返すと森の奥に消えていった。
「やれやれ…どうする?」
ポックはあきれてまたため息をつくと、背後にいたマーフィーに声をかける。
マーフィーも困ったようにフルフルと身体を震わせるとウィンの行く末を見送った。

*****

「くそっ!」
ウィンは前足で近くの小石を蹴っ飛ばした。
とてもむしゃくしゃする。
ポックがやって来てからというもの、ウィンにとっては面白くないことが多い。
心配してくれているのは分からなくもないが、それでもイライラは押さえることができずにいた。

早く大人になりたい。

ウィンは毎日そればかり考えていた。
回りはみんな自分のことを子ども扱いする。
まぁ実際子どもなのだが…。
「いっつもそうだ。俺の言うことなんて誰も聞いてくれない…」
小川が流れていた。
緩やかな川の流れに自分の顔が映る。
悲しげな顔の自分が水面に映った。
王様の息子ということでウィンは生まれた時から大切に育てられた。
ちやほやされて育ってきたウィンだが、いつまでも続く子ども扱いにウィンは飽き飽きしていた。
ぐぁぉぉぉー!
水面に向かって吠えてみる。
可愛らしく、か細い声が川面に小さな波紋を作ったがそれだけだった。
川の流れはなにもなかったかなようにのんびりと流れていく。

はぁ…
ウィンは小さくため息をついた。
先程の威勢はどこへやら。
孤独感にさいなまれて尻尾を丸め、シュンとしているウィンはさっきよりも更に一回り小さくなっていた。

その時、ウィンの耳はまだかなり遠いが、虫の羽音が届いた。
ここは虫たちも水場として使う。
「やばっ!」
草むらにウィンが隠れたのと、巨大なカマキリのモンスター、デッドマンティスが2匹、川原に降り立ったのはほぼ同時だった。
どうやらウィンには気づいていないらしい。
デッドマンティスたちは川でごくごくと音をたてて水を飲むと、ヒソヒソした声で話始めた。
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