Go to the Frontier(new)

鼓太朗

文字の大きさ
11 / 57
第一章 旅の始まり

トクラの賑わい

しおりを挟む
眩しい光が窓の隙間から差し込んで、レオンは目を覚ました。
いったいどれくらい眠っていたのだろう。
日の高さからもう朝と呼べる時間ではなさそうなことだけは確かだ。
昨日は夜も遅かった。
旅の疲れで囲炉裏でそのまま眠ってしまった気がする。
酒を飲んだのがまずかった。
旅の疲れもたまっていたし、前の日は野宿だった。
温泉で気持ちよくなってお腹も満たされ、囲炉裏で眠ってしまったようだ。
部屋のベッドに寝かされていたからダンがそっと運んでくれたのだろう。
幼い子どものようでレオンは気恥ずかしかった。

そういえばダンがいない。
となりのベッド(ダンには小さい)は寝ていた形跡があるが。
そう思った時、ダンが部屋に入ってきた。
「おう、やっと起きたのか。」
ダンは布で首もとの汗を拭いながら言った。
「昨日は遅くまで飲んでたからな。俺なんか朝、思いっきり便所で吐いちまった」
豪快に笑う。
「で、ちょっと酔いざましに体を動かして外で水を浴びてきたところだ。」
そんなに昨日は酔っている様子はなかった。
あの後どれだけ飲んだのかは定かではないが。
それでも次の日の朝の鍛練に余念がないのにレオンは素直に尊敬した。
「これ。トクラの名物、ルコって芋だ。さっきそこの屋台で買ってきた。塩味が効いてて美味いぜ。」
ダンが手にしている小さなケペックという植物で編んだバスケット。
中は芋を湯がいたような食べ物がいくつか。
レオンは手に取ると少しかじってみる。
塩味が効いているのと、ほんのりと湯気が出るほどの暖かさで、胃腸が刺激される。
「腹ごしらえが済んだら町に出てみようぜ。」
ダンは俺にも寄越せとすり寄るポックとマーフィーにルコを分けてやりながら自分も一つつまんで口に放り込むとそう言った。
町のざわめきが遠くに聞こえる。
だんだんと頭がシャキッとしてきた。

*****

町はやはり戦場のような賑わいだった。
屋台では巨大な鳥の丸焼きがいい匂いをたてている。
「うぉー!あの鳥の丸焼き、うまそー!そしてでかいな!」
レオンの肩にのったポックが耳元で舌なめずりをする。
「あれはね。ウルファンコスの肉だよ。翼を広げるとダンの二倍以上はある大きな鳥。目玉はポックくらいあるかな。」
レオンもここに来るのははじめてではないので、珍しい食べ物にいちいち反応するポックに丁寧に説明してやった。
昨日食べた土豚、西部原産の寒冷な土地で育つ野菜たち、様々な種類の鳥の肉など。
中には極彩色の果物が山積みにされた店や、得体の知れない生き物の干物が並ぶ店もあった。
「見ろよ!あれ、イエローフォックの薫製だぜ!」
ダンが顎で指して言ったのは豚の薫製だったがポックは目を丸くした。
「ポックもこんがり焼いたら美味そうだなぁ。小骨がカリっと焦げて香ばしくなって。」
そう言ってからかうとポックは、
「や…やめろよー!」
と情けない声をあげた。
ダンはポックの言っていることが分からないのに、表情だけでゲラゲラ笑った。
レオンはポックの言っていることが分かるので十分面白いのだが、ダンも何となくお互い通じあっているのだろうか?
レオンはそう思いながら屋台を回った。

グリズリーの肉、イノシシの肉、クロジャッカルの牙、またそれぞれの毛皮を売り、換金した。
グリズリーの毛皮は驚くほど高値で売れた。
「処理の腕がいいと高値が付く。兄ちゃんやるねー」
毛皮や布を扱う市場の一角でおじさんに誉められた。
照れるレオン。

クロジャッカルの牙は毒があるがやはり薬としても使用できるため、薬草屋で高値で売れた。
薬草屋ではできるだけたくさんの種類の薬草を買い、調合して使えるように小分けの巾着袋に入れてもらった。
おすすめの調合を教えてもらったり、逆に店の主人に安く上がる薬草の配合を教えてあげたりとレオンと店主は意気投合して長話になった。
うんざりしているのはダン。
「あの店、鼻がもげるかと思った」
と辟易としていた。
「えー?いい匂いだったよー」
そう言ったレオンは心底楽しそうだった。
それを見たダンは心底理解に苦しんだ。

さらにはポックがちょっと嫌な顔をした豚の薫製と、干した果物も長持ちする旅の食料として少し買った。
他、旅の食料としては長持ちする固めのパン、スープの素、ルコの酢漬けを買った。
あとは宿の大将がグリズリーの肉をいぶして薫製にしてくれるというので明日の出発前に貰えることになっている。
当分食べ物の心配は無さそうだ。

その後、ダンに連れられて入ったのは町の武器屋だった。
様々な種類の武器が並ぶ武器屋。
「レオンもある程度自分の身は自分で守れた方がいい。ブーメランと併せて使い分けられる武器はないかな?」
ダンはそう言って、レオンを連れて武器屋の中を歩き回った。
ただ、もちろんレオンはどの武器も扱ったことはない。
「これなんかどうだ?」
ダンはレオンの身長ほどもある大刀を片手でひょいと持ち上げてレオンに渡そうとした。
ずっしりとした重みがあってレオンには扱いにくい。
というよりも一人で持てない。
ダン、分かってて渡したな。
レオンが軽くにらむと、ダンは見ないふりをしてまたひょいと大刀を元あった場所に戻した。
他にも、杖、長刀、太刀、ハンマー、ボーガンなど、様々な武器を手に取ってみたが、どれもいまいちしっくりと来ない。
短槍や短刀、戦扇はそれなりに扱えたが、それでも何となく、動きがぎこちない。

「今度はこれなんかどうだ?」
ダンは何だか楽しそうだが、レオンは多少げんなりし始めていた。
薬草屋でのダンの気持ちがちょっとだけ理解できたかもしれない。
そんなときにダンが手渡したのは対になった二本の短刀だ。
「これは双剣といって二本で同時に攻撃ができる。身軽で素早いレオンには合ってるかもな。」
レオンは手に取ってみる。
確かに軽くて扱いやすい。
「あそこでちょっと振ってみようか。」
顎で店の奥の扉を指す。
「あの扉の奥は試し斬りのための場所がある。」
そう言い終わらないうちに、ダンは歩き出した。
レオンも慌てて後を追った。

扉の向こうはちょっとした広場ほどある大きな部屋で地面にはきれいに整地された土が敷き詰められてある。
屈強な男たちが案山子かかしのような藁を編んだロープや布をぐるぐる巻きにした杭に向かって武器を振るっている。
「レオンもやってみな。」
ダンはそう言ってレオンの背中を押す。
やってみなって言われても…。
レオンはそう思いながら杭の前に立った。
双剣の柄をギュッと握った瞬間、何となく指に張り付くような不思議な感覚を指先に感じた。
レオンは手の中で双剣をくるんと回す。
そして強く地面を蹴った。
無意識ではなかったが、はじめからそうすることが分かっていたかのように身体が動いた。
レオン自身それほど高く飛び上がった気はなかったが、地面に着地するまでに左右で一度ずつ練習杭を切り裂き、ふわりと着地した。
「ひゅー、やるじゃねーか!」
ダンだけではなく、周囲の男たちも釘付けになるほど、鮮やかな身のこなしだった。
当の本人はあっけにとられて杭の前で立ち尽くしているが。
「こいつで決まり! 中で精算だな。」
ダンに促され、部屋を出るまで、レオンは夢の中にいるような感覚だった。
店内で初老の店主にお金を差し出す。
「さっきの君の動きはまさに風のようだった。こいつはダガー。一番オーソドックスな双剣だ。よーく研いでおいたから。大切に使ってくれよ。」
白髪の多い店主は、浅黒い顔によく映える白い歯を見せ、顔をクシャッとさせて笑うと背中に背負うタイプの鞘をサービスだと言って持たせてくれた。
皮のベルトを調節してもらうとレオンの背中にしっくりと馴染んだ。

レオンがダガーを装着してもらっている間、肩にパックとマーフィーをのせたダンは店内を物色していた。
ふと目に留まり、手に取ったのは緑色の不思議な縞模様をしたバックルだった。
店主は背中から声をかける。
「それはサファイアキャット。こっちでは緑光石と呼ばれる石を加工して作ったバックルだ。ホビット族が山から掘り出して加工してある手作りでなぁ。一つ一つ微妙に模様が違うだろ。」
そう言われると、無造作に籠に入れてあるバックルは一つ一つ個性的な模様をしている。
ダンは、自分の指にあうサイズで緑と白の鮮やかな縞模様のものを手に取った。
指にはめてみる。
「いいんじゃねーか?」
左右の指を交互に見比べ、ダンはこのバックルを購入した。
それぞれの武器を身に付け、店を出ようとしたとき、町の広場から男性の悲鳴のような声が響いてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...