45 / 45
空に住む人たちと僕
空に住む人たちと僕
しおりを挟む
ゴールデンウィークに入った日のこと。佐和田さんに呼ばれた私は彼女の家を訪ねていった。
空に浮かぶ雲は嘘のように白い。頭上を飛んでいった白い鳥はレプリカモメだろうか。少し前に降った雪がまるで幻想であったかのように暖かい風が吹いており、長袖を着て自転車を漕いでいると汗ばむほどである。
家のチャイムを押すと「入ってくれ」という明るい声が返ってきた。鍵が開け放しになった玄関扉を押すと、ついひと月ほど前まで一階を制圧していたゴミの山が綺麗さっぱり消えていた。代わりにそこに鎮座していたのは塗装途中の巨大なゾウキリン像である。あれが完成した暁には、彼女の家の屋上から彼が新座を見渡すことになるのだろう。
佐和田さんが起こした例の一件が警察沙汰にはなることはなかった。爆弾という動かぬ証拠も、かしらなしが食べてしまったことで消えてしまったし、最初に爆破されたのも雑草が好き放題に生い茂った空き地というためもあるが、何より郡司氏のおかげで〝新座墜落〟が現実になりそうだったということが大きかった。
新座浮遊の第一人者である彼女が、新座に起きていた地震が落下の前触れであることに気づき、急いで市民を避難させるため、不本意ながらもあのような行動を取った――という茂川先生が言いふらしたデタラメなシナリオが、世間に信じられたのである。あの日以来、新座は100mほど高度が下がったというし、あながち全く嘘というわけでもない。
おかげで佐和田さんは世間一般から〝英雄〟として扱いを受けている。彼女はそれを、自分への罰として受け入れることに決めたらしい。
二階へ上がると、ソファーに腰掛けていた佐和田さんが軽く手を挙げ私を迎えた。
「やあ、わざわざ来てもらって悪いね」
「いいんです。どうせ午後まで暇ですから」
私は彼女に勧められるままソファーに腰掛けた。彼女はテーブルに置いていたアイスティーを私の前に差し出し、「飲みたまえ」と言った。
「さて、君に来てもらったのは他でもない。茂川についてなんだ」
アイスティーを一口飲んだ私は、「茂川先生がどうかしたのですか」と答える。
「いや……それが恥ずかしいことに、最近あの男に会うとどうしてだか胸が苦しくてね。君ならば何か対処法を知っていないかと思ったんだ」
「どうして私ならば対処法を知っていると思ったのです」
「わからない。しかし、君は頼れる男だから」
実のところ、佐和田さんと茂川先生はあの熱い愛の告白について何も覚えていない。ふたりにとってあの出来事はあまりに刺激が強すぎて、脳が記憶を拒んだのであろう。しかし心はあの出来事を覚えている。ゆえに佐和田さんは彼の顔を見ると無性にどきどきするのである。
私がそれを「恋心ですよ」と教えるのは簡単だが、そんなことをしたところで彼女が私の言葉をそう易々と受け入れるとは思えない。ゆえに私が選んだのは、「さあ、なんでしょうね」などという頼りがいの無い言葉であった。
左手で前髪をかき上げた佐和田さんは大きく息を吐いた。
「……君にもわからない、ということか」
「ええ。ですから、佐和田さんは茂川先生と面と向かって話してみた方がいいと思いますよ。どこかふたりで食事にでも出かけて」
「……それで解決するのだろうか」
「わかりません。ですが、その確率は高いと思われます」
「その根拠は?」
「新座市民の勘ですよ」と答えた私は、アイスティーを一口飲んだ。
〇
結果が見えている不毛な恋の悩み相談は正午を過ぎるころにようやく終了した。
佐和田さんの家を出て自転車を漕いでいると、私の横を馬が並走し始めた。郡司氏であることは見ずともわかる。
あの事件以来、郡司氏とアマメの関係は改善された。顔を合わせれば大戦争という間柄ではなくなったのは大変喜ばしいが、そもそもの話をすれば、喧嘩するほど仲が良いという言葉だってあるのだ。元々、ふたりの仲はそこまで悪くないのだろう。
「アマメからの伝言だ、ユキヒト。連休中は一日空けておけ。釣りに行くぞ」
「新座で何が釣れるというのです。川も枯れているというのに」
「それを何とかするのがお前の役目だ……と、アマメが言っていた」
私がアマメに作った借りはあまりに大きすぎた。なんせ命を救われた。釣り程度で返せるのならば楽なものだが、どうせこれだけで許してくれるわけもない。恐らく夏の盛りになるころには、「雪合戦がしたい」などと彼女はのたまい、私を大いに困らせることだろう。既に今から胃が痛い。
私は「なんとかしますよ」と答えた。
郡司氏は「ならいい」と吐き捨てた。
「しかし、郡司さんも丸くなったものですね。アマメと仲良くするなんて」
「あの女には借りがあるからな」
「おや、郡司さんもですか。何を借りたのです」
「大事な友人を救ってくれた。それだけだ」
「……ずいぶんと大きな借りを作ったものですね、貴方も」
「お互い様だ」と不満げに鼻を鳴らした郡司氏は、鬼鹿毛の尻を叩いてその速度を速めた。彼の背中は十秒ともしない間に見えなくなった。
〇
私が自転車を走らせていたのはアンリに向かうためであった。さらに言えば、青前さんに会うためである。昨夜、彼女から昼の十二時半にこの店に来るよう言われたのだ。
あの日、アマメが私を助けに現れたのは青前さんに頼まれたかららしい。何やら胸騒ぎを覚えた彼女が私のことを探しているうち、かしらなしに跨ってそこら辺をふらついているアマメに出会ったのだとか。
アマメという助っ人を得た青前さんが次に出会ったのが郡司氏であった。鬼鹿毛に乗って走り去る私の背中にただならぬものを感じた彼が、平林寺から急いで出てきたところで、青前さんとアマメのふたりに遭遇したらしい。
郡司氏から私の話を聞いた青前さんは、鬼鹿毛が走った方へかしらなしを走らせた。そこで最後に出会ったのが鬼鹿毛である。
青前さんが犬、雉、猿など目ではないほど心強いお供を得てからの話は、あの日起きた出来事の通りだ。
青前さんを助けるために動いていたはずの私が、最終的には彼女の行動に命を救われた。つくづく格好がつかないが、これも私らしいといえば私らしい。
アンリに着くと、エプロンを身に着けた青前さんがひとり、店内にいた。店の外から私が手を振ると、彼女は「早く来て」と言いたげに、カウンターの向こうからこちらへ手招きした。
扉を開けて店内に入ると、彼女は黙ってコーヒーを淹れ始めた。私は彼女の前の席に座り、カップにコーヒーが注がれる様を黙って見ていた。
青前さんを見ているだけで、私は非常にどきどきする。そのどきどきがこれまでで一番強いのは、きっと私が彼女に期待をしているからだろう。
というのも私は、あの日の告白の返事をまだ彼女から頂いていない。今日、私を呼び出したのは、きっと彼女が返事をする決心をしてくれたからに違いない。誰もいない店内を見たせいで、そんな私の期待はますます膨れ上がり、もはや破裂寸前のハリセンボンである。
黒い液体が注がれたカップを私の前に差し出した青前さんは、私の目を見ながら口を開いた。薄い唇が言葉を紡ごうとする様が、私にはスローモーションのように映った。
「ナリヒラくん。あたし、色々考えたんだけどさ」
「はい」
「この前の告白の返事、君の誕生日までお預けにしておこうかと思って」
「……はい?」
「だって君、この前、あたしとの約束破りそうになったでしょ? だからそのオシオキってことで」
「そんな殺生な。いったいどれだけ僕の寿命を縮めるつもりですか?」
「あれ、ナリヒラくん。いったい、いつから〝僕〟に戻ったわけ?」
青前さんはいたずらっぽく笑い、「いつもみたいに私って言ってオトナぶりなよ」と言いながら私の頭を小突いた。彼女に勧められるままに、私は黙ってコーヒーを飲む。それはいつもより少しだけ苦い味がした。
私が生きている間はもちろん、私がこの世からいなくなってからも、きっとこの地球が終わるまで。新座は空にあり続けることだろう。
「それだけ長く続くように」なんて贅沢なことは言わない。しかしせめて八十年くらいは、この今のような幸せが私達の間で続きますようにと、私はこっそり願ってみたりした。
空に浮かぶ雲は嘘のように白い。頭上を飛んでいった白い鳥はレプリカモメだろうか。少し前に降った雪がまるで幻想であったかのように暖かい風が吹いており、長袖を着て自転車を漕いでいると汗ばむほどである。
家のチャイムを押すと「入ってくれ」という明るい声が返ってきた。鍵が開け放しになった玄関扉を押すと、ついひと月ほど前まで一階を制圧していたゴミの山が綺麗さっぱり消えていた。代わりにそこに鎮座していたのは塗装途中の巨大なゾウキリン像である。あれが完成した暁には、彼女の家の屋上から彼が新座を見渡すことになるのだろう。
佐和田さんが起こした例の一件が警察沙汰にはなることはなかった。爆弾という動かぬ証拠も、かしらなしが食べてしまったことで消えてしまったし、最初に爆破されたのも雑草が好き放題に生い茂った空き地というためもあるが、何より郡司氏のおかげで〝新座墜落〟が現実になりそうだったということが大きかった。
新座浮遊の第一人者である彼女が、新座に起きていた地震が落下の前触れであることに気づき、急いで市民を避難させるため、不本意ながらもあのような行動を取った――という茂川先生が言いふらしたデタラメなシナリオが、世間に信じられたのである。あの日以来、新座は100mほど高度が下がったというし、あながち全く嘘というわけでもない。
おかげで佐和田さんは世間一般から〝英雄〟として扱いを受けている。彼女はそれを、自分への罰として受け入れることに決めたらしい。
二階へ上がると、ソファーに腰掛けていた佐和田さんが軽く手を挙げ私を迎えた。
「やあ、わざわざ来てもらって悪いね」
「いいんです。どうせ午後まで暇ですから」
私は彼女に勧められるままソファーに腰掛けた。彼女はテーブルに置いていたアイスティーを私の前に差し出し、「飲みたまえ」と言った。
「さて、君に来てもらったのは他でもない。茂川についてなんだ」
アイスティーを一口飲んだ私は、「茂川先生がどうかしたのですか」と答える。
「いや……それが恥ずかしいことに、最近あの男に会うとどうしてだか胸が苦しくてね。君ならば何か対処法を知っていないかと思ったんだ」
「どうして私ならば対処法を知っていると思ったのです」
「わからない。しかし、君は頼れる男だから」
実のところ、佐和田さんと茂川先生はあの熱い愛の告白について何も覚えていない。ふたりにとってあの出来事はあまりに刺激が強すぎて、脳が記憶を拒んだのであろう。しかし心はあの出来事を覚えている。ゆえに佐和田さんは彼の顔を見ると無性にどきどきするのである。
私がそれを「恋心ですよ」と教えるのは簡単だが、そんなことをしたところで彼女が私の言葉をそう易々と受け入れるとは思えない。ゆえに私が選んだのは、「さあ、なんでしょうね」などという頼りがいの無い言葉であった。
左手で前髪をかき上げた佐和田さんは大きく息を吐いた。
「……君にもわからない、ということか」
「ええ。ですから、佐和田さんは茂川先生と面と向かって話してみた方がいいと思いますよ。どこかふたりで食事にでも出かけて」
「……それで解決するのだろうか」
「わかりません。ですが、その確率は高いと思われます」
「その根拠は?」
「新座市民の勘ですよ」と答えた私は、アイスティーを一口飲んだ。
〇
結果が見えている不毛な恋の悩み相談は正午を過ぎるころにようやく終了した。
佐和田さんの家を出て自転車を漕いでいると、私の横を馬が並走し始めた。郡司氏であることは見ずともわかる。
あの事件以来、郡司氏とアマメの関係は改善された。顔を合わせれば大戦争という間柄ではなくなったのは大変喜ばしいが、そもそもの話をすれば、喧嘩するほど仲が良いという言葉だってあるのだ。元々、ふたりの仲はそこまで悪くないのだろう。
「アマメからの伝言だ、ユキヒト。連休中は一日空けておけ。釣りに行くぞ」
「新座で何が釣れるというのです。川も枯れているというのに」
「それを何とかするのがお前の役目だ……と、アマメが言っていた」
私がアマメに作った借りはあまりに大きすぎた。なんせ命を救われた。釣り程度で返せるのならば楽なものだが、どうせこれだけで許してくれるわけもない。恐らく夏の盛りになるころには、「雪合戦がしたい」などと彼女はのたまい、私を大いに困らせることだろう。既に今から胃が痛い。
私は「なんとかしますよ」と答えた。
郡司氏は「ならいい」と吐き捨てた。
「しかし、郡司さんも丸くなったものですね。アマメと仲良くするなんて」
「あの女には借りがあるからな」
「おや、郡司さんもですか。何を借りたのです」
「大事な友人を救ってくれた。それだけだ」
「……ずいぶんと大きな借りを作ったものですね、貴方も」
「お互い様だ」と不満げに鼻を鳴らした郡司氏は、鬼鹿毛の尻を叩いてその速度を速めた。彼の背中は十秒ともしない間に見えなくなった。
〇
私が自転車を走らせていたのはアンリに向かうためであった。さらに言えば、青前さんに会うためである。昨夜、彼女から昼の十二時半にこの店に来るよう言われたのだ。
あの日、アマメが私を助けに現れたのは青前さんに頼まれたかららしい。何やら胸騒ぎを覚えた彼女が私のことを探しているうち、かしらなしに跨ってそこら辺をふらついているアマメに出会ったのだとか。
アマメという助っ人を得た青前さんが次に出会ったのが郡司氏であった。鬼鹿毛に乗って走り去る私の背中にただならぬものを感じた彼が、平林寺から急いで出てきたところで、青前さんとアマメのふたりに遭遇したらしい。
郡司氏から私の話を聞いた青前さんは、鬼鹿毛が走った方へかしらなしを走らせた。そこで最後に出会ったのが鬼鹿毛である。
青前さんが犬、雉、猿など目ではないほど心強いお供を得てからの話は、あの日起きた出来事の通りだ。
青前さんを助けるために動いていたはずの私が、最終的には彼女の行動に命を救われた。つくづく格好がつかないが、これも私らしいといえば私らしい。
アンリに着くと、エプロンを身に着けた青前さんがひとり、店内にいた。店の外から私が手を振ると、彼女は「早く来て」と言いたげに、カウンターの向こうからこちらへ手招きした。
扉を開けて店内に入ると、彼女は黙ってコーヒーを淹れ始めた。私は彼女の前の席に座り、カップにコーヒーが注がれる様を黙って見ていた。
青前さんを見ているだけで、私は非常にどきどきする。そのどきどきがこれまでで一番強いのは、きっと私が彼女に期待をしているからだろう。
というのも私は、あの日の告白の返事をまだ彼女から頂いていない。今日、私を呼び出したのは、きっと彼女が返事をする決心をしてくれたからに違いない。誰もいない店内を見たせいで、そんな私の期待はますます膨れ上がり、もはや破裂寸前のハリセンボンである。
黒い液体が注がれたカップを私の前に差し出した青前さんは、私の目を見ながら口を開いた。薄い唇が言葉を紡ごうとする様が、私にはスローモーションのように映った。
「ナリヒラくん。あたし、色々考えたんだけどさ」
「はい」
「この前の告白の返事、君の誕生日までお預けにしておこうかと思って」
「……はい?」
「だって君、この前、あたしとの約束破りそうになったでしょ? だからそのオシオキってことで」
「そんな殺生な。いったいどれだけ僕の寿命を縮めるつもりですか?」
「あれ、ナリヒラくん。いったい、いつから〝僕〟に戻ったわけ?」
青前さんはいたずらっぽく笑い、「いつもみたいに私って言ってオトナぶりなよ」と言いながら私の頭を小突いた。彼女に勧められるままに、私は黙ってコーヒーを飲む。それはいつもより少しだけ苦い味がした。
私が生きている間はもちろん、私がこの世からいなくなってからも、きっとこの地球が終わるまで。新座は空にあり続けることだろう。
「それだけ長く続くように」なんて贅沢なことは言わない。しかしせめて八十年くらいは、この今のような幸せが私達の間で続きますようにと、私はこっそり願ってみたりした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる