【選択小説】枯男は生還したい。〜旧校舎の神隠し〜

ルナ

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エピソード0【月神】

【誰かの記憶⑥】無

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「あなたは確か松谷さん…でしたっけ?」
「アンタは…誰や!?」

 吸い込まれた仮性空間。そこには何も見えない暗闇しか無い。そう思っていたがどこからか誰かの声がする。女の声のようだが、知らない声だ。

「あぁ、そうでしたね。直接お話はしていませんでしたもんね。初めまして。月神学の姉、月神渚と申します」
「月神渚…おかしいですな。俺の調べでは月神渚は死んだと…」
「はい。私は確かにツクヨミの力によって息絶えました。ですので、恐らく私は魂だけの状態で接触出来ているんだと思います」
「ほえぇ…魂とな…」

 以前だったら魂や霊なんて、オカルトじみた物は信じない主義の俺だったが、今までの経験上信じざるを得ない。
 目の前に…いや、今はそれすらも分からないが。とにかく俺の近くに月神姉がいるのは間違いない。
 そして今の俺の状況。運が良い事に着ている衣服、持ち物ごと吸い込まれたようで携帯はある。そして電波も立っている。何も見えず、手の感覚もほとんど無い中、勘だけで体をまさぐり携帯を取り出す。見えないとは言え、いつも幾度となく触っている携帯だ。見えずとも暗証番号の入力、アプリの起動は難なくできる。
 この空間、声は出せるようなので通話は可能だ。誰かに助けを求めようとしたが即座に断念した。助けを呼んだところでどうなる。「仮性空間に閉じ込められた。助けてくれ」なんて言ったところでどうしようも無い。そもそも信じて貰えないだろうがな。
 唯一俺ができるのは…

ピッ…ポッ…パッ…

プルルルルル…プルルルルル…


「あぁもしもし…そうだ。うん、うん。はいよー、大丈夫大丈夫だ。もうちょいで解決すっからよ、待ってろよー天音。んじゃ、またな」

 俺はそこで通話を切った。ちゃんと通話終了のボタンを押せたのかも分からないが、何となく押せた気がする。もう感覚が完全に無くなりかけている。

「電話…家族にですか?」
「あぁ、うちの女房にな。すっげぇべっぴんさんなんだぜ?アンタにもその内見せてやっかんな!」
「そうですか…楽しみにしてますね!」

 それからはしばらく月神姉と雑談を繰り広げた。
 なんて事は無いただの雑談。
 今の事。
 この間の事。
 ここに来た経緯。
 今までの事。
 叶わぬ将来これからの事。
 そして家族の事。

 しばらく話す内に彼女の声が徐々に遠くなっていった。俺の聴覚が腐ったのか、彼女が空間に飲み込まれたのかは分からない。
 やがて完全に声が聞こえなくなり、正真正銘の孤独になった俺は思わずポツリと呟いた。

「ハァ…早くここから生還したいもんだな…」

 俺はただひたすらに待ち続ける。転機が訪れるその日まで。
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