Go to the Frontier(new)

鼓太朗

文字の大きさ
55 / 57
第三章 ラプラドル島 前編

ブルーサイクロンズ

しおりを挟む
そこに立っていたのは…。
「おうおぅ! 今、噂のスーパースター、レオン様じゃないか?」
慇懃無礼いんぎんぶれいってこういう態度のことを言うんだろうなぁとレオンは思った。

目の前にいるブロンドヘアーのイケメンは、ひがみか妬みか分からない表情でレオンを見る。
そして恭しく深々と、逆に嫌みなくらいの仕草でお辞儀をして見せる。

(やな感じ)

無視しようとも思ったが、名指しで声をかけられたのでそうもいかない。

「やあ、フィエロ。どうかした?」
できるだけそっけなく、冷たくあしらうようにする。

相手も険のある態度なんだからとやかく言われる筋合いはないだろう。
そんなレオンの態度にに多少なりとも気を悪くしたのだろう。
「ふん、お高くとまってんな。まぁいい。今日は我らブルーサイクロンズにお前を招待してやろうと思ってだな」
不機嫌ながらも、レオンの態度を特に気にもしないフィエロ。
顎をくいっとあげて、高圧的な態度でレオンを見る。
薄い笑顔が逆に胡散臭さを増長している。
「ブルーサイクロンズ???」
レオンはできるだけ「うんざり」した気持ちが全面に出るようにして聞き返した。
何とも時代錯誤と言うかなんと言うか。
一昔前の英雄ヒーローのようなネーミングセンスにレオンは呆気にとられたが、フィエロはレオンがフィエロたちに圧倒されているとでも思ったのだろうか、眉を片方だけあげると、ベラベラと説明を始めた。
「我らブルーサイクロンズは、カルバン帝国の繁栄を担う徒党パーティとして結成された選らばれしエリート集団だ。ゆくゆくはここを卒業する頃にはカルバン帝国の帝国軍として名を馳せることになるだろう。そのために芽のあるやつに声をかけて引き抜いているのさ。さっきメンバーの1人がお前の体術の授業の様子を見た。俺も魔法の授業でお前を見て、ブルーサイクロンズに入る資格充分と判断して、お前とダンを勧誘に来たと言うわけだ」
「ありがたく思えよ!」というような態度のフィエロにレオンは「はぁ…」としか言えない。
そもそもレオンはカルバンに忠誠なんてこれっぽっちもない。
むしろ、こんなところに半ば強引に連れてこられ、この島に閉じ込められてうんざりしているも言う方が正しい。
カルバン帝国の帝国軍の兵隊になると言うことは、あの悪名高い帝国の片棒を担ぐということだ。
レオンとしては祖国の敵とも言える軍隊に入れと言うこの申し出(半分以上命令)は受け入れることはできない。

「あのさ、フィエロ。」
レオンは多少憤りを感じながらもできるだけ丁寧にお断りしようと言葉を選ぶ。
「僕はアラベスクの人間だよ。何も知らずにここに連れてこられてよく分からないままこの国の教育を受けてる。この状況も個人的には意味かわからないし、納得している訳じゃないんだ。まぁ、ライモンダ先生やバラン先生のように悪意を感じない人もたくさんいる。ここに来たのも何かの縁だからそれは受け入れようも思うよ。そう思えるようになったのもここ数日の話だ。まぁ、この国にはまだまだ裏があると思っているからただの悪名高い周囲に殺戮をばらまく侵略帝国なだけじゃないな、とは思い始めているけれど、とてもじゃないけれどこの国に忠誠を誓おうなんて気にはまだなれない。だから誘いには乗れないな」
キョトンとしたのは今度はフィエロの方だ。
レオンにしてはちゃんと断ってるな、とダンは思いながら、レオンの言葉を引き継ぐ。
「俺たちは祖国であるアラベスク王国に帰りたいと願っているんだ。当たるなら他を当たってくれ」
そう言ったダンをフィエロは睨むように見た。
(そんな悪意のある目で見なくても…)
レオンはそう思ったが、一応同調の意味も込めて頷いておく。
「まったく、この話がどれだけ名誉なことかわかってないなー。俺が直々に頭を下げに来てるんだぜ」
鼻息荒くフィエロは言う。
(いや、今のところ一度も頭は下げてないだろ…)
そんなレオンの心の中の突っ込みなんてもちろん通じない。

「名誉が欲しいとかそんなんじゃないんだよ、フィエロ。僕たちはできれば一刻も早く祖国に帰りたいと思っているんだ。君たちとは違う」
自分では気の長い方だと思っているが、それでもレオンは少しイライラしてきた。
「おいおい、俺らでカルバン帝国を盛り上げていこうぜって言ってんだ。共に皇帝陛下を崇め、栄光の階段を登ろうぜ!」

話が通じない。

レオンは自身の顔から表情というものが抜け落ちていくのを感じた。
「自己中心的な思想」を振りかざす「愚か者」。
フィエロの中に特に何か悪意があるとは思えない。
最初レオンはフィエロのことを「やな感じ」とは思った。
「敵意」のようなものを感じたからだ。
だが、それは誤解だったようだ。
彼らはレオンに敵意があるわけではないことは辛うじて分かった。
そうでなければ、こんなに熱心に勧誘はしないだろう。

だが。

「同意できる」かどうかは別問題。

彼の考えに同調は難しいし相容れない思想の持ち主であることはハッキリした。
基本的にレオンは「人の話を聴かない人」は苦手だ。
そして「自分の価値観を押し付ける人」も。
この手の人種は何を言っても耳をかそうとはしない。
その後もやり取りは続いているが、もはや立て板に水の状態。
ダンが何を言っても、意に介さない返答を続けている。

レオンは「もはや話をしても無駄」と判断した。

関り合いにならなければただの「目障り」だが、ここまで来ると「迷惑」だ。
レオンは覚悟を決めた。
もう嫌われてもいい!
我慢の限界だ。
「なぁ、フィエロ」
氷のような表情のまま、のべつまくなし持論を喋りまくるフィエロを遮った。
「ん??」
ようやく黙るフィエロ。

「申し訳ないけど、昨日の魔法原理の授業で思ったんだよねー。エリートって言うけどさ。フィエロが『魔法』という点においてそれほどエリートとは思えなかったけど?」
じっとりとした目でフィエロを見るレオン。
かなり悪い目をしている。
レオンも人が悪くなったな…。
ダンはちょっとだけ悲しい気分になりながら心の中で呟く。
「なんだと?!」
フィエロが目を剥く。
(ほーら、怒らせた)
ダンは火に油を注ぐレオンをうんざりした目で見る。
だが、レオンも負けていない。
「だって、フィエロはこれができないんだろ?」
無表情のまま、レオンは黙って指で宙に何か文字のようなものを書いた。
次の瞬間、潮風とは無関係に周囲の砂埃が舞い上がる。
明らかに魔法によるものであることはダンにも分かった。
そう。
フィエロは土属性の魔法が使えるがまだ弱い。
砂を少し動かすのが精一杯だ。
レオンはそれを数十倍のパワーでやってのけた。
涼しい顔で。
そして冷たく言い放つ。
「まぁ、また気が向いたら誘ってよ。少なくとこれくらいできるようになったらさ」
みるみるうちに渦巻き、激しくなっていく砂埃。

そして巨大な竜巻のようになった砂埃がおさまり、消える頃、レオンとダンはもうそこにはいなかった。
呆然とするフィエロたち。

「くそっ!」

レオンにコケにされ、逃げられ、地団駄踏むフィエロたち。

もちろんレオンたちは見ていない。
その頃レオンたちは猛ダッシュで塔の中に逃げ込んだのだから。

*****

目の前で砂埃の竜巻が起こった時、ダンは呆然とした。
「なんだこりゃ?!」
口をあんぐり開けて見るしかなかった。
「ダン!いくよ!」
レオンの鋭い声と普段からは想像もできない強い力で腕を引かれ、ダンは我に返った。
レオンにこんな能力があるなんて…。
ダンにもにわかには信じられなかった。
屋上庭園から塔に入るとレオンは歩調を緩めた。
「レオン。どうしたんだ?いつもと全然様子が違ったから心配になったぞ。それにあの魔法…」
レオンはまだ硬い表情だったが、次の瞬間、我に返ったような顔をし、そしてバツの悪そうな顔をした。
自分でもあんなに好戦的な態度をとってしまったことは意外だったのかもしれない。
「魔法って原理が分かればそんなに難しくないんだよ。まぁ勉強は必要だけど、あれくらいは難なくできる。自分で言うのもなんだけど、『めずらしく』ちょっとムカついたのもあるけどね…」
照れ隠しのようにそう言って階段を昇る歩調が早くなるレオン。
そんなレオンの表情を見て、ダンはちょっとだけ安心する。
自分からあんな風に吹っ掛けるレオンを初めて見た。
少なくとも出会ってからのレオンは、控えめでどちらかと言えば自信無さげに見えていた。
ダンはレオンを「守ってやらなきゃならない相手」と勝手に思ってもいた。
でも、あのときは少し違った。

まだまだ知らないことがお互いにある。

ダンは改めてそう思った。
そういえば自分のこともレオンにあまり話していないことに気づく。
いずれはもっと腹を割って色々話すべきことがあるんだろうな。
ダンはひっそりそう思った。

「これからも、何かとちょっかいをかけてくるかもね。あの連中。あぁいうの、諦め悪いから…」
そう言って苦笑いをするレオンは、もういつも通りの控えめで穏やかなレオンだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...