俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼

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元の世界に

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「感謝してたら、なんなんだよ」

『君は魔王候補だったね、だったら魔王になってもらおうかな』

俺と鳥の間に冷たい空気が吹いている。

簡単に言ってくれるな、俺に魔王の素質があると思っているのか?
ただの人間が魔王になったら一晩で魔物は滅ぼされるだろう。

もし素質があるとしても、俺は魔王になるつもりはない。
なりたいと思うのは、好戦的な魔物くらいだと思う。

恩返しならもっと他の事でもいいだろ、鳥の巣を作るとか。

首を横に振って、勝手に魔王候補にされただけで魔王になる事を拒絶した。
面白半分で言っているんだろうというのは分かる、俺の人生を何だと思ってるんだ。

『どうして?魔王になれば君を食べる魔物はいなくなるし、君の思うがままになるんだよ』

「そんなのいいよ、元の世界に帰ったら関係なくなるし」

『元の世界?君、元の世界に帰ったら死ぬって言われてなかったっけ』

「魔物の話なんて信じるわけないだろ、必ず方法がある筈だ」

元の世界に帰るだけで人が死んだら、それこそ大変な事になるだろ。
安全な道は絶対にある、俺はそう信じて今まで探していた。

鳥は俺の周りを飛び回っていて、そんな事をしても揺るがない。

こんなところにずっと居ても仕方ないから、歩き始めた。

耳元で鳥がずっと話しかけてきて、無視して歩き続けた。

その時、ずっと見えていた森の木々が一気に真っ暗になった。
最後に聞いた鳥の声がだんだん聞こえづらくなる。

『じゃあ分からせるために、元の世界に返してあげる』という声と共に…






「あ、あれ…ここは」

暗かった視界が一気に明るくなったと思ったら、身体が急に冷えた。
なんでこんなところに立っているのか理解する前に、俺の視界は真っ赤に染まった。

ぶつかるまでの間、5秒も満たなくて逃げる暇がなかった。

全身が痛くて苦しくて、俺が受けた拷問とは比べ物にならない恐怖だった。
これが本当に死ぬという事なんだと、薄れていく意識の中そう思った。

最後に見たものは、楠木が事故に遭った場所に供えられた花束だった。






慌てて起き上がり、荒くなった息を吐き出して落ち着く。
目の前に見えるのは森の木々で、いつの間にか地面に座っていた。

全身を見て確認して、傷が何処にもない事に安堵した。

俺の目の前に鳥が飛んでいて、木の枝に留まった。

『どう?元の世界に帰れたでしょ』

「何だよあれ、あんなの…」

『帰りたがってたから帰してあげたんだよ、僕は時を運ぶ鳥だからね』

「あんなの帰したって言わないだろ、俺…死んで…」

あの時の光景は、脳内にこびりつくようにあり気分が悪くなった。
傷はないのに、痛みはまだ残っているようで自分の身体を抱きしめる。

あれは、俺がこの世界に来る前に見た光景だった。
雨で身体が冷えて、俺は楠木が死んだ場所で同じように車に跳ねられた。

信じたくない自分がいるのに、現実を無理矢理受け入れさせようとしている。

元の世界に帰って皆が死んでいたら、可笑しい話だと思っていた。
無事に帰った異界人がいる方が自然だ、だから俺も希望があった。

でも、無事なのはこの世界に来る前が関係しているとしたら…

死ぬ前にこの世界に来た俺は、どうやっても死ぬしかないのではないのか。

「俺、車に潰された筈だけどなんで無傷なんだ?」

『それは君が死ぬ前に連れ戻したからだよ、頑固な人間は現実を突き付ければ信じるでしょ』

「これじゃあ死んだも同然じゃないか、元の世界に帰れない…?」

『だから諦めて魔王になっちゃいなよ!この世界で渡り歩くなら賢い選択だと思うよ』

鳥の言葉に今すぐ気持ちを切り替える事なんて出来ない。
しばらく放っておいてほしくて、とぼとぼと歩いた。

どのくらい歩いたのだろうか、洞窟の前で足を止めた。
見覚えがあるそこは魔物の巣窟に似ていて、入りたくなくて背を向けた。

俺の後ろにいつの間にか魔物達が立っていて、驚いて後ずさる。

「おー、ここが新しい拠点か!」

「おいお前、お前も早よ入れ」

魔物達は突っ立っていてなかなか中に入ろうとしない俺を押すようにして中に入った。
人間なのに、仲間意識を持たれているようで複雑な気分だ。

洞窟の中には、骸骨や少年の悪魔達が揃っていた。

俺が洞窟に入っても、見る事なく話し合いをしていた。
俺はいなくてももういらないんだなと、自分でそう思い込んで洞窟から出ようとした。

洞窟の前には、入り口を塞ぐほどの巨人が座り込んでいた。
隙間を通って外に出る事はほとんど不可能だろう。

「あのー、ちょっと外に出たいんでそこを…」

「ん?早く座れ!」

「いや、俺は…」
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