俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼

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不可思議な行動

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「後ろにいる!」

俺の言葉は何の価値もない、自己評価が低いからではない。
この世界での主役はきっと目の前の騎士なのかもしれない。

俺はただのガヤでしかない、それでも主役に届いたら嬉しい。

俺に背を向けて魔力を使わずに腹に一撃拳を叩き込んだ騎士を見て、そう思った。
俺の言葉を信じてくれて嬉しいけど、簡単に信じすぎて心配になる。
俺が言うのも変だけど、もう少し疑ってもいいんじゃないかな。

そう思っていたら、俺に目掛けて蹴りを入れてきてびっくりした。
俺も信じすぎたのかと、両腕を顔の前に持っていき無意味なガードをした。

足は俺には当たる事なく、後ろにいる残りの一人に当たった。
男は倒れて、俺の驚異は去った…目の前の一人を除いて…

騎士は俺を見ていて、俺は逃げ出すタイミングを逃して顔を青ざめていた。
騎士が口を開くのと同時に、何処からか声が聞こえた。

「クレイド様!」と声を上げていて金髪の騎士の名前らしかった。
一人でも強い騎士がいるのに応援が来るなんてごめんだ。
一瞬だけ、騎士の視線が仲間の方に向いたのを見逃さなかった。

あちこち痛いけど、死ぬ気でやれば何とかなると今までの経験でそう思った。
ほとんどが他人に助けられた気もしなくもないけど。

金髪の騎士の横を通りすぎて、目的地が分からないまま走り出した。
もうなにがあっても後ろを振り返らないからという硬い決意をした。

「あい………疾風!」

「うわっ!!」

何処からか俺の名前が聞こえて、足の動きが鈍った。
そのまま苔により、再び地面に尻餅を付いてジンジン痛かった。

足を捻ったみたいで、痛くてもう走れなくなった。

終わった、また暗い地下牢に閉じ込められて拷問されるのかな。
俺の後ろに金髪の騎士がいる気配がして、俺は抵抗する事を止めた。

結局同じく掴まるなら素直に従った方が少しでも痛くしないかな。

金髪の騎士が俺の耳元で唇を寄せてきてびっくりした。
横を見ると、完璧な整った顔があった…まつげ長いな…もしかしたら楠木よりも美形だったりするのかもしれない。

「俺がいいって言うまで動かず声を出さないで」

どういう意味か分からないが、騎士が敵である魔物に言わないであろう優しい声だった。
俺が理由を聞く前に、金髪の騎士が自分のマントを外して俺の頭の上に被せた。

目の前が見えなくなったが、さっきよりも足音が近いからすぐ近くにいるんだろう。
金髪の騎士は他の騎士達に地面で転がっている男達の説明をしていた。

俺が追いかけられていたのに、俺の話はしないで襲われた事だけを話していた。
騎士達は驚いていて、男達を捕まえるために動く音が聞こえた。

俺はこの足で逃げる事は出来ないから言われた通りにした。

座ってる状態でいるから、マントが人の形に見えるだろう。
騎士の一人が俺に気付いて、金髪の騎士に聞いてきた。

さすがに誤魔化せない、なんで俺を彼が助けてくれたのかは分からないがここまでか。

「クレイド様、これはいったい」

「魔獣に襲われて無惨な姿をしている、誰かに見られるのはこの人も嫌だろう、それともみたいのか?」

「い、いえいえ!ささっ、行きましょう!」

魔物を相手に戦う魔導騎士団に入っているのに、この騎士はビビリのようだ。
なるほど、俺に死体のフリをさせていたのか…一つ納得した。

騎士は早口で金髪の騎士に言っているようで、金髪の騎士がマントを掴んだ。

確かにマントを置いていったら可笑しいけど、今外されたら困る!
金髪の騎士は俺を助けてくれるのかそうじゃないのかよく分からない

何としてでもマントだけは死守しようと端を握りしめた。
しかし、マントが取られるわけではなく俺の身体をマントで包んでいた。
そのまま腰に荷物のように担がれて、何処かに運ばれていく。

俺は声を出すとか動くとかを忘れて、呆然としていた。
俺を地下牢に運ぶならわざわざ他の騎士に内緒にする理由がない。
だとすると、俺は何処に向かって担がれているんだろうか。

なにが目的なんだ?俺の頭は追い付かずにされるがままだった。

さっきの説明で、他の騎士達は疑問に思っていないようだ。
良かったのか、これからどうなるのか不安でいっぱいだ。

今どの辺か分からないけど、俺がいるからかあまり人がいない道を歩いているように感じる。
人の声が聞こえない、少し騎士同士で会話しているだけだ。

俺はただ、バレない事を祈りながら死んだフリをするだけだ。

今、何処か建物の中に入ったとか廊下かなぁとか考える。

何処かの部屋に入り、俺の身体は下ろされた。

「もう大丈夫」という声を聞いて、やっと動けるとマントを外した。
何処だここ、高そうな部屋なのは分かるが王族の部屋なのか?

俺がここにいる理由…新手の拷問かなにかなのかだろうか。
キラキラな部屋に耐えきれなくなって話すとかか?

これなら耐えられるが、もっと別の拷問のような気がする。
そもそもなんで俺はベッドの上にいるのだろうか。

考え事をしていたら、横の髪を触られてびっくりした。
後ろを振り返ると心臓がばくばくと飛び出そうだった。

鎧を脱いで、ラフな格好になった騎士がベッドに乗っていた。
金髪の騎士と鼻が触れ合いそうなほど至近距離で、小さな声を上げた。
座りながら高速で後ずさり、壁に背中をくっつけるとほとんど同時に金髪の騎士が俺の横にある壁に両手を付いた。

身体がズルズルと下に向かい、金髪の騎士が上から見下ろしていた。

無言でジッと見つめられると、嫌な冷や汗が流れる。

俺、無意識にこの人に個人的に恨まれる事をしたのかな。

「君、名前は?」

「…えっ」

「名前、フルネームで」

俺の名前を知ってどうするんだろう、指名手配に書くのかな。
さっき、「疾風」って聞こえたけどこれも空耳だったのか。
空耳が多いな、この世界で俺の名前を呼ぶ人は誰もいないのに…

名前を言って困る事は何もないからそれくらいならいいかな。
呪いを掛けるために名前が知りたいなら困ってしまうけど。

「相田疾風…です」とベッドの上の変な体勢で自己紹介した。
聞いたのは金髪の騎士の方なのに、少しの間沈黙した。

何でもいいから一言くらいなにか言ってほしいんだけど。

冷たく見られるのか笑われるのか、どんな反応をするのか分からなかった。

その結果は、俺が考えていたどちらも違っていた。

俺を見つめる優しい顔は、余計に混乱してしまう。

「あの、俺…」

「本当に、君は疾風なのか」

「そうですけど」

俺はずっと心に残る不思議な引っ掛かりを感じていた。

俺の名前を口にした彼は、誰かから俺の名前を聞いたわけではなく元々知っていると言いたげだった。
誰にも話してないから他の人から聞ける筈はなく、彼も知らない筈だ。

腕が俺に延びてきて、びっくりして強く目蓋を瞑った。
何をしてくるのか分かっている騎士団長達よりも、この人の行動が分からず戸惑う。

金髪の騎士の手は俺の頬に触れて、ゆっくりと撫でていた。
その顔は愛しい者を見るような顔に見える、俺をそういう目で見ていないのは分かるけど、どういう事なんだ?

俺が口を開くのと同時に着ているローブが突然発光した。

いろんな事が起きすぎて、びっくりしてローブを掴んだ。
金髪の騎士はプチパニックの俺とは対照的に冷静に俺を見つめていた。

ローブはより光を増した次の瞬間、光と共に消えた。
ずっと脱げなかったローブから解放されて、俺の気持ちもやっと安らげる事が出来た。

「ありがとう、脱げなくて困って…」

「………」

俺が最後まで言う前に、金髪の騎士に包み込まれるように抱き締められた。
えっと、これは…なんだろう…どちらかと言うと感極まって抱き締めるのは俺の方では?

どうしよう、この場合なにが正解なんだろう…こんな事初めてだ。

耳元から聞こえるのは、少し泣いているような声だった。

慰める方法は分からないから、頭と背中を両手で撫でた。
俺も昔母さんにされたなぁと呑気な事を考えていた。

いつもこの騎士の行動は予想が出来ず、いきなりだ。

抱き締めたと思ったら、俺から身体を少しだけ離す。
さすがに男に撫でられたら気持ち悪くて怒ってしまったのかもしれない。

「ごめんなさい!泣いてるように思って調子に乗りました!」
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