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1章 家族
父と初めて向き合いました
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どのくらいの時間が経っただろうか、一瞬の気もするし何日も眠ってた気もする。ゆっくりと目を開けると知らない天井が目に入った。すごく意識が朦朧とする…どうやら高熱が出てるらしい。そして段々と朝日夢乃ではない別の人物の記憶が流れ込んでくる。
(あ、ここハツキミの世界だ…。私、悪役令嬢のシノン・アダマンタイトに転生したんだった…。)
シノンは今日で5歳の誕生日を迎えた。だが1週間ほど前から高熱を出し、生死の境を彷徨っていた。
(死にかけたから記憶が戻ったのかな…?でも生まれた時から記憶があったらオムツ替えやミルクで羞恥心を堪えきれずに困っていただろうから良かったかな…)
そんなことを考えながら重い体を少しだけ起こすと、隣を見て思わず悲鳴をあげそうになるがなんとか飲み込む。なんとめちゃくちゃイケメンの男性が椅子の背にもたれ、腕を組んで寝ているではないか。一瞬誰かと思ったが、私の中のシノンが覚えてる、だがこの人がここにいるわけないと心が叫んでる。おそるおそる、確認のために口を開いた。
「と、父様…?」
声が上ずってしまった。さっきから心臓がドキドキうるさい。嬉しさと驚きと緊張でどうにかなりそうだ。するとうっすらと父様が目を開けた。晴天の空のような薄い水色の瞳と綺麗な銀髪が朝日を受けてキラキラと光っている。私と目が合うとその端正な顔が徐々に驚きと喜びに染まる。
「シノン…?」
父様がおそるおそるこちらに片手を伸ばす。まるで触れたら壊れてしまうのではないかと恐れているかのように、ものすごく優しく私の頬を撫でる。
「父様…」
「シノン…!!」
私がもう1度父様を呼ぶと、思い切り父様が抱きついてきた。
「良かった…良かった…!!シノンまでいなくなったら私はこの世界でどう生きていけばいいんだ…!!」
「と、父様…苦しいです…」
慌てて父様は私を離したが、再び見た父様の顔は涙で濡れていた。初めて泣くのを見たかもしれない。父様は常に無表情で感情の起伏があまりなく、見た目とその実力も相まって、氷の宰相と呼ばれている。
私が父様がここにいることに驚いたのにはその呼び名も関係している。辺境伯と宰相の仕事の掛け持ちは多忙を極める。ほとんどは王都で宰相としての仕事をこなし、戻ってきたと思ったら領地の騎士達を鍛え直したり、数年に1度は隣国との小競り合いに赴いたりしている。さらに、アダマンタイト辺境伯家の領地は隣国と魔物の森の2つに面しており、父様は休みの日は自分の鍛錬の為に森に潜るため休日なんてものは彼にはないのだ。
だから父様が幻なのではないかと思うが、しっかりと抱きしめられ、そうではないことを思い知らされる。
「父様…どうしてここに…?お仕事はよろしいのですか…?」
「あぁ…もうあの時のような思いはしたくないんだ。」
私の背を支えつつゆっくり横たえさせると、父様はポツポツと話し始めた。
母様は産後の肥立ちが悪く、私が生まれてすぐに亡くなったがその死に際に父様は立ち会えなかったらしい。その時、隣国との小競り合いが大きな戦争に発展しそうで、どうしても父様が行かなければ抑えられなかったそうだ。修羅のように敵をバタバタと倒し、驚くべき速さで場を収め戻ってきたがもう母様は亡くなっていた。母様とは恋愛結婚で、すごく母様を溺愛していた父様は膝から崩れ落ち呆然としたそうだ。心も崩れそうになった時、私の泣き声でハッとさせられたらしい。この子は自分が守らなければならない、そしてこの子がもし母様のようになった時、傍にいれるように、と。
それから父様はさらに仕事に打ち込むようになったらしい。幼なじみであった王様から宰相にならないかと何度も何度も前々から打診されていたらしく、これを機に引き受けて国の膿を出し、隣国との関係を調整しようとしたり、領地の騎士達を鍛え上げて自分がいなくても大丈夫なようにしたり、自分自身も鍛え上げて例え自分が行かなくてはいけなくなったとしても1分1秒でも早く戻ってこれるようにしたりと、全ては私の傍にいれるようにするためだったらしい。
「結果的にシノンを不安にさせ、寂しい思いをさせていたのだな…申し訳なかった」
父様が頭を下げた。今度は私が慌てる番で、すぐさま顔をあげさせた。そして父様としっかり目が合うと、父様の綺麗な瞳が限界まで見開かれた。
「シノン…その瞳は…?!」
「瞳…?」
父様が手鏡を差し出してくれたが、なんだか嫌な予感がしてきた…そして私はおそるおそる手鏡を受け取った。
(あ、ここハツキミの世界だ…。私、悪役令嬢のシノン・アダマンタイトに転生したんだった…。)
シノンは今日で5歳の誕生日を迎えた。だが1週間ほど前から高熱を出し、生死の境を彷徨っていた。
(死にかけたから記憶が戻ったのかな…?でも生まれた時から記憶があったらオムツ替えやミルクで羞恥心を堪えきれずに困っていただろうから良かったかな…)
そんなことを考えながら重い体を少しだけ起こすと、隣を見て思わず悲鳴をあげそうになるがなんとか飲み込む。なんとめちゃくちゃイケメンの男性が椅子の背にもたれ、腕を組んで寝ているではないか。一瞬誰かと思ったが、私の中のシノンが覚えてる、だがこの人がここにいるわけないと心が叫んでる。おそるおそる、確認のために口を開いた。
「と、父様…?」
声が上ずってしまった。さっきから心臓がドキドキうるさい。嬉しさと驚きと緊張でどうにかなりそうだ。するとうっすらと父様が目を開けた。晴天の空のような薄い水色の瞳と綺麗な銀髪が朝日を受けてキラキラと光っている。私と目が合うとその端正な顔が徐々に驚きと喜びに染まる。
「シノン…?」
父様がおそるおそるこちらに片手を伸ばす。まるで触れたら壊れてしまうのではないかと恐れているかのように、ものすごく優しく私の頬を撫でる。
「父様…」
「シノン…!!」
私がもう1度父様を呼ぶと、思い切り父様が抱きついてきた。
「良かった…良かった…!!シノンまでいなくなったら私はこの世界でどう生きていけばいいんだ…!!」
「と、父様…苦しいです…」
慌てて父様は私を離したが、再び見た父様の顔は涙で濡れていた。初めて泣くのを見たかもしれない。父様は常に無表情で感情の起伏があまりなく、見た目とその実力も相まって、氷の宰相と呼ばれている。
私が父様がここにいることに驚いたのにはその呼び名も関係している。辺境伯と宰相の仕事の掛け持ちは多忙を極める。ほとんどは王都で宰相としての仕事をこなし、戻ってきたと思ったら領地の騎士達を鍛え直したり、数年に1度は隣国との小競り合いに赴いたりしている。さらに、アダマンタイト辺境伯家の領地は隣国と魔物の森の2つに面しており、父様は休みの日は自分の鍛錬の為に森に潜るため休日なんてものは彼にはないのだ。
だから父様が幻なのではないかと思うが、しっかりと抱きしめられ、そうではないことを思い知らされる。
「父様…どうしてここに…?お仕事はよろしいのですか…?」
「あぁ…もうあの時のような思いはしたくないんだ。」
私の背を支えつつゆっくり横たえさせると、父様はポツポツと話し始めた。
母様は産後の肥立ちが悪く、私が生まれてすぐに亡くなったがその死に際に父様は立ち会えなかったらしい。その時、隣国との小競り合いが大きな戦争に発展しそうで、どうしても父様が行かなければ抑えられなかったそうだ。修羅のように敵をバタバタと倒し、驚くべき速さで場を収め戻ってきたがもう母様は亡くなっていた。母様とは恋愛結婚で、すごく母様を溺愛していた父様は膝から崩れ落ち呆然としたそうだ。心も崩れそうになった時、私の泣き声でハッとさせられたらしい。この子は自分が守らなければならない、そしてこの子がもし母様のようになった時、傍にいれるように、と。
それから父様はさらに仕事に打ち込むようになったらしい。幼なじみであった王様から宰相にならないかと何度も何度も前々から打診されていたらしく、これを機に引き受けて国の膿を出し、隣国との関係を調整しようとしたり、領地の騎士達を鍛え上げて自分がいなくても大丈夫なようにしたり、自分自身も鍛え上げて例え自分が行かなくてはいけなくなったとしても1分1秒でも早く戻ってこれるようにしたりと、全ては私の傍にいれるようにするためだったらしい。
「結果的にシノンを不安にさせ、寂しい思いをさせていたのだな…申し訳なかった」
父様が頭を下げた。今度は私が慌てる番で、すぐさま顔をあげさせた。そして父様としっかり目が合うと、父様の綺麗な瞳が限界まで見開かれた。
「シノン…その瞳は…?!」
「瞳…?」
父様が手鏡を差し出してくれたが、なんだか嫌な予感がしてきた…そして私はおそるおそる手鏡を受け取った。
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