27 / 38
第10章
(26)就活惨敗女子
しおりを挟む
【手塚 美空の場合】
雨宮くんの舞台を観劇後。
イタリアンのお店で美味しいパスタとピザを真田先生にご馳走になり、私は今、雨宮くんと二人だけでカフェに向かって歩いていた。
『俺は用事があるから、お前たち二人で、デザートとか食べに行ったらどうだ! 二人で!』
真田先生はそう言うと、笑顔で手を振り帰って行った。
「先生、気を利かせてくれたのかな」
聞こえた声に雨宮くんの方を見ると、「あ、ううん。行こっか」と、誤魔化すように歩き出した。
二人でカフェに向かいつつ、私はずっと気になっていた小町おばあちゃんの息子の話をする。
「雨宮くんは、日比野 初音さんの様子をどう思った?」
彼の先輩である真島さんと一緒に舞台を観に来ていた日比野さんは、小町おばあちゃんの息子の名前を出した途端に顔色が一変した。
「多分。名前に心当たりがあるんじゃないかな」
「やっぱりそう思うよね」
「きっと真田先生も、真島先輩も、あの場にいた皆がそう感じたと思うよ」
動揺が伝わる程、顔から血の気が引いていた。
そんな彼女を無理に引き止める事など出来ず、あの場は見送ったけれど、やはり小町おばあちゃんの事を思うと確かめたいという思いが強くなる。
「でも俺は、大丈夫だと思うよ」
「え?」
雨宮くんの言葉に、私はうつむいていた顔を上げた。
「真島先輩が、話を聞いてくれると思う。あの人、時間を掛けて人の言葉を待てる人だから」
「そうなんだ。真島さんって、雨宮くんの恩人なんだよね?」
「まぁ……一応ね」
一応などと答えつつも、雨宮くんから聞く真島さんの話には、信頼が込められているような気がする。
『お前は絶対、才能あるからな』
雨宮くんにそう言い続けてくれた人であり、この道に進むきっかけをくれた人だと話していた。
「俺さ。劇団の中で結構浮いてたんだよね。でも、周りがどうとか気にするタイプじゃないし。とにかく芝居をする事が楽しくて、演じるって事だけに夢中になってたんだ」
高校の頃の雨宮くんは、何をするにも面倒臭そうな印象だったように思う。本当に打ち込めるものに出会うと、人はこんなに変わるのかと再会した日に彼の目を見て驚いた事を思い出した。
「周りの人の事は、逆に失礼な言い方になるくらい、どうでも良かったんだ。でも……」
そこで言葉を区切り、雨宮くんが小さく笑う。
「真島先輩がさ。泣きながら、頭下げてきたんだよ。後輩の俺に」
「泣きながら?」
「うん。お前の才能に嫉妬して距離を置いたりしてごめんって必死に謝られて……。みんなもそれで、俺と距離を置いてしまってるだけで、お前は何も悪くないから、これから自分が周りを全員説得するって言うんだよ。俺びっくりして、別にいいっすよって言ったんだけど」
その時の、驚きつつもクールな雨宮くんと、号泣している真島さんの姿が目に浮かぶ。
「なのに真島先輩、本当に全員と話をしててさ。少しずつ、少しずつ、他の人の俺への態度も変わっていったんだ。そしたら、そんなの別にどうでもいいとか思ってたくせに、なんか……なんかちょっと、嬉しいかもとか……そんな風に思い始めた自分がいて」
照れたように、雨宮くんが髪を掻く。
「まぁ、話を戻すとさ……。真島先輩は、そういう行動がとれる人だから、日比野さんが苦しくならない速度で、ちゃんと話を聞いてくれると思う」
「そっか。真島さんが劇団にいて良かった。雨宮くんの味方で、良かった。日比野さんの事も、真島さんに任せて待つ事にする」
「うん。頼っていいと思うよ。あの人ノリ軽いし、できる男って雰囲気はゼロなんだけど……。それでもなんか、凄い人なんだよね。俺の中では」
そう言って雨宮くんが笑う。
先輩に対する言葉としては失礼な表現もあるけれど、それでもその言葉が、彼にとっての真島さんへの信頼の証であると充分に伝わった。
「そう言えば……、手塚さんの言ってるカフェって、この住宅街の方でよかったっけ?」
私の要望で、抹茶メインの和スイーツの店に一緒に向かっている。
「うん。隠れ家って感じのお店で、住宅街の中にあって、大きな看板とかは出て無いの」
スマホに表示された地図を見せると、「なるほど、そこの角を曲がるみたいだね」と、雨宮くんもそれを眺め現在地と照らし合わせる。
そして曲がり角を曲がると、ひどく焦った様子で走る黒猫が、逃げるようにこちらへ向かって来るのが見えた。
「え? ラッキーキャットさん?」
「本当だ!」
隠れる場所を探すようにキョロキョロしながら、黒猫が私達の方へと近付いてくる。更に少し離れた場所からは子供達の声が響き、数人の走る足音が黒猫の後を追うように迫ってくるのが聞こえた。
「ママが言ってたラッキーな奴だよ!」
「捕まえて連れて帰ろうぜ!」
そんな子供達の声に、状況を理解した私と雨宮くんが顔を見合わせる。
「ラッキーキャットさん! 良かったらここに隠れます?」
雨宮くんが背負っていたリュックを肩から下ろしてジッパーを開けて見せると、黒猫はジャンプしてその中にすっぽりと身を隠した。
「あれ~? 猫、どこ行った?」
「あっちに曲がったのかも!」
「行ってみようぜ!」
子供達が一斉に走り去っていく。
私がそっとリュックの中を覗き込むと、走り疲れたのか丸まって一息ついていた。
「雨宮くんのリュックの中で、ウトウトしてるよ」
「じゃあ、しばらくはこのままでいっか」
黒猫を背負ったまま、雨宮くんと私はカフェへ向かって歩き出す。
「お店の前で出してあげようか」
「うん。子供達も遠ざかって行ったし、その辺りだと安全かも」
「それにしてもさ。自分の鞄にラッキーキャットがいるとか、すごいレアなんだけど」
「ふふっ、激レアだね」
二人で顔を見合わせて笑う。
「そう言えば手塚さん、就活は上手くいってる?」
「それが、まだ決まってないんだ。でも最近はね。今までより、ちょっと前向きな気持ちでやってるよ」
「なんか気持ちに変化があったの?」
「うん。雨宮くんのおかげかな」
「俺?」
驚いたようにこちらを向いた雨宮くんを見て、私は大きく頷いた。
生き生きと好きな事に打ち込んでいる。そんな彼を見ていると、自分もこんな風でありたいと強く考えるようになっていた。
雨宮くんに『頑張って』と励ましのメッセージを送る度に、自分も頑張ろうと勇気が湧く。
そして私は改めて、自分が本当に好きなものは何だろうと、自分自身と向き合って考えてみたのだ。
ずっと、自分には叶えたい夢などないと思っていた。
けれど、ふと小学生の頃にノートを千切って作った絵本の事を思い出した。
いつの間に忘れてしまったのだろう。
ワクワクしながら絵を描いていた、幼い日の自分を……。
私は早速、ノートに絵を描いてみる事にした。しかし、ヘタクソな絵が増えるばかりで笑ってしまう。
「それでもワクワクしたの」
まだ幼かった自分が感じたものと同じ熱が、強い鼓動となり今の私の胸を打った。
「毎日ね。ラクガキばっかり増えていくの。でも、すごく楽しい。もちろん並行して就活も続けてるよ。面接は相変わらず惨敗だけど、今までより気合いを入れて挑めてると思うんだ」
雨宮くんに再会する以前と今で、私の現在地は何も変わっていない。
それでも、心の在り方だけは随分と変わる事ができたのではないかと思えた。
「いつも、私は駄目だって思いながら行動してた。でも今は『私は自分が望む場所に行ける』そう思いながら行動するようになった。……雨宮くんの影響だよ」
そう言って雨宮くんを見つめると、くしゃりと目を細め嬉しそうに破顔した彼と視線が重なった。
こんな風に、笑う人だったんだ。
高校の頃には見た事がなかった表情に、私の中で育ち始めた淡い想いが確信へと変わっていく。
「俺もまだ夢の途中だし、一緒に、頑張ろうね」
「うん!」
自分の中で友情と恋の中間地点を指していた心の針が、ゆっくりと一定方向へ傾き、今はっきりと恋の文字を示したような気がする。
雨宮くんは、好きな人がいるのだろうか。
それとも美空が知らないだけで、彼女がいるのかもしれない。この前の舞台で、きっとファンも増えたはずだ。
恋心を自覚した途端に、色んな事が不安になった。
「手塚さん」
「え?」
「あのさ、俺……。あー、えっと……。あ、カフェ、もうすぐ着くね」
「え? あ、うん。そうだね」
何か言おうとした雨宮くんが言葉を飲み込んだような気がしたけれど、それを上手く聞き返す事が出来ずに、私もそっと気持ちを飲み込んだ。途端に、二人の間をぎこちない沈黙が通り過ぎて行く。
その時、雨宮くんの少しだけ開いたリュックの中から、黒猫が「くあ~」と欠伸をしながらひょっこりと顔を出した。その弾みで、背負っている雨宮くんの身体が私の方へと傾いて、隣を歩く互いの手と手が触れ合った。
瞬間、雨宮くんの手が私の手を握り締める。
「俺、手塚さんが好きだよ」
「え?」
「俺と、付き合って下さい」
「はい。私も、雨宮くんが好きです」
絡み合う視線のど真ん中で、黒猫がまるでその空気を察したかのように、急いでまたリュックの中へと身を潜めるのが見えて、私は雨宮くんと一緒に声を出して笑ったのだった。
雨宮くんの舞台を観劇後。
イタリアンのお店で美味しいパスタとピザを真田先生にご馳走になり、私は今、雨宮くんと二人だけでカフェに向かって歩いていた。
『俺は用事があるから、お前たち二人で、デザートとか食べに行ったらどうだ! 二人で!』
真田先生はそう言うと、笑顔で手を振り帰って行った。
「先生、気を利かせてくれたのかな」
聞こえた声に雨宮くんの方を見ると、「あ、ううん。行こっか」と、誤魔化すように歩き出した。
二人でカフェに向かいつつ、私はずっと気になっていた小町おばあちゃんの息子の話をする。
「雨宮くんは、日比野 初音さんの様子をどう思った?」
彼の先輩である真島さんと一緒に舞台を観に来ていた日比野さんは、小町おばあちゃんの息子の名前を出した途端に顔色が一変した。
「多分。名前に心当たりがあるんじゃないかな」
「やっぱりそう思うよね」
「きっと真田先生も、真島先輩も、あの場にいた皆がそう感じたと思うよ」
動揺が伝わる程、顔から血の気が引いていた。
そんな彼女を無理に引き止める事など出来ず、あの場は見送ったけれど、やはり小町おばあちゃんの事を思うと確かめたいという思いが強くなる。
「でも俺は、大丈夫だと思うよ」
「え?」
雨宮くんの言葉に、私はうつむいていた顔を上げた。
「真島先輩が、話を聞いてくれると思う。あの人、時間を掛けて人の言葉を待てる人だから」
「そうなんだ。真島さんって、雨宮くんの恩人なんだよね?」
「まぁ……一応ね」
一応などと答えつつも、雨宮くんから聞く真島さんの話には、信頼が込められているような気がする。
『お前は絶対、才能あるからな』
雨宮くんにそう言い続けてくれた人であり、この道に進むきっかけをくれた人だと話していた。
「俺さ。劇団の中で結構浮いてたんだよね。でも、周りがどうとか気にするタイプじゃないし。とにかく芝居をする事が楽しくて、演じるって事だけに夢中になってたんだ」
高校の頃の雨宮くんは、何をするにも面倒臭そうな印象だったように思う。本当に打ち込めるものに出会うと、人はこんなに変わるのかと再会した日に彼の目を見て驚いた事を思い出した。
「周りの人の事は、逆に失礼な言い方になるくらい、どうでも良かったんだ。でも……」
そこで言葉を区切り、雨宮くんが小さく笑う。
「真島先輩がさ。泣きながら、頭下げてきたんだよ。後輩の俺に」
「泣きながら?」
「うん。お前の才能に嫉妬して距離を置いたりしてごめんって必死に謝られて……。みんなもそれで、俺と距離を置いてしまってるだけで、お前は何も悪くないから、これから自分が周りを全員説得するって言うんだよ。俺びっくりして、別にいいっすよって言ったんだけど」
その時の、驚きつつもクールな雨宮くんと、号泣している真島さんの姿が目に浮かぶ。
「なのに真島先輩、本当に全員と話をしててさ。少しずつ、少しずつ、他の人の俺への態度も変わっていったんだ。そしたら、そんなの別にどうでもいいとか思ってたくせに、なんか……なんかちょっと、嬉しいかもとか……そんな風に思い始めた自分がいて」
照れたように、雨宮くんが髪を掻く。
「まぁ、話を戻すとさ……。真島先輩は、そういう行動がとれる人だから、日比野さんが苦しくならない速度で、ちゃんと話を聞いてくれると思う」
「そっか。真島さんが劇団にいて良かった。雨宮くんの味方で、良かった。日比野さんの事も、真島さんに任せて待つ事にする」
「うん。頼っていいと思うよ。あの人ノリ軽いし、できる男って雰囲気はゼロなんだけど……。それでもなんか、凄い人なんだよね。俺の中では」
そう言って雨宮くんが笑う。
先輩に対する言葉としては失礼な表現もあるけれど、それでもその言葉が、彼にとっての真島さんへの信頼の証であると充分に伝わった。
「そう言えば……、手塚さんの言ってるカフェって、この住宅街の方でよかったっけ?」
私の要望で、抹茶メインの和スイーツの店に一緒に向かっている。
「うん。隠れ家って感じのお店で、住宅街の中にあって、大きな看板とかは出て無いの」
スマホに表示された地図を見せると、「なるほど、そこの角を曲がるみたいだね」と、雨宮くんもそれを眺め現在地と照らし合わせる。
そして曲がり角を曲がると、ひどく焦った様子で走る黒猫が、逃げるようにこちらへ向かって来るのが見えた。
「え? ラッキーキャットさん?」
「本当だ!」
隠れる場所を探すようにキョロキョロしながら、黒猫が私達の方へと近付いてくる。更に少し離れた場所からは子供達の声が響き、数人の走る足音が黒猫の後を追うように迫ってくるのが聞こえた。
「ママが言ってたラッキーな奴だよ!」
「捕まえて連れて帰ろうぜ!」
そんな子供達の声に、状況を理解した私と雨宮くんが顔を見合わせる。
「ラッキーキャットさん! 良かったらここに隠れます?」
雨宮くんが背負っていたリュックを肩から下ろしてジッパーを開けて見せると、黒猫はジャンプしてその中にすっぽりと身を隠した。
「あれ~? 猫、どこ行った?」
「あっちに曲がったのかも!」
「行ってみようぜ!」
子供達が一斉に走り去っていく。
私がそっとリュックの中を覗き込むと、走り疲れたのか丸まって一息ついていた。
「雨宮くんのリュックの中で、ウトウトしてるよ」
「じゃあ、しばらくはこのままでいっか」
黒猫を背負ったまま、雨宮くんと私はカフェへ向かって歩き出す。
「お店の前で出してあげようか」
「うん。子供達も遠ざかって行ったし、その辺りだと安全かも」
「それにしてもさ。自分の鞄にラッキーキャットがいるとか、すごいレアなんだけど」
「ふふっ、激レアだね」
二人で顔を見合わせて笑う。
「そう言えば手塚さん、就活は上手くいってる?」
「それが、まだ決まってないんだ。でも最近はね。今までより、ちょっと前向きな気持ちでやってるよ」
「なんか気持ちに変化があったの?」
「うん。雨宮くんのおかげかな」
「俺?」
驚いたようにこちらを向いた雨宮くんを見て、私は大きく頷いた。
生き生きと好きな事に打ち込んでいる。そんな彼を見ていると、自分もこんな風でありたいと強く考えるようになっていた。
雨宮くんに『頑張って』と励ましのメッセージを送る度に、自分も頑張ろうと勇気が湧く。
そして私は改めて、自分が本当に好きなものは何だろうと、自分自身と向き合って考えてみたのだ。
ずっと、自分には叶えたい夢などないと思っていた。
けれど、ふと小学生の頃にノートを千切って作った絵本の事を思い出した。
いつの間に忘れてしまったのだろう。
ワクワクしながら絵を描いていた、幼い日の自分を……。
私は早速、ノートに絵を描いてみる事にした。しかし、ヘタクソな絵が増えるばかりで笑ってしまう。
「それでもワクワクしたの」
まだ幼かった自分が感じたものと同じ熱が、強い鼓動となり今の私の胸を打った。
「毎日ね。ラクガキばっかり増えていくの。でも、すごく楽しい。もちろん並行して就活も続けてるよ。面接は相変わらず惨敗だけど、今までより気合いを入れて挑めてると思うんだ」
雨宮くんに再会する以前と今で、私の現在地は何も変わっていない。
それでも、心の在り方だけは随分と変わる事ができたのではないかと思えた。
「いつも、私は駄目だって思いながら行動してた。でも今は『私は自分が望む場所に行ける』そう思いながら行動するようになった。……雨宮くんの影響だよ」
そう言って雨宮くんを見つめると、くしゃりと目を細め嬉しそうに破顔した彼と視線が重なった。
こんな風に、笑う人だったんだ。
高校の頃には見た事がなかった表情に、私の中で育ち始めた淡い想いが確信へと変わっていく。
「俺もまだ夢の途中だし、一緒に、頑張ろうね」
「うん!」
自分の中で友情と恋の中間地点を指していた心の針が、ゆっくりと一定方向へ傾き、今はっきりと恋の文字を示したような気がする。
雨宮くんは、好きな人がいるのだろうか。
それとも美空が知らないだけで、彼女がいるのかもしれない。この前の舞台で、きっとファンも増えたはずだ。
恋心を自覚した途端に、色んな事が不安になった。
「手塚さん」
「え?」
「あのさ、俺……。あー、えっと……。あ、カフェ、もうすぐ着くね」
「え? あ、うん。そうだね」
何か言おうとした雨宮くんが言葉を飲み込んだような気がしたけれど、それを上手く聞き返す事が出来ずに、私もそっと気持ちを飲み込んだ。途端に、二人の間をぎこちない沈黙が通り過ぎて行く。
その時、雨宮くんの少しだけ開いたリュックの中から、黒猫が「くあ~」と欠伸をしながらひょっこりと顔を出した。その弾みで、背負っている雨宮くんの身体が私の方へと傾いて、隣を歩く互いの手と手が触れ合った。
瞬間、雨宮くんの手が私の手を握り締める。
「俺、手塚さんが好きだよ」
「え?」
「俺と、付き合って下さい」
「はい。私も、雨宮くんが好きです」
絡み合う視線のど真ん中で、黒猫がまるでその空気を察したかのように、急いでまたリュックの中へと身を潜めるのが見えて、私は雨宮くんと一緒に声を出して笑ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる