Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第一章 旅の始まり

ケルベロスの伝説

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奴隷商人たちとの一件の翌日。
日が昇る少し前。
いよいよ風の谷への大トンネルを目指して出発した。
宿の主人からグリズリーの干し肉をもらい、名残を惜しみながら出発となった。

できて何十年もたつトンネルだが、松明の点るトンネルはかなりしっかりとした造りになっている。
螺旋状になっていて馬車後と進むことができる、人工的なダンジョンのようなトンネルだ。
入口は関所のようになっていて、アラベスクの兵隊が監視をしていた。
馬小屋でペガを引き取り、馬車に繋ぐと荷物を運び込む。
いよいよトンネル探検が始まる。
レオンは気合いを入れ直した。

「ここから先は、風の谷の底へと通じる大トンネルだ。貴様らは魔犬ケルベロスの逸話は知っているか?」
トンネルの入り口には関所のような場所があって兵士たちが入り口を守っている。
その中の一人、かなり年配の兵士が、レオンに向かって聞いた。
「ケルベロス?」
レオンたちは首をかしげる。
老兵はもう何度も話しているのだろう。
芝居の台本のように語りだした。
「この谷は元々オオカミ族の縄張りだ。そのオオカミたちを束ねるのが、体高が人の胸ほどあるという巨大な犬、ケルベロス。地獄の番犬と言われる巨大な犬のモンスターだ。普通の人間は襲われたらひとたまりもない。トンネル内にはケルベロスの支配下にあるウルフたちがうようよしてる。ここのウルフは人を食わないと言われていて滅多に人は襲わないが、興奮すると飛びかかってくるから気を付けろ。ちょっかいをかけると集団で襲いかかってくる。貴様らのような血の気の多そうなやつはあいつらも感づくからな」
兵士はニヤッと笑うとそう言った。
なんだか感じが悪い。
「谷底までの道はほぼほぼ一本道だ。迷うことはないだろう。ただ、一ヶ所だけ分かれ道がある。そこは地獄の入り口。迷い混んで生きて帰ったものはいない。それでもお前たちはいくんだな?」
値踏みするような視線を投げ掛ける老兵にレオンもカチンときた。
ダンも同じようでムスっとして老兵を睨んでいる。
やっぱり感じが悪い。
しかしそんなこと、意にも介することもなく二人の様子をなおも小馬鹿にしたように老兵は見ると、
「それから、このトンネルを進むと途中、ケルベロスの石像がある。ケルベロスの機嫌が悪いとその石像の目が赤く光るそうだ。気を付けるこったな。」
兵士は最後までニヤニヤした笑いを続けて、道を開けてくれた。
やめるならやめてもいいんだぞ?
暗にそう言っているように聞こえたのは恐らくレオンだけではないだろう。
だからと言ってここで引き返すわけにはいかない。
ここを越えなければマクベスにも入ることができないのだから。
嫌な気分を押し込んでレオンたちは大トンネルへと歩を進めた。

*****

「あの兵士、絶対俺たちのことバカにしてたよな。」
兵士が、見えなくなる辺りでダンが言った。
確かに商人でもない20歳そこそこの2人組。
よくよく考えればおかしいかもしれない。
小さなパーティーは危険も多い。
危ないのは頷ける。
老兵も親切のつもりだったのかも知れない。
ただそれにしても、心配をしているというよりも小馬鹿にしている感じが不愉快だった。
別にしたくて旅をしているわけでもないのに…。
そう思いながら大トンネルを進んだ。
レオンは少しふくれながら、
「そういえば、ケルベロスの石像の話、本当かな?」
とダンに聞いてみる。
「さぁな」
ダンは短く答えただけだった。
周囲には老兵が言った通り、ウルフたちがうようよしている。
大型犬ほどのウルフたちは金色の目でレオンたちを睨みながらこちらをうかがっている。
だが襲いかかってくる様子はない。
ここ数日、ろくな目に遇っていないので、できればあの話自体が嘘であって欲しいと願うレオン。
「赤い目の石像って、それだけでもなんか昔話っぽいよね。怒ると目が赤くなる石像なんてホントにあるのかな?」
ダンも同じ気持ちだったようだ。
「まさかぁ。そんなわけ…」
と言って再び前に視線を戻したその時だった。
ダンが口をあんぐり開けて凍りつく。
「おい。そんなことあったよ。」
ダンの視線の先には巨大な犬の石像があった。

目の前には巨大な犬の石像。
「ホントにあるんだ」
レオンは呟く。
目の前の犬の石像はダンの背丈ほどもある台座の上に鎮座されている。
半開きの口からは鋭い牙が覗き、旅人を見下ろす形で睨み付けていた。
そしてその目は…
「赤いよ! ケルベロス怒ってるよぉ!」
ポックが震える声で言った。
「赤…だね。」
レオンの目にも確かに石像に埋め込まれたような目が赤く光っているのが確認できた。
松明の光を受けた石像の目。
確かに石像のケルベロスの目は不気味に赤く光を放っていた。

本当にケルベロスが怒っているのか?
レオンはじっと石像を見る。
ケルベロスの目は松明の光にチラチラと揺れていた。
レオンは一瞬引き返そうかとも思ったが、あることに気づいて思い直した。
「これって…もしかして!」
レオンは気になることがあったので傍らのダンを見上げる。
「ダン、ちょっと肩かして。」
レオンはそう言って靴を脱ぐと、ダンのガッチリした肩までするするとのぼった。
ダンは慌てて肩に乗ったレオンの足首を押さえて支える。
「ちょっ…。レオン、いきなり何を?」
と言いながらもレオンの足首をつかんで支えてくれた。
「レオン…おまえ、軽いんだな。」
ダンは驚いた様子で見上げる。
レオンは確かに歳のわりには小柄で華奢な印象はある。
ちょっと背が小さいことは気にしているが今はそんなことをいっている場合ではない。
レオンの視線はケルベロスの目に釘付けになっている。
ダンはレオンを肩にのせてもびくともしなかった。
レオンがダンの肩の上に立つと丁度ケルベロスの目の高さになった。
しばらく観察して、レオンは「やっぱり。」と呟いてダンの肩から飛び降りた。
「何か分かったのか?」
ダンが聞く。
「このケルベロスの目、緑光石だね。」
レオンは目を指差して言った。
「緑光石?」
ダンとポックがまじまじとケルベロスの目を見る。
「緑光石って不思議な石でね。太陽の光の下だと緑色をしてるんだけれど、月の光とか松明なんかの火の光に反応すると赤く光るんだ。だからダンのバックルもここでは赤いでしょ。」
そういわれてダンは自分のバックルを見てみる。
確かにさっき武器屋では緑色だったバックルがここでは赤くなっている。
「じゃあいつでもこの石像の目は赤いんじゃん。」
ポックがなぁーんだという表情でため息をつく。
「そういうこと。」
ポックにそう返すとダンにも説明を重ねる。
「松明の光を受けてるからこの目はいつでも赤いんだ。ケルベロスが怒ってるって言うのも本当かどうかは怪しいもんだ」
そう言ってレオンは靴を履き直す。
「伝説って裏を返せばいつでもそんなもんだよね。何かそこには理由たねがあるもんなんだ。そうでしょう?」
そう言うと、背後に人の気配を感じてレオンは振り返った。
そこにはさっきの老兵士がいた。
「ご名答。君は賢いんだな。」
そう言いながら近づいてきた。
「試したんですか?」
レオンはちょっと恨めしそうな顔で兵士を見た。
「いや。悪かった。ケルベロスの伝説は本当だ。だが、ここの兵士は少ない。大人数の商人集団ならそのまま通すが、君たちみたいに若くて数の少ないグループにはさっきの話をして試させてもらっている。この先、分かれ道があって迷い混むとケルベロスたちの巣に繋がっていて危険なのは事実なんだ。君たちは賢いし、力もある。二人でも大丈夫だろう。」
そう言うと兵士は再び頭を下げた。
「試したりして本当に申し訳なかった。気を付けてな。」
頭をあげ、そう言うとにっこりと笑った。
さっきはなんだか感じの悪い印象だったが、今は穏やかで優しい印象に変わった。

「ありがとうございます。気を付けていってきます。」
レオンはそう言うと見えなくなるまで手を振って見送ってくれる兵士に別れを告げてトンネルの奥深くまで歩き始めた。
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