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1章
10.再出発
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紆余曲折ありつつも、なんとか残金の30万で俺の解放が決まった。
ちなみに30万で済んだ大きな理由は俺が元手ゼロの奴隷であったことと、
『お前みたいな訳のわからん奴を置いておくと他の奴隷に変な影響が出るのは間違いない。現にたった一週間で仕事をお前に任せてサボる奴も出てきた上に、オレが頭痛に悩まされてるのは間違いなくお前が原因だ。だからどっか行け、残りの金は迷惑料代わりに貰っといてやる』
というものだった。
そして俺達の首輪を外して貰い、奴隷になる前に着ていた服や装備も返却して貰い、夜も遅いということでローガンさんの計らいで一晩を宿舎で過ごさせて貰って――。
奴隷から解放された俺達の記念すべき朝がやってきた。
◇
「んーいい朝だな」
俺達は日の出前にローガンさんのところを出発し、近くの街に向かって歩いていた。
一週間付けっぱなしだった首輪がないのは少し寂しい気持ちになるが、これからは立派な社畜として見えない首輪が付くことになる。とても楽しみだ。
「本当に奴隷じゃなくなったのね……」
隣を歩くファルは先ほどから何度も自分の首の辺りや格好を確認している。
今までの奴隷服ではなく、一見ドレスにも見えるような華やかな服装になっていて、彼女の気品のある外見がいつもの何倍も際立っていた。
これからファルが俺の上司になるのか……あのハゲ上司にこき使われていた時と比べると、まるでご褒美のような展開だ。
「それで街に着いたらどうするんだ? どんな仕事でもガンガンやるぞ」
期待していた奴隷生活は肩透かしどころか鬱憤が溜まるだけだったからな。
今の俺はいつも以上に労働力があふれている気分だ。
しかしそんな俺とは対象的に、ファルは少し浮かない表情をしていた。
「そのことなんだけど…………やっぱり私が人の上に立つのは無理だと思うの」
「そうか、無理か」
…………。
……。
って。
「いやいやいやいや!? 無理じゃないだろ!? 親父さんからしっかり教育を受けたんだろ!?」
「その父の教えが間違っているのよ。私自身が奴隷になって始めて理解したわ。人は道具なんかじゃないって」
いかん。
ファルの考え方がホワイト寄りになってきている。これでは奴隷を辞めた意味がない。
「親父さんの考えは間違っていない。所詮社員は消耗品なんだ」
「違うわ。本当に消耗品のように扱ってもいいのなら商会は潰れなかったもの」
「いいや間違ってなんかいない。ただやり方が悪かっただけなんだ」
「……やり方?」
聞き返すファルに俺は「そうだ」と頷く。
「社員教育の徹底。これが出来ていなかったのが原因だと俺は考える」
「教育ならしっかりやってたわよ。商品知識を深めるために勉強会とかもやっていたし」
「いや、そういう教育じゃなくて会社に逆らえない人間を作る為の教育だ」
「…………そんな都合の良い教育方法なんてあるの?」
「ある」
自信満々に頷いた俺は、以前の会社で行った新人研修の内容と、恐るべきその効果について語った。
研修の指導役は上官。上官の命令には絶対服従。一糸乱れぬ行動を要求され、”周囲に合わせる”ではなく、”自分の思った通りにやる”でもなく、”上官の命令通りに動く”人間を作る。
いかに会社が素晴らしいかを大声で繰り返し発声する。無駄に大声で言い続けていると微塵も思っていないことでも段々とそれが本心のように思えてくる。
体力の限界まで穴掘り、ランニングなどをさせて、自分がいかにダメな人間かを悟らせる。
地味に嫌なことを強制し、続けさせることで今後も色々なことを強制させやすくなる。
大事なのはとにかく自尊心と思考力を削ること。
などなど。
「……………………天才ね」
俺からの話を聞いたファルは感心したようにしきりに頷いていた。
さすがは多くの社畜を生み出してきた日本の研修。ノウハウのない異世界では革新的なようだ。
「そしてその研修を受けてきた俺がここにいる。だったらもう迷うことはないだろう?」
「……でも私、面倒なことは全部イトーに丸投げするわよ?」
「おう、大歓迎だ」
仕事の丸投げはあのハゲ部長相手に慣れてるし鍛えられている。
「仕事以外のことも投げるかもしれないわよ?」
「問題ない」
業務に追われる中での飲み会の幹事など、業務外のことも受け止めてきた。
「私、貴方のことを利用するかもしれないのよ?」
「上司が部下を利用するのは当然だろう」
出世のため、評価のため。
俺の上司になるのだから手柄を横取りしたり、失敗の責任を押し付けるぐらいのことはして貰わないと困る。
「ほ、本当にいいのね? 私遠慮しないわよ?」
「ああ、俺は部下だからな。好きに使ってくれ」
何度も確認してくるファルに、力強く頷いて返す。
「…………本当、変わってるわねイトーって」
そうして助けた側なのに部下を望んだ俺と、助けられた側なのに望まれて上司になったファルとの、少し世間的には変わった感じの上司と部下の関係が始まったのだ。
ちなみに30万で済んだ大きな理由は俺が元手ゼロの奴隷であったことと、
『お前みたいな訳のわからん奴を置いておくと他の奴隷に変な影響が出るのは間違いない。現にたった一週間で仕事をお前に任せてサボる奴も出てきた上に、オレが頭痛に悩まされてるのは間違いなくお前が原因だ。だからどっか行け、残りの金は迷惑料代わりに貰っといてやる』
というものだった。
そして俺達の首輪を外して貰い、奴隷になる前に着ていた服や装備も返却して貰い、夜も遅いということでローガンさんの計らいで一晩を宿舎で過ごさせて貰って――。
奴隷から解放された俺達の記念すべき朝がやってきた。
◇
「んーいい朝だな」
俺達は日の出前にローガンさんのところを出発し、近くの街に向かって歩いていた。
一週間付けっぱなしだった首輪がないのは少し寂しい気持ちになるが、これからは立派な社畜として見えない首輪が付くことになる。とても楽しみだ。
「本当に奴隷じゃなくなったのね……」
隣を歩くファルは先ほどから何度も自分の首の辺りや格好を確認している。
今までの奴隷服ではなく、一見ドレスにも見えるような華やかな服装になっていて、彼女の気品のある外見がいつもの何倍も際立っていた。
これからファルが俺の上司になるのか……あのハゲ上司にこき使われていた時と比べると、まるでご褒美のような展開だ。
「それで街に着いたらどうするんだ? どんな仕事でもガンガンやるぞ」
期待していた奴隷生活は肩透かしどころか鬱憤が溜まるだけだったからな。
今の俺はいつも以上に労働力があふれている気分だ。
しかしそんな俺とは対象的に、ファルは少し浮かない表情をしていた。
「そのことなんだけど…………やっぱり私が人の上に立つのは無理だと思うの」
「そうか、無理か」
…………。
……。
って。
「いやいやいやいや!? 無理じゃないだろ!? 親父さんからしっかり教育を受けたんだろ!?」
「その父の教えが間違っているのよ。私自身が奴隷になって始めて理解したわ。人は道具なんかじゃないって」
いかん。
ファルの考え方がホワイト寄りになってきている。これでは奴隷を辞めた意味がない。
「親父さんの考えは間違っていない。所詮社員は消耗品なんだ」
「違うわ。本当に消耗品のように扱ってもいいのなら商会は潰れなかったもの」
「いいや間違ってなんかいない。ただやり方が悪かっただけなんだ」
「……やり方?」
聞き返すファルに俺は「そうだ」と頷く。
「社員教育の徹底。これが出来ていなかったのが原因だと俺は考える」
「教育ならしっかりやってたわよ。商品知識を深めるために勉強会とかもやっていたし」
「いや、そういう教育じゃなくて会社に逆らえない人間を作る為の教育だ」
「…………そんな都合の良い教育方法なんてあるの?」
「ある」
自信満々に頷いた俺は、以前の会社で行った新人研修の内容と、恐るべきその効果について語った。
研修の指導役は上官。上官の命令には絶対服従。一糸乱れぬ行動を要求され、”周囲に合わせる”ではなく、”自分の思った通りにやる”でもなく、”上官の命令通りに動く”人間を作る。
いかに会社が素晴らしいかを大声で繰り返し発声する。無駄に大声で言い続けていると微塵も思っていないことでも段々とそれが本心のように思えてくる。
体力の限界まで穴掘り、ランニングなどをさせて、自分がいかにダメな人間かを悟らせる。
地味に嫌なことを強制し、続けさせることで今後も色々なことを強制させやすくなる。
大事なのはとにかく自尊心と思考力を削ること。
などなど。
「……………………天才ね」
俺からの話を聞いたファルは感心したようにしきりに頷いていた。
さすがは多くの社畜を生み出してきた日本の研修。ノウハウのない異世界では革新的なようだ。
「そしてその研修を受けてきた俺がここにいる。だったらもう迷うことはないだろう?」
「……でも私、面倒なことは全部イトーに丸投げするわよ?」
「おう、大歓迎だ」
仕事の丸投げはあのハゲ部長相手に慣れてるし鍛えられている。
「仕事以外のことも投げるかもしれないわよ?」
「問題ない」
業務に追われる中での飲み会の幹事など、業務外のことも受け止めてきた。
「私、貴方のことを利用するかもしれないのよ?」
「上司が部下を利用するのは当然だろう」
出世のため、評価のため。
俺の上司になるのだから手柄を横取りしたり、失敗の責任を押し付けるぐらいのことはして貰わないと困る。
「ほ、本当にいいのね? 私遠慮しないわよ?」
「ああ、俺は部下だからな。好きに使ってくれ」
何度も確認してくるファルに、力強く頷いて返す。
「…………本当、変わってるわねイトーって」
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