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2章 ネイデルマーク城
13、第一王子はベールに包まれて
「この見た目に不備はあったと思うか?」
永遠かと思えた長い長い廊下は金色で縁取られた鏡のような仕様でできており、横を向けば自分の姿が目に入った。
赤みがかった深いブラウンの長い髪の毛は背中でひとつにくくり、ルイが準備をしてくれたの衣装を身に着け、まさにその姿は街にいたときにこっそり男性と偽り、戦い続けた『月光のエクテス』の姿そのものだった。
街にいた時も気づかれることはなかったし、今日も気づかれるとは思っていなかった。
「あの王子に、会ったことがあっただろうか」
腹黒極悪王子にすぐに見抜かれてしまったため、いささか不服な気持ちが拭えずにいた。
「ヘイデンは観察眼が優れているからね。普通なら気づけないことも彼の眼には映って見えているようだ。と、まぁ、実の弟とはいえ、わたしにとっても彼についてはわからないことは多い」
「……そうか」
ひとり、またひとりと妖精が腹黒極悪王子の周りを囲うように飛んでいる。
心を失ったお姫様の婚約者で、加えて彼女が思いを寄せる相手……と印象にあるが、どうも腹のうちはつかめない男だ。
「大丈夫。何かあったらわたしたちがいるから」
なおも気になる言葉だけを残し、ルイが扉を開けてくれる。
今までで一番しっかりした装飾が施され、明らかに良い身分の人間が滞在しているであろうことは容易に想像ができた。
が、先に見える階段を目にして、まだ続くのか、と途方に暮れる。
階段を登り始めたからは辺りの様子が一気に変わり始めた。
どんどん薄暗くなっている。
豪勢に飾り付けられた装飾もなければ、花も備え付けられていない。
ただ見えるのは色のない……どちらかといえば陰気な雰囲気が漂った廊下が続いているだけだ。
奥の方に護衛が立っている姿が見え、まさかここに第一王子がいるのか?と言葉を失う。……いや、もうすでに話す気力さえなくなっているが。
顔色を変えずに入室するルイに続く。
絶対にあたしに関しては必要ないと思っていたルイのハンカチを念のため握りしめ、一歩を踏み出す。
怖いというよりも、嫌な予感しかしなくなり、何かあったら即座に逃げてやろうとさえ思えた。
室内にはすでに入室していた王子ふたりが座っていて、その前に先ほどの青年(少年?)が立っている。
「兄上、ルイスです。新しい護衛のエクテスをお連れしています」
笑みを浮かべ、声をかけた先には絹のレースがかかっていた。
その向こうに誰か座っているのが見える。
「大丈夫だから」
とだけ、ルイがささやき、前に出たとき、まだ言うか!と思ったが、レースのむこうの主が声を出したとき、その意味がわかった気がした。
「ルイス、おまえの他の護衛たちは?」
ぞくっとした。
身が溶けるかと思えるほど甘い声だった。
「我が近衛団たちは視察の護衛として現在は城を離れております」
「あと半年後に、どこかの街で魔王の被害が出るとおまえはまだそんなことを思っているのか」
ただ甘いだけではない。
体が芯から痺れるように響いてくる。
「特徴はわかっております。必ずや見つけ出し、万全の状態でそのときに臨む所存でございます」
こちらを気遣うように視線を残しながら言葉を選び、話し続けるルイの心配がようやくわかった気がした。
こんな声を聞き続けていたら、腰が抜けるか、もしくはそれこそ魂ごとごっそり抜かれてしまうのではないかと思えるほどこの場にいるだけでじわじわと少しずつ蝕むように圧倒されるこの目に見えない感覚から逃れることができなかった。
永遠かと思えた長い長い廊下は金色で縁取られた鏡のような仕様でできており、横を向けば自分の姿が目に入った。
赤みがかった深いブラウンの長い髪の毛は背中でひとつにくくり、ルイが準備をしてくれたの衣装を身に着け、まさにその姿は街にいたときにこっそり男性と偽り、戦い続けた『月光のエクテス』の姿そのものだった。
街にいた時も気づかれることはなかったし、今日も気づかれるとは思っていなかった。
「あの王子に、会ったことがあっただろうか」
腹黒極悪王子にすぐに見抜かれてしまったため、いささか不服な気持ちが拭えずにいた。
「ヘイデンは観察眼が優れているからね。普通なら気づけないことも彼の眼には映って見えているようだ。と、まぁ、実の弟とはいえ、わたしにとっても彼についてはわからないことは多い」
「……そうか」
ひとり、またひとりと妖精が腹黒極悪王子の周りを囲うように飛んでいる。
心を失ったお姫様の婚約者で、加えて彼女が思いを寄せる相手……と印象にあるが、どうも腹のうちはつかめない男だ。
「大丈夫。何かあったらわたしたちがいるから」
なおも気になる言葉だけを残し、ルイが扉を開けてくれる。
今までで一番しっかりした装飾が施され、明らかに良い身分の人間が滞在しているであろうことは容易に想像ができた。
が、先に見える階段を目にして、まだ続くのか、と途方に暮れる。
階段を登り始めたからは辺りの様子が一気に変わり始めた。
どんどん薄暗くなっている。
豪勢に飾り付けられた装飾もなければ、花も備え付けられていない。
ただ見えるのは色のない……どちらかといえば陰気な雰囲気が漂った廊下が続いているだけだ。
奥の方に護衛が立っている姿が見え、まさかここに第一王子がいるのか?と言葉を失う。……いや、もうすでに話す気力さえなくなっているが。
顔色を変えずに入室するルイに続く。
絶対にあたしに関しては必要ないと思っていたルイのハンカチを念のため握りしめ、一歩を踏み出す。
怖いというよりも、嫌な予感しかしなくなり、何かあったら即座に逃げてやろうとさえ思えた。
室内にはすでに入室していた王子ふたりが座っていて、その前に先ほどの青年(少年?)が立っている。
「兄上、ルイスです。新しい護衛のエクテスをお連れしています」
笑みを浮かべ、声をかけた先には絹のレースがかかっていた。
その向こうに誰か座っているのが見える。
「大丈夫だから」
とだけ、ルイがささやき、前に出たとき、まだ言うか!と思ったが、レースのむこうの主が声を出したとき、その意味がわかった気がした。
「ルイス、おまえの他の護衛たちは?」
ぞくっとした。
身が溶けるかと思えるほど甘い声だった。
「我が近衛団たちは視察の護衛として現在は城を離れております」
「あと半年後に、どこかの街で魔王の被害が出るとおまえはまだそんなことを思っているのか」
ただ甘いだけではない。
体が芯から痺れるように響いてくる。
「特徴はわかっております。必ずや見つけ出し、万全の状態でそのときに臨む所存でございます」
こちらを気遣うように視線を残しながら言葉を選び、話し続けるルイの心配がようやくわかった気がした。
こんな声を聞き続けていたら、腰が抜けるか、もしくはそれこそ魂ごとごっそり抜かれてしまうのではないかと思えるほどこの場にいるだけでじわじわと少しずつ蝕むように圧倒されるこの目に見えない感覚から逃れることができなかった。
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