引きこもり魔女に恋をした騎士の徒然なる日々の物語 〜魔女の呪いを解く魔法〜

保桜さやか

文字の大きさ
6 / 13
監視の騎士と囚われの魔女

5、ジャドール

しおりを挟む
「あっ、いえ、あの……」

 ずいぶん前に聞いた母の教えだった。

 呪文のように何度も何度も聞いた。

 大切な人ができたら……いや、

「ジャドールと申します」

 ここまで間抜けな言い訳があるかと頭を抱えたくなるほどの言葉がとっさに飛び出してきた。

「俺の名前です」

 だけど、いきなり好きだと告げてくるおかしな男だとこの人を怖がらせたくなかった。

「………」

 彼女は一瞬口を開きかけたようだったが、すぐにはっとしてへの字を作る。

「魔女様」

 話題はない。

 もともと話題が多いタイプでもなく、今までだって黙々と騎士になるため練習を重ねる日々を送った俺は、女の子に対して何と言ったら良いのかもよくわからない。それでも、

「これからよろしくお願いします」

 自然と笑みが漏れた。

 会いたかったから。

 この人にずっと、会いたかったからだ。

 大きな灰色の瞳が見開かれ、俺を映す。

 彼女はかつて、この世で最も馬鹿な王子のせいで国外追放を言い渡された。

 国外追放と言われたが、実際は呪われた森の中に閉じ込められることになったと聞く。

 その場を選んだのも解けない魔術で彼女をしばったのも彼女の祖母で、彼女もまた偉大な魔女と言われていた。

 すべては、王子に手をかけてしまった孫娘を守るためだったのだろうと今ならわかる。

 幼い頃から彼女のことは知っている。

 いつもいつも、遠くから見ていた。

 花のように笑い、歌うように話し、王子や騎士、城にいる人間たちを笑顔に変えていた。

 近くて、遠い。

 遠い遠い存在だった。

 俺は、ずっと彼女のことを……

「騎士の滞在場所を教えていただけますか?」

 橋の向こうに置いてきた荷物を運びたいのだと告げると、ぽかんとした様子で彼女がこちらを見ている。

 震えは止まっているようで安心した。

「庭ですか? それともあなたと同じこちらに……」

「!!」

 ぴょこっと音がしたような気がする。

 慌てて立ち上がる彼女に言葉を遮られた俺は、今度は驚いてその挙動不審な動きを見守ることになる。

 こっちに来いということだろうか。

 絡まった黒髪を背に垂らし、ちょこまかと移動し始める彼女の様子を眺め、そのあとを追う。

 奥に進んだところに渡り廊下があり、ちらちらと振り返りながら彼女は足を進める。

「か、可愛い……」

 不審者でしかないと思いつつも、堪えきれなかったものは仕方がない。

 無意識にもその言葉が漏れていた。
 
『呪われた森の恐ろしい魔女』

 その話は何度も何度も聞いていた。

 何度も何度も。

 小さな後ろ姿に恐怖なんて感じられなかった。

 むしろ、こんなところでこの人がひとりで生きてきたのかと思うと胸が痛かった。

「魔女様」

 呪いなんて、かけられるものならかけてみればいい。喜んでかかってやる。

(守ってあげたい)

 この想いが作られたものであっても、あの日の俺はそう思ったのだ。

 この人を苦しめる全てのものからこの人を守り、この人をもう一度笑わせたい。

「あなたを守ります」

 ああ、やっと言える。

「これからは、俺があなたを守りますから」

 振り返った彼女は困惑した表情でこちらを見て、逃げるように立ち去って行った。

 こうして自分でも引いてしまう形で魔女様と共に生きていくことになる。

 今までとは違う毎日が始まる。

 残念ながら彼女とようやく言葉を交わせるようになったのは、季節がひとつ過ぎた頃だったけど、俺はそれでも満足だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...