俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼

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楠木と疾風

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「………り」

「…え?」

「俺の名前、楠木悠里ゆうり

この人の名前はクレイドではなかったのか?他の騎士達が呼んでいたからそうだと思っていた。

いや、それは置いておいてこの人はなんて言った?

楠木って言った、しかも下の名前もちゃんと合っていた。

確認するように「楠木?」と口にすると、金髪の騎士は嬉しそうに微笑んでいた。

本当に楠木なのか?じゃあ生まれ変わったのか、それとも俺みたいにこの世界に呼ばれたのか。
顔が別人だから俺とは違うけど、生まれ変わりもやはり年齢が可笑しい。
いったい楠木になにが起こったんだ?目の前のこの人は本当に楠木?

頭がぐるぐると分からなくなって、気付くの遅かった。

気付いた時には、俺の唇が楠木の唇に重なっていた。
その間ほんの数秒だったんだろうが、俺の魂を抜くのには時間は掛からなかった。

頭が真っ白になる俺に楠木は心配そうに頬に触れていた。
やっと魂が戻ってきて、慌てて楠木の肩を押した。

「なっ、なんっ…なんでキス!?」

「再会の喜び?」

「楠木がしたのになんで疑問系なんだよ!」

「初めて、俺の前世を知っている人に会えたから」

楠木の言葉に少しだけ冷静を取り戻して、俺は楠木を見つめた。
顔は違うけど、中身は楠木なんだな…前世って言ってるし…

俺も、やっと一人じゃないんだって思えて楠木の嬉しさは分かる。
キスも嬉しさで少し暴走したのかもしれない、俺には理解が追い付いていないが。

とりあえず、この押し倒されているような体勢は止めたい。
楠木は肩を押す俺の手を掴んで、痛かったかもと謝った。

「謝る必要はない、俺も突然キスをしてごめん」と言いながらベッドに縫い付けるかのように俺の手をギュッと握った。
言ってる事とやってる事が真逆で、楠木がもう分からない。

「と、とりあえず一回座らないか?この体勢で話し合えないし」

「俺はこのままでも構わないけど」

「いや、さすがに男同士とはいえ襲われてるように見えるから、な?」

楠木だって、不本意な事を思われるのは嫌だと思う。
俺の知る楠木は、誰にでも優しくクラスの人気者だった。
でも楠木だって人間だ、喜怒哀楽くらい持っているのは当たり前だ。

楠木の顔を見ると、さっきの笑顔が引っ込んでいた。
冷たいわけではないが、スッと顔が無表情に変わりびっくりした。
そんなに怒ったのか?冗談だよと笑っても変わらなかった。

いくら楠木でも調子に乗った事を反省、今の楠木は俺の生死を握っている事を忘れていた。
両手が塞がっているから、軽く楠木の手を握り返す事しか出来ない。

「ごめん楠木、不快になったよな」

「なってないけど、疾風が座りたいならいいよ」

そう言って楠木は俺から離れてベッドから降りて、穏やかな声に安堵した。
上半身を起こした時に、ズキッと身体中のあちこちが痛み出した。

忘れていたのに、塞がっていない傷がまた開いた気分だ。
楠木も俺の異変に気付いて、ベッドに戻って肩を掴んできた。

「何処か痛むのか!?」

「えっ…ちょっと背中と足をやっちゃって」

「傷口を見るだけだから、ごめん」

そう楠木に言われて、ベッドに俯せの状態で押し倒された。
俺がなにか言う前に、制服のシャツを上まで上げられた。

いくら背中だけ見せているとはいえ、ちょっと恥ずかしいな。
俺からは背中がどうなっているのか分からないが、楠木が言葉に詰まっているのは分かる。

そこまで酷いのか、見たいような見たくないような複雑な気分だ。

無言になってしまった楠木に心配で小さく名前を呼んで振り返った。
その時、楠木は俺の背中に唇を寄せていて目を丸くした。

何をしているのかと見ていると、熱く濡れた舌で俺の傷口を舐めていた。
子供の頃は傷口を舐める事はあったが、さすがに鞭で打たれた傷は石をぶつけられた時よりも激痛が走った。

暴れて止めさせたかったが、肩を掴まれていて身動きが取れない。
シーツを思いっきり掴んで、耐えるしかなかった。

「いっ、つ…痛い、やめっ…うぐっ」

「……」

俺の情けない声は楠木には届く事はなかった。

まさか、唾液で治そうとか思ってる?それで治ったら医者がいらないだろ。

この世界の常識は分からないが、それだけは分かる。

病院に行けないお尋ね者の俺だから楠木が応急措置をしているのかもしれない。
そうだとしても、もっとなにかあるんじゃないのか?

目が熱くなり、痛みに耐えて涙を流して息が荒くなる。
どのくらいそうしていたのか、楠木が離れた時には全身が脱力していた。

楠木に「もう治療は終わった」と言われて、一瞬何の事か分からなかった。
治療をしていたのか、舐めていただけに見えたんだけど…

特に包帯などは巻かれていない身体を起き上がりながら見つめた。

確かにさっきはあんなに痛かったのに、もう痛みが引いていた。
背中を少し触ってみると、痛みはなくなっていた。

もしかしてこれも魔術の一つの治療法なのかもしれない、痛かったけど。

「ごめん暴れて、治してくれてありがとう」

「初めてだから戸惑うのは当然だ、足も痛いんだったよな」

そう言って、楠木に片足を掴まれて再びベッドに倒れた。
そこまでさせられない、捻った足は自然回復を待てばいいと言おうと思った。

自分の真っ赤に晴れた足首を見て、ここまで痛々しくなっていたのかと顔が青ざめた。
「楠木、足はいいから」と言っても、楠木は止めなかった。

腫れた足首に軽く口付けられて、ビクッと身体が反応した。
俺の目の前で行われているそれを見るのは耐えきれなく目を逸らした。

ゆっくり舐められて、また治療なのは分かっているが恥ずかしい。
舐めたと思ったら、軽く吸われてぞわぞわと震えた。

「んっ!?な、なに!?」

「大丈夫、治療しているだけだから」

そう言う楠木だが、軽く息が荒くなっていて顔が赤い気がする。
大丈夫なのだろうか、治療しているだけなんだよな。

足の裏に触れられて、くすぐったくて変な気分になる。

いやいや、相手は楠木だし治療をしているだけなんだって!

少女漫画のようなキラキラした人生を現在進行形で歩んでる楠木にこんな童貞みたいな反応は恥ずかしい。

中学生の頃一度だけ付き合った女の子と一回だけした事があった。
数日で別れて、それっきりだったから慣れているであろう楠木にとっては童貞と変わらないのかもな。

軽く歯を立てられて、自分でも驚くほど高い声が出た。

「あっ!」

「疾風、痛かったか?」

「いや、痛いというか…あ!もう治ってるね!ありがとう楠木!」

俺は誤魔化すように楠木から足を引いて、大丈夫だとアピールした。
変な感じになってるとか楠木に知られたらドン引きされるのは目に見えている。

男だからな、そこまで性欲が強いわけではないんだけど溜まってるのかもしれない。
反応はまだしていないから、する前に離れて良かった。
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