俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼

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雨の降る森の中

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「そこ!何をやっておる!早く座れ!」

俺と巨人が言い合いをしていたら、骸骨に骨の杖で殴られた。
容赦のない攻撃に頭を抱えて、二回目の攻撃から頭を守る。

鳥に襟を咥えられて、そのまま引っ張られて隅に座った。
『魔王になったら殴られないね!』と鳥が言っているが、無視をした。
骸骨の攻撃を避けられるようになればいいだけだ、魔王になる必要はない。

そんなになりたいなら自分でなればいいだろ、なんでそんなに魔王にさせたいんだか。

骸骨はやっと静かになったと、少年の悪魔に近付いた。
俺達なんて眼中にないのか、ずっと考え事をしている。

「どうかしたのか、帰ってからずっとそうしている」

「あの魔導騎士…」

「ん?あぁ、力は強いと感じたが騎士団長の足元にも及ばない」

「………」

魔物達は会話をしているが、遠いところにいる俺には聞こえない。
また悪巧みでもしてるんだろうな、聞く必要はない。

鳥はずっと魔王になったメリットを熱弁していた。
俺からしたら、デメリットの方が大きいのは分かってるから心に響かない。

クレイド、操られているって事にしたけど大丈夫かな。
さすがに反逆者じゃないから、傷の手当てをされて悪いようにはされていないと思う。
クレイドの地位も高いし、俺と出会う前の元の生活に戻るのはそう時間が掛からないだろう。

熱弁していた鳥が俺の顔を覗き込んで驚いて羽根を広げていた。

泣くとか本当に情けないな、クレイドともう友人には戻れないし元の世界に帰れないしで感情がぐちゃぐちゃになる。
俺はこれから、どう希望を抱いて生きていけばいいんだ。

「あの魔導騎士、魔物化していた」

「魔物化?しかし、理性のない魔物には見えなかったが」

「魔導騎士と呼ばれているが、元は我々と同じ存在…暴走状態の魔物化になれば理性のない怪物になる」

「怪物にならない魔物化など聞いた事がない」

「あの魔導騎士、少し警戒する必要がありそうだね」

骸骨と少年の悪魔の会話を聞く事なく、俺は一人で悲しい気持ちになった。
でも、やけくそで告白しなくて良かったと思う自分がいた。

ずっとこの世界にいるなら、会う事は避けられないだろう。
その時に、地獄のような気まずさを味わわなくて済んだ。

フラれるのは分かってるから、なるべく傷は浅い方がいい。

魔物達がガヤガヤと騒ぎ出して、俺は脱力感で地面に寝そべっていた。
何もやる気がない、魔王になるつもりがないからこの世界で生きる方法を探す事にした。

あそこの国は指名手配されているから、他の国で仕事でも探そうかな。

俺は人間なんだから、人として普通に暮らしたい。

鳥が啄木鳥のように、俺にくちばしをぶつけている。

そんな事をしても絶対に魔王になんかならないからな!

鳥が俺の周りに飛び回り攻防していて、やっと捕まえられた。
その時、騒がしかった洞窟内が静かになっている事に気付いた。

「見つけるのが早かったな」

「また引っ越しとか面倒なんだけど」

「そう言われてもこればかりは…」

「ようするに、ここで仕留めればいいんでしょ…この前のように泣きながら逃げ回るわけないじゃん」

少年の悪魔はニヤッと笑い、巨人が退いた洞窟の出入口に向かって歩いた。
彼に続くように、他の魔物達がぞろぞろと歩いていく。

俺は怖いから洞窟から出れずにいたが、鳥が『ここも襲撃されて僕達は生き埋めかぁ』と怖い事を言ったから、慌てて洞窟から出た。
この近くに来たのは前のようにザット団長だろうな。

ザット団長が魔物を引き止めている間に、俺はもっと遠いところに逃げよう。

そっとバレないように魔物達とは反対方向に向かった。

騒いでいる鳥を無視して歩き続けていたら、地面が激しく揺れた。
立っている事すら出来なくて、地面に尻餅を付いた。

少年の悪魔が悪巧みしてたし、激しい攻防戦をしているのかもしれない。
怖いなぁ、さっさと森を抜けようと歩みを早めた。

早く歩いているつもりなのに、目の前の景色が全く変わらない。

地面を見てみたら、俺には何の力もないのに足が浮いていた。

上を見ると、鳥が一生懸命俺の襟をくちばしで掴んで運んでいた。

鳥は来た道に戻っていき、魔物達の雄叫びが聞こえてきた。

最後まで諦めずに暴れまわっていて、頬に冷たいなにかが当たった。
まさか鳥のフンか!?と上を見ると、大粒の雨が降ってきた。

あの日を思い出す雨のにおいに抵抗するのも忘れた。

宙に浮いていた俺の足は地面に付いて、鳥は慌てて何処かに向かった。
魔物とはいえ、鳥だから羽根が濡れるのは嫌なのかもしれない。

そして俺はというと、雨を吸った地面に足を滑らせて転がった。
足に力を入れて踏ん張ってはみるが、勢いが止まらない。

身体が泥だらけになりながら、謎の段差で身体が少し浮いて身体が止まった。

そのまま崖から落ちて死ぬかと思い、ストッパーになってくれた太い木に感謝した。
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