Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第三章 ラプラドル島 前編

目が覚めて

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目が覚めると真っ白な箱の中に横たわっているような状態だった。
天井は高いが何もない。
ただただ立方体。
ベッドもなければ家具もない。
本当に真っ白な空間に転がっているような状態だった。
レオンは次第にはっきりしてくる意識とは裏腹に、今の状況が全く分からずにいた。
たしか試練の洞窟で駆けずり回ったあと、黒ずくめの男たちに捉えられ、ルコルの香りで眠らされてしまって…

ここまではなんとか思い出したが、そこから先。
どこをどうやって今のこの状況にたどり着いたのか…。
さっぱり分からなかった。
いったいどれくらいの時間がたったのかも。
固い床に寝そべったまま、ぼんやりと天井を見ていた。

「気がついたようですね。」
突然声をかけられたので思わずガバッと起き上がる。
レオンのすぐそばには一人の女性が立っていた。
いつからこの部屋(?)にいたのだろう。
いや、初めは間違いなくレオン一人だったはずだ。
それではいつ、どこから?
そんなレオンの疑問とは裏腹に女性はにこりともせず、レオンを見下ろしている。
歳は50代くらいだろうか?
スラッした長身で、恐らくレオンよりもずっと背が高い。
細く尖った鼻、透き通るような白い肌。
アラベスク人のようにも見えるが、それにしてはかなり大柄だ。
女性は自己紹介などは一切せず、部屋の一角を指差した。
「そこの壁に穴がありますね。指を入れて引いてごらんなさい。」
指差してそういわれた先には確かに小さな穴がある。
言われた通りにしてみると、なにもない壁に亀裂が入るように扉が開いた。
中にはたくさんの衣装が。
「着替えたらあちらの扉から外に出て突き当たるまで右に行きなさい」
そういわれた方を見ると部屋の反対側には同じような小さな穴がある。
あれが扉なのか?
「あの…。僕以外に仲間は…。」
女性ははじめてにっこり笑ったような気がした。
あくまで気がした程度の表情の変化だったが。
「安心なさい。あなたのお友だちも一緒ですよ」
それを聞いて少し安心したレオン。
その表情を見ると、女性は、「それでは早く着替えなさい」と言うと、まるで砂がさらさらと流れるように消えてしまった。
レオンは目が点になる。
魔法?
ここ数日、自分の目を信じられなくなるようなことが続いている。
訳のわからないことばかりで頭がついていかないといった方が適切だろうが?
故郷では町の人々が石になり、故郷を追われ、アラベスク王国では内乱に巻き込まれ、試練の洞窟を駆け巡り、最終的にルコルの匂いで眠りこけた挙げ句に今ここ…。
そして今、またどこかわからない場所にいる。
レオンの脳内の処理能力はとっくにパンク状態だ。
もう何が出ても驚かない。
どうにでもなれ、と自棄っぱちになりそうになる。

だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。

気を取り直して衣装棚の衣装を見た。
アラベスクとは全く違う服が掛けられている。
麻のような薄い繊維。
風通しがよく涼しそうだ。
そういえばこの部屋は少し暑い。
アラベスクも夏はかなりムシムシとしているが、ここは温度自体が高い気がする。
「ここ、もしかしてカルバン帝国?」
独り言のように呟いたが、もちろん誰も答えるものはいないし答えは出ない。
レオンは取り合えず目の前の服に着替えることにした。

何種類もある衣装。

そのうち1つを手に取る。
着ていた服を脱ぐと、丁寧に畳んで着替えをはじめた。
黒い真ん中に穴があいただけのポンチョのような布、白いズボン、白のストールを肩から羽織り、ストールごとバックルの大きなベルトで止める。
本で読んだカルバン風の服装だ。
ゆったりとしているが、布には若干の光沢があってキラキラと光るおしゃれな感じ。
そんなに派手でもないので悪くはないだろう。

着替えを済ませたレオンは言われた通り、もう一つの扉を引いてみた。

真っ白な箱に亀裂が入るとその向こうはとても美しい絨毯張りの廊下だった。
真っ白の扉の裏は普通の木の扉。
異様な白の空間からあまりにも突然普通な空間に出て来て、レオンは違和感を覚えた。

キョロキョロと辺りを見回す。
「取り合えず出たら右って言ってたよな?」
とレオンは右を見ると、真っ赤な絨毯の敷かれた長い廊下に延々と同じような扉が続いている。
扉ごとにランプの火が揺らめいて明るい。
霞みそうなくらい遥か遠くに、何やら大きな扉が見える。
「あそこかな?」
首をかしげるレオン。
「行ってみるか」
レオンは歩き出す。
するとレオンの前方、いくつか先の扉が開いた。
あれは…!?

中から出てきたのは…。

「アンナさん?」
レオンは駆け寄る。
振り返ったアンナはやはりカルバン風の服装に着替えていた。
レオンと同じような麻のような繊維でできた黒いシャツに金の刺繍の入った赤いロングスカート。レオンよりも幅の広い薄い白のストール。

美人は何を着ても様になる。

思わず歩を止めてボーッと見とれてしまった。
「レオン!一人で心細かった!大丈夫?」
レオンに気付いたアンナもほっとした表情で微笑みかけた。
「大丈夫です。アンナさんこそ…」
「もうアンナでいいわよ。一緒に試練の洞窟を探検した仲でしょ。」
「アンナさん」が気に入らないようだ。
口を尖らせてちょっと睨んで見せる。
そう言われればそうかもしれない。
それでもまだレオンはもじもじしてしまう。
「…なんだか…その、まだ慣れなくて…。」
正直にそう告げると、ちょっとあきれたようなアンナは小さくため息をついた。
「もう…。そのうちなれるでしょ。」
そう言うと遥か遠くの扉に目をやる。
「さ、あの向こうの扉よね。行きましょう!」
アンナはそう言って歩き始めようとした。

すると、すぐ近くで扉が開いた。
「ダンかしら?」
誰か出てきたようだが、その姿は見えない。
アンナが扉の向こう側を覗くと、そこにはダンの巨体ではなく、小柄な少女がいた。
10歳くらいだろうか。
明るい茶色の髪を高い位置で一つにくくっている。
肌の色は白く、あまりにか細い少女だった。

「こんにちは。」
アンナは声をかけた。
少女は怯えた表情を見せる。
アンナはにっこりと微笑むと、
「私はアンナ。彼はレオン。あなたのお名前は?」
アンナは膝立ちになって少女と目線を合わせて尋ねる。
少女は困ったように目を泳がせる。
暫しの沈黙の末、「私、サラ」と、蚊の鳴くような声で言った。
ちょっと人見知りかな?とレオンは思った。
まぁ無理はない、とも思う。
彼女も自分達と同じように突然連れ去られてきたのならきっと不安でしかたがないだろう。
そんなサラの両手を包み込むように握ってアンナは微笑みを絶やさない。
「そう。サラっていうのね。あなた一人? 私たちも気がついたらここにいたの。ここにいても仕方がないわ。一緒に行かない?」
アンナは笑顔でできだけ穏やかにそう言うと、サラの手を引き歩き始めた。
サラも特に嫌がる素振りもなくついていく。
アンナの優しい人柄が通じたのだろう。
少しほっとしたレオンもあとを追いかけた。

それにしてもここはどこなんだろう?
さっきはカルバン帝国のどこかかとも思ったが、この建物はとてつもなく大きなもののようだ。
もしかして帝国の中心部、帝都ジャトゥーリかどこかか?
いつの間に?
長い廊下を歩きながらレオンは考えを巡らせる。
アラベスクからカルバンは、船で何日もかかる。
腹時計とはよく言ったもので、空腹度合いを考えても、ルコルの匂いで眠らされてそんなに何日も気を失っていたわけではなさそうだ。
ましてやここは船の中でもなさそうなのでより一層謎は深まる。
そんなことを考えているうちに長い廊下を端まで歩いたレオンたち。
目の前には立派な大扉が現れた。
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