Go to the Frontier(new)

鼓太朗

文字の大きさ
54 / 57
第三章 ラプラドル島 前編

休み時間のレオンとダン

しおりを挟む
「すげーじゃないか!」
「ホントに! めっちゃ鮮やかな投げ技だったな!」
「ホント俺、見とれちゃったよー!」
体術の授業が終わると、レオンは一躍時の人だった。

アルカマウラの小柄な少年が、スルガトラスの巨体を投げ飛ばす!

なんともセンセーショナルな状況にレオンは握手を求められるやら囲み取材よろしく色々な質問攻めにあった。
どこの出身か?
どんな流派か?
どんなトレーニングをしているのか?
どんな技が使えるのか?
などなど…。

ほとんどがレオンが答えられないものばかりだった。

レオンが個人的に意外だったのは、最もアツくなっている人間の一人がハイデンだったことだ。
ハイデンはクールで穏やかな印象だが、このときばかりはかなり興奮していた。
「ホントにすごい奴が同室だなんて、ビックリだ!」
目まで見開いて何だかむしろ怖い。
「俺ももちろんあの技はできるよ。でもな! レオンは今日が始めて体術だったんだろ?! で、あの技を体得した!ということが凄いんだよ!」
手放しの誉めようだが、そんなに凄いことなのか? とレオンは疑問に思う。
「あの技、実は身体の使い方が難しくて、うまく身体の上を転がさないとあの場合レオンはダンの下敷きになる。それを流れるように決めたのが凄いんだよ」
やはり疑問から抜け出せないレオンにハイデンは丁寧に教えてくれた。
「確かに…」
ダンもその説明には納得のようだ。
「レオンははじめてだったんだよな? 確かに下手すれば俺の下敷きになるのは確かだ。それがあの身のこなしなのなら大したもんだ!」
ダンはうんうんとうなずきながら感心したようにレオンを見る。

「他にはなんか隠してるのか?」
というハイデンに、「べ…別に何も隠すようなことないよ…」とは言ったが、これで「魔素がちょっと特殊」なんて口が裂けても言えない(今は…)。

まぁ、いずれはバレるんだろうけれど、今はちょっと黙っておこう。
何となくルームメイトを騙しているような気がして気が引けたが、そのうちそのうち。
少しずつ話せばいいだろう。
そんな気がしていた。
「レオンさんを見てたら身長なんて関係ないって思い知ったッス! 俺、自信ついたッス!」
そう言うのはドワーフのトトール。
ドワーフなので身長は確かに小柄なレオンの肩くらいしかない。
ドワーフというとムキムキで髭モジャで低身長。
気難しい性格であまり周囲と交わらないなど、ネガティブな印象が多いが、トトールは大層友好的だ。
しかも、レオンより少し年下だからなのか「後輩感」が凄い。
後で聞いてみるとトトールもここに来てまだ日が浅いらしい。
年若きドワーフはいたく感動して「頑張るッス!」とやる気を漲らせていた。
一方ダンも負けず劣らずの人気者だった。
バランやレオンの技を受ける姿は堂にいっていて鮮やかかつ美しいと男女問わず他の生徒たちはみな喝采を送った。

結局目立ってしまって後悔するレオン。
「そんなつもりはなかったんだけどなぁ…」
教室を出てダンと二人、塔の階段を降りながらそう独り言ちた。
「まぁ初級だからあんなもんだろ?」
ダンは意外とクールな対応だ。
「昨日は初回で見学しかしてないけれど、体術上級はメンツが違った気がする。今日の体術初級の中で上級も受けてるの、2、3人だったし。そいつらの反応を見てたら、『まぁまぁかなー』って感じ。やっぱりあんま、目立たない方がいいかもな」
階段を降りながらダンはそう言った。
「確かに…。って、別に目立ちたいとかじゃないのに!」
思わずレオンの鼻息が荒くなる。
ただ気を付けた方がいいのは確かだろう。
周りがどんな人間かわからない以上、変に目立って目をつけられるのはめんどくさい。
もう既にアルカマウラのフィエロなんかは、険のある視線を送ってくる。
「きっと悔しいのよ」
アンナはそう言うが…。

スルガトラスとアルカマウラをつなぐ渡り廊下をゆっくり歩きながら話をしているが、外に出ると強い潮風か吹き荒れている。
「上級になると凄い人とかいるんだろうね?」
予想以上の強い風に目を細めつつ、レオンはダンに聞いてみる。
「そうだな。昨日の午後、護身術の授業にも行ったけど、強そうな奴はわんさかいたな…」
そう言うと、ダンも強い潮風に顔をしかめる。
「仲間になってくれそうな人は?」
脱出のことを考えれば仲間は多い方が良いという話はダンにはしている。
「うーん…」
ダンは腕組みをして考える。
「まだ何とも言えねーなぁ。はじめてここに来た日、何かネットリするような目で俺たちを見てた感じの悪い奴ら、いただろ?」
レオンにも何となく覚えがある。
レスタートの4階の踊り場。
レオンたちを見てヒソヒソ話をしている連中。
「感じ悪い」とアンナが言っていたっけ。
「あいつらのうちの一人が体術の上級にいたな…」
顎に手を当て考える仕草のダン。
「そういえば…」
レオンも思い出したことがある。
あの中の一人。
確かフィエロもあの中にいた気がする。
「あの連中とは今のところ仲良くなれそうにないね…すぐには…」
レオンは苦笑する。
ちょっとした「敵意」のようなものも感じた。
周りの生徒たちにも様々な種類がいる。
人種、性別、年齢、国籍…。
全てがバラバラだ。
中にはエルフやドワーフもいるし、そもそもカルバン帝国はオーガ族のゆかりが深い土地柄なのでオーガ族や人間とオーガとの混血など、「人間」というカテゴリーに単純に分類できないものもたくさんいる。
だからといって差別や偏見があるわけではなく、同じ教室で机を並べている。
アラベスクではこのような人種差別や小競り合いが社会問題になっていたのでここはある意味「平和」といえる。
みんなが「仲良く」というのとは違う、一人一人が同じ目標に向けて努力する「同志」という感じがする。

さらに注意して様子を見ていると、生徒たちにも三種類にカテゴライズされることが分かる。
まず一つ目はレスタートの下の方。
3階前後のフロアにいる「生ける屍」グループだ。
彼らはもはや「息をする地蔵」のようなもの。
半ば廃人と化している。
話しかけても反応はほぼない。
ただ、能力にはかなり差があり、魔法の実力などはかなり高い者もいるようだ。
そんな本気になっている者は見たことがないが…。
次に二つ目のグループ。
それはカルバンに忠誠を誓う、いわば自発的にこの島へ志願してやってきた人々のグループだ。
ほとんどがカルバン本島から来ている人々でフィエロもその中に含まれる。
見分け方は比較的簡単だ。
レオンたちの感覚とハイデンに聞いたことを掛け合わせると、分かることがある。
・食事の時の国歌斉唱は常に全力!
・集団意識が強く、同じ思想の仲間とつるむ傾向が強い。しかも排他的な態度を取る。
・レオンやダン(アンナやサラも時間の問題だが)のように目立つ優秀生徒を目の敵にしがち。
・総じて成績優秀で、それを鼻にかける傾向が強い。
など。
彼らに接触を試みるのは後回し。
愛国心から絡み付いてこられては面倒だ。

そこで大多数の「普通の」人々にターゲットを持ってくる。
前者二つを除いて、さらに残った人から頼りになりそうな人、強そうな人(身体的・魔法的・あるいは両方)をあぶり出していく。
そういう視点で見れば目処をたてるのは難しくなさそうだ。
ハイデンは何となく信頼できる気がする。
落ち着いているし、どちらかと言うとあからさまにカルバン帝国に対して「敵意」を持っていると言える。
「まずはパブロ、ジライヤ、マリアがどれだけ信頼できる人かだね」
レオンは一番近くにいる三人を例にあげる。

「マリアは大丈夫だろ!」
ダンはそう言い切る。
確かにカルバン語を教えてくれたり、なにかと親切にしてくれたりと、印象は確かに良い。
受け答えも良識的で落ち着いているし、しっかりもしている。
レオンもそう思うが、それを裏付けるものは何もない。
まぁこれはレオン独自で検証が必要かもしれない。
ダンは当てになりそうもないし…。
他にはプリシラやヤクジンなども「要検証」というところだろう。
悪い人たちではないし考え方も柔軟かつ進歩的。

他には…。

レオンが頭を捻っていると、ダンが「おいっ!」と脇腹を小突く。
その視線の先には…。
「あぁ…」
思わず声に出してしまいそうになるのを堪えたが、残念な表情までは隠しきれなかったのではないだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...