俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼

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魔王になる

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洞窟に入ると、夜遅いからか騒がしい声は聞こえなかった。
その代わり、イビキやら寝言やらが聞こえてくる。

洞窟内に響き渡るほど大きな声で、耳を塞ぎながら広い場所まで歩いた。
小さな灯りが見えて、少し歩みを早めると焚き火が見えた。

魔物達は適当な場所で眠っていて、焚き火の前には骸骨が座っていた。
俺の方を一瞬だけ見てから、再び焚き火の方に向いた。

「驚かないんだな」

「あの程度で死んでも誰も気にしない、生きて帰っても魔物について何も教えてないから人間達になにかを話したと慌てる必要もない」

「そう、俺が魔王になるって言っても気にしないのか」

俺の言葉に骸骨はこちらを見る事なく、カタカタと歯をぶつけて笑っていた。
「選りすぐりの魔王候補達の中で、人間のお前になにが出来るんだ?」と笑いを堪えながら聞いてくる。

そういえば、俺だけが魔王候補ではない事を思い出した。
それでもどんなに屈強な魔物相手でも負ける気はない。
魔物の上の立場である魔王になるってそういう事だと思うから。

周りを見渡して、誰が魔王候補かそうでないか分からない。
でも全員が相手だったとしても、俺は逃げたりしない。

笑いを終えて、骸骨は立ち上がりこちらに近付いてくる。
警戒して、両手を握ってファイティングポーズをした。

骸骨は俺の前に手をかざして、触れる事なく俺の身体は壁に叩きつけられた。
一瞬息が止まり、口の中が鉄の味でいっぱいになる。

慌てて息を吸うと咳き込んでしまい、口から血が吐き出された。

「うっ、ごほっごほ」

「そんなに魔王になりたいのなら、この場で殺してやろう…鍋になれば未来の魔王の栄養になれるだろう」

息をするのも痛くて、生理現象で涙が出そうになった。
俺はクレイドのように治癒力はない、どうしたらいいんだろう。

そう考えていたら、だんだんと痛みが引いていきすぐに動けるほどになった。

この力って、もしかしてクレイドのおかげなのか?

普通の結界と違って体内に結界を張ったと言っていたから、一瞬外傷はあるがすぐに治るという事だったのか?
首輪に触れて、心の中で感謝して前をまっすぐと向いた。

騒ぎに起き出した他の魔物達が俺に向かって距離を縮めてくる。

ピィが『ここで死にたくないなら今は逃げろ!』と脳を揺さぶるほど大きな声が響いて、洞窟から出るために走り出した。

今のは考えなしだった、魔王になると宣言するのは早かった。
自分より弱い人間が舐めた事を言ったら怒るのは当然だよな。
もっと修行してからもう一度骸骨に認めさせないといけない。

洞窟を出ても、魔物達が追いかけてくる複数の足音が聞こえる。

「何処か逃げられるところはない!?」

『集落、魔物の集落ならもしかしたら…』

ピィに案内されるままに走り続けた、足音がだんだん減っている事も知らずに…






・クレイド視点・

酒場の明かりが付いているだけの静かな街の中を歩く。
もう騎士達も外を出歩いてはいないだろうけど、俺はザット団長の代わりに外に出ているから変装は解く事が出来ない。

部屋に戻るまでの辛抱だ、部屋に戻ったら俺はクレイドになれる。

俺がどんな姿でも、疾風の前では素の俺に戻れる。
疾風は受け入れてくれる、俺を信じてくれる。

心の誰にも見つからない場所で俺達は繋がっている。
疾風が魔物を全滅する事を望めば、俺は全ての力を使って成し遂げる。

でも、疾風の望みは住み分けだ…力で解決するより難しそうだ。
それでも、疾風のお願いだ…俺はなんだってするよ。

考えただけでもまた興奮してきた、疾風が傍にいなくても考えるだけで心の奥底が熱くなる。
触れる度にそれは大きくなって、自分でも制御できない化物になりそうだ。

そんな俺でも、疾風は変わらず俺の名前を呼んでくれるだろうか。

「お帰りなさい!だんちょぉっ!!??」

城の門番に姿を見られて煩わしい声が聞こえてくる。
さっきまでの焼けそうなほど熱い気持ちが一気に冷えていく。

反応には何もリアクションせずに、城の中に入った。

少し汚れを落とした方が良かったな、あまり遅くなるとクレイドだと疑われるから帰ってきた。
俺が森をうろつくと、疾風の邪魔になるのも分かってる。
ずっと助けていたいけど、疾風がそれを望まない。

魔物に襲われた時ですら、自分達で解決しようとしているように見えた。
俺の名前を呼んでくれたらいいのに、疾風の事だから魔物の事は一人で背負うつもりなんだろうな。

だからこれは俺が勝手にした事だ、疾風には関係ない。
魔物の血で汚れた手のひらを見つめて、睨み付ける。

俺がいるかぎり、疾風に触れられると思わない事だな。

部屋に戻ると、俺の帰りを待たずにザット団長は寝ていた。
別にいいけど、おかげで疾風とまた会う事が出来た。

ただ、ザット団長は目的のためなら魔物を殺す事だって躊躇わない。
それだけは、唯一魔物と思考が同じで笑えてくる。

今後俺と疾風の邪魔をするようなら容赦はしない。

身体中に付いた血を洗い流してさっぱりしてから風呂から上がり、部屋に戻るために歩いていた。
先ほどまでは静かだった城の中はパニックを起こしたようで騒がしくなった。

疲れて眠いから、気にせず部屋に戻るとザット団長もいつの間にか起きていて部屋をウロウロしていた。
騎士団長のくせに落ち着きないな、俺よりも10歳上のくせに。

もう変装している理由はないから、仮面を外して髪色も元に戻す。

ザット団長は俺が帰ってきた事にすぐに気付かずに、今さらやっと気付いたのか近付いてきた。

「お前も今すぐ来い!」

「いや、仕事で眠いから」

「そんな事言ってる場合か!さっさと来い!」

部下を労るという気持ちを何処かに置き忘れたザット団長に無理矢理引っ張られて、部屋を出た。
ずっと俺を待っていたからかザット団長はきっちり騎士服を着ていた。
対する俺は、さっきまで風呂に入っていたからシャツにズボンというラフな格好だ。

こんなに慌てて俺とザット団長が行くほどの事なのか?

一瞬また誰かが魔物化でもしたのかと思ったが、すぐに違うと考え直した。

魔物化した現場にザット団長が自ら行く筈がない。、

どんなに親しい人が大変な事になっても俺に身代わりを任せるからだ。
そうすると、危ない事ではない…国王命令かなにかか?

玉座の部屋をノックなしで開けて、そのまま歩き出す。
普段なら勝手に入る事は王族でも許されないのに、今日は静かだ。

部屋には何人もの人がいるのに、皆それぞれ忙しそうに走り回っている。

「早くしろ!もうすぐ聖女様がいらっしゃるから迎える準備を…」

「聖女?」

指示を出している男を見てよく分からない事を言っている。
俺の呟きにザット団長が「召喚が成功したんだ!」と嬉しそうに答えていた。

そういえばそんな事言ってたな、すっかり忘れてた。
せめて明日にしてくれたらいいのに、迷惑な事だな。

聖女とかを迎えるために俺達は玉座の裏にある地下への階段を目指しているのか。
そこには召喚の間があり、ずっと騎士ではない魔導士達が異界から誰かを連れてこようとしていた。

どうせなら疾風を召喚してくれたらいいのに、なんでよりにもよって魔物側に召喚されるんだよ。

もっと早くに知っていれば騎士に捕まる前だったら、この国で幸せに暮らせたのに。

目先の目的しか見えてなかったあの時の俺を殺したい気持ちを押し殺して、ぶん殴ってやりたい。

「明日の朝の方がいいのに、他の騎士達も叩き起こされたんじゃ…」

「タイミングがあるだろ!これを逃すといつ召喚されるか」

さっきから嬉しそうなザット団長が心底気持ち悪い。

そういえば召喚される人間って性別決まってたっけ。
直前になると分かるのか、それでザット団長は嬉しいと…

誰が来てもどうでもいいけど、疾風の邪魔だけはするなよ。
もし邪魔になる相手なら、誰が相手でも俺は許さない。

俺的にはそのまま何もしないで帰ってくれたらそれでいいんだけどね。
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