俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼

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治療

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足を動かすと気絶しそうなほどの痛みはなく、元に戻った。
これでスムーズに元の世界に帰る方法を探す事が出来る。

楠木はベッドの縁に座り、後ろにいる俺の方を振り返り笑みを浮かべていた。
俺とは違って、楠木は死んだんだよな…じゃあ一緒には帰れないか。

「クラスの皆、楠木に会いたがっていたんだよ…こんな事言われて困るのは分かってるけど」

「疾風は?」

「え…俺も皆と同じ気持ちだったんだ、クラスの中心的な人がいなくなると、友達でもない俺でさえ思う事はあるよ」

「……そう」

楠木はそう言って、俺に背を向けて険しい顔をしていた。
やっぱり楠木も会いたいよな、特に委員長に会いたいよな。
夏休みなんて、青春の定番だったのに…楠木に未練があっても仕方ない。

俺も完全に死んだわけではないが、楠木と似ているところがある。
違うのは、楠木は元の世界に帰る事が出来ないという事だ。

そう考えると、命を狙われているけど俺は恵まれている方だよな。

楠木に自分の事を話した、楠木と同じ場所で交通事故に遭い魔物に召喚された。
俺が魔物じゃないと知っているのは、元の世界の俺を知る楠木だけだ。
魔物と戦う騎士団だから、楠木は一瞬不機嫌な顔になったがすぐに俺の頬に触れて心配してくれた。

「その怪我は魔物にやられたのか?」

「えっ、違うよ…食べられそうになっただけだよ」

「じゃあ騎士団か、すまなかった…疾風だって分かっていたら手出しはさせなかった」

そう言った楠木は俺を引き寄せて、何度も何度も謝っていた。
地下牢にいた時は怖くて、話を聞いてくれない絶望感があった。

でも、今は楠木が聞いて信じてくれる…それだけで心に余裕が出来た。
騎士達は自分の仕事をしただけだから、気にしないでくれ。

楠木にそう言っても「疾風に痛い事をしたのは事実だから許せないな」とだんだん声が低くなっていた。
こんなに楠木って友情に熱い男だったんだな、友達ではないけど。

俺のせいで楠木と他の騎士の仲が悪くなったら嫌だな。
本当に大丈夫だからと伝えて、別の話題に変えようと思った。

「そういえば、楠木って今いくつなんだ?」

「20だけど」

「俺は18、楠木が先にこの世界に来た筈なのに年齢が合わなくないか?」

もう一つの疑問を楠木に伝えた、どう数えても楠木が年下になる事があっても年上はあり得ない。
楠木は俺が来るまで特に気にしていなかったようだ。
この世界で20年生きてきた事は確かで、生まれ変わってもう20歳だったわけではないらしい。

俺が楠木の記憶のままだったから、この世界の時間は元の世界の時間より早いと考えた。
だとすると、俺が何年経って帰る頃には一日くらいの失踪になるのか。
でも、この世界にいてしっかり時間は経過するから浦島大島のように老けて帰ってくるかもしれない。

それはいい事なのか?歳は変わらず容姿だけ変わる。

元の世界でも、俺が俺だってきっと誰も分からない。
それだけは絶対に嫌だ、早く帰る方法を探さないと…

「疾風を見て、学生の頃に戻った気分なんだ」

「俺も、容姿は違うけど楠木と会話しているって思うよ」

主役の楠木と背景人間である俺がこんなに楽しげな雰囲気で話せる日が来るなんてな。
穏やかな時間はゆっくりと確実に進んでいった。

自然と楠木にはいろいろと悩みとかを話す事が出来た。

今の俺の最大の悩みは当然元の世界に帰る事だけだ。

楠木ならこの世界の事をよく知っているから、なにか知らないかな。
魔物達の反応からして、人間が召喚されるのは珍しくない気がする。

異界人という名前を付けているから、俺以外にいてきっと帰った人もいる。
楠木に出会えた事で浮かれていて、楠木の顔の変化に気付かなかった。

「何でもいいから知らないかな」

「……さぁ、分からない」

楠木は素っ気なくそう言って、やっと不機嫌な顔になっているのに気付いた。
そうだよな、楠木はどうやっても帰れないから俺だけ帰るのはいい気分じゃないよな。

自分の事しか考えていなくて、反省して楠木に謝った。
何も口にはしなかったが、俺の頭を撫でてくれた。

楠木に頼ってばかりいてはいけない、これ以上迷惑を掛けられない。

「ごめん、今の忘れてくれ」と早口で言って、ベッドから降りようと後ろに下がった。
俺を引き止めるように、楠木が俺の手に手を重ねた。

「元の世界に帰る方法、俺も探すよ」

「えっ、本当にいいの?…でも、楠木に頼りっぱなしはやっぱりダメだから」

「だから一緒に探そう、外は危険だからここにいれば俺が守るから」

優しく包み込まれるように抱き締められて、俺のためにそこまでしてくれるなんて思わず何度も感謝した。

楠木の瞳に光が消えて微笑んでいた事を俺は知らなかった。

「俺、お尋ね者だけど迷惑じゃないか?」

「迷惑なんてそんな事あるわけない」

「楠木…」

「あ、その名前もいいけど今はクレイド・ディアハートという名前なんだ」

「生まれ変わったんだし、そうだよな…よろしくクレイドさん」

「元同級生だから、接し方は楠木のままがいい」

クレイドに言われて、なかなか頭がこんがらがりそうだと思ったが、何事も慣れだと思って頷いた。

外は自由に出入りは出来ない、外出は必ずクレイドと一緒でないといけない。
誰かが訪ねてきても決して開けてはいけない。
ほしいものは言えばクレイドがくれるから遠慮なく言え。

その三つが重要な注意事項だと言われて、俺も見つかるわけにはいかないから不満はない。
むしろ、俺を気遣っていい暮らしをさせようとしてくれていた。
そこまではしなくていいのに、俺は空気だと思ってくれたらそれで…

俺がこの部屋でクレイドのためにしてあげられるのは、部屋の掃除くらいか?
でも、周りを見渡しても上品な部屋が広がり掃除の必要がなさそうだ。

クレイドって綺麗好きっぽいし、汚部屋でクラス少女漫画のヒーローはイメージにない。

「どうした?なにかほしいものでも」

「今はまだ……あ」

周りをウロウロしながら見ていたからかクレイドに言われて、俺は早速頼む事にした。

クレイドに持ってきてもらうんじゃなくて、俺が自分で元の世界に帰れる方法を探すために本が見たい。
さすがに御使いさせるのは申し訳ない。

クレイドは少し考え込んでから「夜中なら皆寝ているから夜中に資料室に行ってみるか?」と言われて、首が取れそうなほど頷いた。

ここは城と兵舎が隣接している場所で、クレイドとザット団長のみ騎士が城に別室がある。
王族に万が一なにかがあった時にすぐに駆けつけられるように。

城がパニックになった地下での出来事がもうないとは言いきれない。
警備している騎士が魔物になるかもしれない、そうなったら兵舎にいては駆けつけるのが遅れる。

俺を匿うのも兵舎はいろんな人がいて危険だから、城の別室に連れてきてくれた。
ここならよほどの事がないと人の出入りはないみたいだ。

城の資料室なら元の世界に帰れる方法が何処かにあっても不思議ではない。
何でも知っているという事は、本で受け継がれている。

俺の勝手な想像でしかないけど、可能性がゼロではないなら試したい。

俺の顔を何人かに見られたから、ローブを脱いでも分かる人には分かる。
まだ風化するには早いからな、モブ過ぎてすぐに顔は忘れるとは思うけど。

王族は俺の事を知らないがザット団長とは会っている。
俺を見下ろすあの顔は忘れたくても忘れそうにない。

今すぐにでも行きたいが、今はまだ人が起きてる時間帯だから我慢だ。

「もうそろそろ夕飯の時間だな、取ってくるよ」

「ありがとう、俺もなにかお礼したいんだけどなにか手伝う事ある?」

「疾風の笑顔が見えるだけで嬉しいよ」
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