結末のないモブキャラは仕方がないので自身の恋物語に終止符を打つことにしました

保桜さやか

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4、名もなき乙女に訪れたチャンス

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「おはよう、アイリーン」

「お、おはようございます」

 少しでも迅速かつ丁寧な仕上がりにと躍起になって手を動かしているところに、ご近所のステーシアさんが現れる。

「いらっしゃいませ」

 彼女はきっといつものように店内に誰かいるのか確認してから入店してきたであろうのに周りが見えていなかった。

 慌てて姿勢を整えて、笑顔を作る。

 いけないいけない。

 店番もわたしの大切なお仕事のひとつだ。

 できることをまずしっかりと、だ。

「あら、今日も素敵な髪飾りね、アイリーン」

 ふくよかな体型でゆったり笑みを見せるステーシアさんは今日も変わらずまず素敵な言葉を送ってくれる。

「あ、ありがとうございます」

 まとめてもすぐに定位置に戻ってしまうわがままボブヘアーにはいつも手を焼いており、諦めて業務時間は少し派手目のスカーフを巻き付けている。

 残念ながら美人だと名高い姉さんたちとは全く似つかず、どちらかといえば平均的で平凡な容姿のわたしは少しでもお店が映えるようにと華やかさを意識している。

 それがこの唯一のお洒落(のつもり)であるスカーフだった。

 色合いは一応自分で染めている。

 だから褒められれば嬉しいものの、あまりじっくり見られることは避けたい。

「あのね、アイリーン」

「はい」

 どんな衣装の仕立てだろうか。

 収穫祭を意識したものならいささか遅い気もする。

「今日はお願いがあってきたのよ」

「は、はい……」

 人の出入りが一番少ない朝の時間にやってきたということは、やはり何か無茶な難題が……

「今年の舞姫のひとりに加わってほしいの」

 姉さんたちやお店の予定を確認するため、スケジュール帳を開きながらメモを取る準備を始めたわたしは、全く予期していなかった言葉ひとつひとつに思わずスケジュール帳を落としてしまう。

 ぱん、と足元に転がるペンをゆっくり眺めながら、頭の中を整理する。

「はい?」

 ま、舞姫と聞こえた気がしたのだけど……

「実はね、今年参加する予定だったシャイアが足を怪我してしまって、どうしても舞えそうにないということで、急遽代理は誰にしようかというお話になって、それでぜひあなたにという声が出たのよ」

「えっ? いえいえいえいえ、ちょ、ちょっと待ってください!!」

 正気なのだろうか。

「人違いではないでしょうか?」

 どう考えてもわたしではないだろう。

 ああいうのは可愛くて街でも人望が厚い人間たちが選ばれるものであって、間違ってもわたしの出る幕はない。

 誰よりも不向きなのは自負している。

「いえ、あなたよ、アイリーン」

 一向に引く様子もないステーシアさんに目眩を覚える。

「あなたは今年で十五歳だもの。舞姫になる資格は十分にあるわ」

 ね、年齢上は……の話である。

「ちょ、ちょっと待ってください……む、無理です、わたし……」

 必死に抗議をする。

 ここで引いたら最後よ。

「あら、当日になにか素敵な予定でも?」

「い、いえ、そんなことはないんですけど……」

「アイリーンもお年頃だものね」

「い、いえ……」

 目を輝かせるステーシアさんに圧倒される。

 素敵な予定どころかわたしの場合、ジンクスを信じてそれを決行するため数日前から張り切る浮き足立った若者たちのような華やかな一日とは無縁のただただ代わり映えのない平凡な一日を送ることになるはずだ。

 人並みに今年の豊作に感謝すべきところはするものの、この行事は自分には関係がなさすぎていちいちジンクスさえ把握していない。

 なにより、自身の衣装だって新しく仕立てるのではなく、去年と同じものを着ようか迷っているくらいだ。

「ま、舞姫なんてとんでもないです!」

 わたしには荷が重すぎる。

「困ったわねぇ。昨晩、あなたの名前が上がった途端に満場一致で話が進んで、それでこうしてわたしがあなたに伝える役目を仰せつかったというのに……」

「ま、満場一致って……」

 そんなはずはない。

 何がおかしくてわたしの名前がその場に登場したのだろうか。

 みんなわたしのことを知っているはずだ。

「だ、誰がそんなことを……」

「テオルドよ」

「へ?」

「テオルドが絶対アイリーンが適任だと声を上げた途端、みんなが納得したと聞いたわよ」

「テ……」

 な、なんですって……

 なんてことをしてくれたのだろうか。

 テオルド・ヴランシェールは鍛冶屋の息子で、華やかな見た目と兵士顔負けの戦闘能力の高さ、そして優しくて紳士的と人に好かれるすべての要素を兼ね備えているため、人望も厚く人気の高い人間だ。

 そんな人間が提案した意見だ。

 余程の理由がない限り、その意見を覆そうとする無謀なものはそうそういないはずだ。

 なんてことをしてくれたのだろうか。

 顔からさっと血の気が引いて、もとより悪かった顔色がさらに悪くなった気がする。

「大丈夫よ。わたしたちも精一杯フォローするから」

 ステーシアさんの圧はすごい。

「……はぁ」

 全然大丈夫じゃない。

 ステーシアさんにフォローされたからといってどうこうなる問題ではない。

 とはいえ、この人の持ってきたお話に、わたしが意見することができないのもまた、悲しい事実なのである。

 憂鬱な気持ちで業務中に、しかもお客様を前にあるまじき大きなため息をつく。

「で、できる限りのことはします」

 舞姫の舞を披露するということはそこまで難しいことではない。

 街の女の子なら誰でも幼い頃から練習に練習を重ねているのだから。

 わたしも例外ではなく、音楽を聞くだけで自然と体がステップを踏みそうになる。

 ずいぶん染み付いたものだった。

 だけど、恐ろしいのは周りの目だ。

 考えただけでもぞっとする。

 ただでさえふさわしくないであろうというのに、加えてみんなの人気者である『テオルド様』の根拠もないご推挙とあればなんと言われることか……想像したくもない。

「あなたなら引き受けてくれると思っていたわ」

 ねぇ、テオ……

 お、お願いだから訂正して!!

 ゆったり微笑むステーシアさんとは裏腹に、わたしはここにはいない人物の名前を心の中で叫んでいた。
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